メンデンスでの過ごし方 スタンダスタ編
「ごめん、ボクも出かけてくるよ。メンデンスを写真で収めたいからね!」
スタンダスタは宿屋を後にした。そして、走るリオの後姿を見送ったあと、リオとは逆方向へと歩き出した。
かつては、歩道も整備されていたが観光客が来なくなってからは手つかずになっており、一面に雑草が生い茂っている。周りの建物が素敵なものばかりなだけに、もったいない。
「んー。確かに、本で見た景色ではあるんだけど、この状況はお世辞にも絶景とは言えないな、、、」
本で見ていた、憧れのメンデンスではない。しかし、これが現実である。そんな現実を受け止めると同時に、このメンデンスを写真に収めたいとも思った。
「この事実を伝えるのが、ボクの使命なのかもしれない。・・・このカメラで。そして、今のメンデンスを変えるのもボク達に出来ることかもしれない。小さなことからこつこつと・・・頑張りますか」
スタンダスタは、シャッターを切る。少し歩いては、またシャッターを切る。
「あれ、、、なんで、、、涙が、、、あはは」
なぜだろうか、次第に涙が溢れ出してきた。憧れのメンデンスの街を目の当たりにし、嬉しくて泣いているのか。はたまた、変わり果てたメンデンスを目の当たりにして、悲しくなり泣いているのか、、、スタンダスタ自身にも理解が出来ない涙であった。
そうは言っているが、悪いところばかりではない。この地にしか生息していないと言われている生物が目の前を横切った。
「あ!!ワドルフォクサーだ!!」
スタンは、驚くや否やシャッターを切った。警戒心が強いのか、気が付いたら物陰に隠れてしまっていた。
・・・ワドルフォクサー。鼻が長く、爪も長い。キツネに似ている。嗅覚が非常に強く、約5km先の匂いもかぎわける事ができる。その嗅覚のおかげで、生物が近づこうものなら、それに気づきすぐその場から逃げ去ることが可能である。
・・・つまり、目の前に現れるなど奇跡中の奇跡なのだ。スタンダスタが驚くのも無理はない。
「うわぁ、今の撮れてたのかなぁ・・・」
すぐに、中を確認した。正直、かなり焦っていたのでたとえ写っていたとしても、ブレているのではないかと、、、
「よし!!体全体も顔もしっかり写っているし、ブレていない!」
かなりの出来に、スタンダスタは大きくガッツポーズした。
成果として十分すぎる写真が撮れたのだが、まだまだ有り余る位時間はある。スタンダスタは引き続き、メンデンスの探索を始めた。
歩くにつれて、建物はだんだんと少なくなり、気付いたら行き止まり・・・・
ではなく、洞窟への入り口があった。
「なんて興味をそそられる洞窟なんだろう、、、入りたい。でも怖い!!」
探求心が勝つか、恐怖心が勝つか・・・・・
スタンダスタは懐中電灯を取り出し、恐る恐る洞窟への一歩を踏み出した。探求心の勝利だ!
いきなりだが、「人工物」とは人が手を加えて作られたものである。人が「創造」して、理想的なものを作り上げる。しかし、人の創造には限界がある。
「予測不能」「奇想天外」
そして、人々が想像もつかないような物を「自然」は作りあげてしまうのだ。
スタンダスタの目の前に広がる光景は、自然が作り上げた「絶景」だった。
長い年月をかけて、石灰岩が溶食されて出来た「鍾乳洞」である。
氷柱のように細く長いものから、天井から地面まで繋がっている太く長いもの。
言葉では説明できないような、歪な形まで・・・様々な鍾乳石がそこにはあった。
「なんだよこれ・・・本でも見たことないよ、こんな所!」
スタンダスタは口をポカンと開けながら、めいっぱいに見上げる。
「写真を撮る」という本来の目的を忘れ、ただただ時間が過ぎていった。
今ここには自分しか居ない。この絶景を今自分だけが「独占」している。
・・・ダメだ。こんなことを思ってはいけないのかもしれない。
これを誰にも見せたくない。
まぁ、かつて観光地として栄えていた頃はかなりの人たちがこの鍾乳洞を訪れ、感動していたのだろう。
そして、写真を撮ることによってもっと沢山の人達にこの鍾乳洞の素晴らしさを伝えることが出来る。
とても良い事じゃないか。良い事なんだけどさ・・・
ほかの人に知られてしまう事に、なんだか寂しさを感じてしまったんだ。
自分だけの物を誰かに盗られてしまうような・・・「自分だけの物」なんかじゃないのにね。
・・・邪な気持ちを捨て去り、我に返ったスタンダスタは一面に広がる鍾乳洞の写真を撮り始めた。
写真を撮ってる途中に、スタンダスタはあることに気づいた。
「・・・あれ?まだ先があるじゃん!なんだろう?」
奥に行くと、一人がやっと入れるくらいの小さな横穴を見つけた。しかし、それは鍾乳洞とは違って明らかに人の手が加えられて作られた穴の様だ。
今更引き返す、という選択肢はない。スタンダスタは少し屈みながら中へと入っていった。
歩くにつれて、だんだんと周りが広くなっていく。ここは誰が、何のために掘ったのだろうか。そんな好奇心が自然と歩を進ませた。
途中で気づいてはいた。その先に見える、大きな「石像」の存在を。
行き止まりと共に、約3メートル程の大きな石像がスタンダスタを迎え入れた。
なぜ人々は石像を作るのだろうか、、、、
・・・石像を作りたかったから。
決して、全ての事に「理由」がある訳ではない。「意味」がある訳ではない。
なぜボクがここに居るのか?
・・・ここに来たかったから。これと同じなのだ。
考えるのも面倒くさかった。ここに芸術的で素晴らしい石像がここにある。
・・・それで良いじゃないか。
ボクはこの石像を目の前にして、非常に感動している。
「だけど、これは一体何のポーズなんだろうか、、、」
石像は、なぜかダブルピースをしている。そして、胡坐をかいている。しかしよくもまぁ、こんな器用に作れたものだ。
「うん、まぁいいや。とりあえず、写真っと・・・」
スタンダスタは一枚写真を撮った。
「うん、良いね・・・ん???」
撮った写真を確認すると、少しおかしな所を見つけた。というか、かなりおかしかった。
「絶対違うよね??」
ダブルピースだったはずの手は、右手は上がって左手は下がっている。そして、それぞれ親指と人差し指を合わせて輪を作る、所謂okサインになっていた。とある遠い国では、阿弥陀如来という仏像がやっている来迎印という形にとても似ている。というか、それであった。
写真を見ていたスタンダスタは、恐る恐る顔を上げて、目の前にある石像を見てみた。
石像は写真に写っている通りに、手は来迎印の形をしていた。
・・・絶対動いたよね??
そう思った数秒後である。
「あーあー・・・そこの君」
どこからか声が聞こえてきた。しかし、ここに居るのはボクしか居ないはず・・・
「私だよ私。君の目の前にいる石像だよ!!」
やっぱりだ。この石像から声が聞こえているんだ。それでもスタンダスタは冷静であった。今まで不思議な出来事をたくさん経験してきたからか、石像がしゃべる「程度」では驚かなかった。
「あ、こんにちは」
「え・・・こんにちは」
「初めて会う人には「挨拶」をしなさい!」
スタンダスタの母のミルディアに、昔から耳にタコが出来るくらいに言い聞かされていたことだ。果たして石像を「人」と捉えて良いものなのか・・・悩んだ挙句、スタンダスタは、とりあえず挨拶をしてみた。
「君・・・この状況、驚かないの??」
「こんなことで驚いていたら、体が持ちませんよ!そんなことより、質問良いですか??」
「答えられる範囲で答えてあげよう」
「なぜしゃべれるんですか?」
「じゃあ、君こそなぜしゃべれるんだい?」
「質問に対して質問で返さないでください」
「あ、すいません・・・」
「で、何でしゃべれるんですか?」
「気づいたら、しゃべれるようになった」
「おいくつなんですか?」
「分からない。でも、恐らく君が生を受ける何十年、何百年も前から私はここにいる。」
「・・・寂しくはないですか?」
核心を突く一言だった。
「寂しくない・・・と言ったら、嘘になる。でも、私が石像として生まれたからには石像としての責務を全うしなければいけない。だから、私はここにいる。・・・でも、最近思うんだ。なぜ、私はここに居るのかと。私の「責務」とは一体なんなんだと。」
「どうして、こんな所に私を作ったのかと。」
石像の心の叫びだ。きっと彼が「人」として生を受けていたら、もっと沢山やりたいことがあったのだろう。もし、自分が同じ立場だったら?・・・考える程「絶望」の二文字しか出てこなかった。
「人間の無責任な行動によって、石像さんはこんな所に居るんですね。そして、作り終えたらもう満足してしまったのでしょうか・・・本当の答えは、石像さんを作った本人にしか分からないでしょう。「石」なんかに心はない。そんな固定概念に、石像さんは苦しんでいたんですね。・・・今、何がしたいですか?」
「そうだね、外の世界を見てみたいかな、、、でも、これはこれで楽しいもんだよ。私は他の石像とは違って喋ることができるし動くことだってできる。それに・・・「意思」だってある。「石」だけにね。」
「最後ので雰囲気が台無しです」
「悪い悪い・・・でも、久しぶりに楽しかった。君には感謝の気持ちで一杯だよ。最後に私からも、質問していいかい?」
「はい、何でしょう?」
「君の夢はなんだい??」
「・・・まだ見ぬ世界を、このカメラに収める事ですかね。」
「そうかい。君にはその夢を叶える「可能性」がある。そして「力」がある。決してそれを無駄にしてはいけないよ。諦めなければ自ずと道は開かれるはず。私には出来ないことを君には出来るんだよ。」
「石像さんの夢は何ですか?」
「・・・人として「生まれ変わる事」かな」
「・・・応援してます」
最後にスタンダスタは石像の写真を1枚撮った。石像の指はダブルピースに戻っており、少しだけ微笑んでる様にも見えた。




