不思議の国のメンデンス
「こぼしたのはこの私さ」
スタンダスタは彼の言ってることが理解できなかった。
「どういうことですか?、、、、それじゃ、二人ともあなたに気づくはずじゃないですか!?透明人間じゃあるまいし・・・」
「じゃあ、私が透明人間だとしたら?」
「ボクが言ったのは、もしもの話です。そんな事あり得ません。現に今、僕の目にはあなたが映っているんですから。」
「「君には」見えてるんだよ。君にだけね」
彼は、近くにいたリオの肩をポンポンと叩いた。
「、、、ん?誰よ?あたしの肩を叩いたのは!」
スタンダスタから見ると、リオと彼はしっかりと向い合わせになっている。目も合っているはずだ。
「ね?見たでしょ?私の姿は君以外には見えていないんだ。では、問題。君には見えて、他の人には見えない。そんな私の正体は?」
「そんなのボクが聞きたいですよ!あなたは何者なんですか!?」
「んふふ、人が多いところでは何だし、もっと静かな所で話そうか。あ、心配するだろうからお連れさんにはちゃんと事情を話しといた方が良いと思うよ?・・・信じてくれるかは分からないけどね。」
確かに、、、と思い、スタンダスタはリオに話しかけた。
「あのさ、、、、」
「ちょっとスタン、あんた何一人でべちゃくちゃしゃべったのよ??」
どうやらホントに彼の事は見えていないらしい。
「いや、、、実はね、ボクの隣には男の人が居るんだけどね、、、」
「・・・あんた何言ってんの?」
「いやー信じてくれないかもしれないけど、今隣に、トンガリ帽子を被って青色のロングコートを着た男の人が確かに居るんだよ。どうやらボクにしか見えないらしいんだよね」
スタンダスタに紹介されると、彼はリオに向かって手を振る。
「どうもー」
・・・
姿はもちろん、声もスタンダスタ以外には聞こえていないらしい。
「で、何でボクにだけ見えるのか、教えてくれるらしいから、、、ちょっと違う場所でお話をしてきます。」
リオは腕を組み、数秒間黙ったのちに口を開く。
「・・・まぁスタンがそう言うなら、ホントなんでしょうね。いいわ、あたしはあたしでレストランの事調べるから、さっさと行ってきなさい」
リオはその場を離れ、立ち見の客から聞き込みを始めた。
「・・・ここを出てすぐの所に小さなカフェがあるんだけど、そこに行こうか。」
「あ、はい」
スタンダスタは、彼に言われるがまま付いていくことにした。
カジノを出てすぐ向かい側に、こじんまりとした小さなカフェがあった。
「カランカラン」
彼が、店のドアを開けた。
「いらっしゃい。あ、御一人かい?カウンターで良いかな?」
店のマスターはスタンダスタの顔を見ている。
「・・・あ、すいません。後からもう一人来るかもなので、テーブルでも良いですか?」
「良いよ、好きな所座りな」
スタンダスタは、入り口から一番遠い角のテーブル席に座った。
「ここならボクら・・・ボクの声もマスターの耳には届きませんよね。」
「ん?どうして?」
「端から見たら、ボクが独り言をしゃべってる様に見えるでしょ!!」
「んふ、面白いね。スタンダスタ君は」
「恥ずかしくて堪りませんよ・・・あれ?ボク名乗りましたっけ?」
「さて、色々とお話しようか。まず早速だけど、私は君と・・・いや、スタンダスタ・クルール君と既に一度会っているんだ。覚えていないかい?」
「会っている?あなたと・・・ボクが?」
自分の名前を知られている上に、一度会っている?何度驚かしたら気が済むんだ、と言わんばかりの情報量。スタンダスタは村を出てからの記憶を整理してみた。
・・・・・・・・・・・
「あーーーー!!」
何か思い出したのか、スタンダスタ、は声を出すと共に勢いよく立ち上がった。
「ベルがあるから、それで呼んでくれれば良いんだよ、、、で、何にするんだい?」
スタンダスタの声に反応して、マスターがオーダーを取りにやって来た。恥ずかしさで赤らめた顔を、すっと軽く俯けた。
「あ・・・アイスコーヒー」
注文を頼もうとした時、彼と目が合う。
「・・・2つで」
「2つ?何なら大きいサイズにしようか?」
「いえ、この後来る子の分ですので。」
「あーそうだったね。飲み物だけで大丈夫かい?何かデザートとかは?」
「じゃあ、ティラミスとモンブランを。」
「はいよ!」
マスターが持ち場に戻ったのを確認してから、スタンダスタは話し始める。
「・・・そう!もしかして、ビーノ・カストロイド号で会いましたか?「君たちとはまた会いそうな気がするよ」とか言ってた」
「・・・ご名答」
「やったー!・・・じゃないですよ!そもそも、あなたは何者なんですか!?そして、何でボクの名前を知ってるんですか!!」
スタンダスタは、核心を突く質問を投げ掛けた。それに対して、彼は至って冷静に質問に答える。
「私の名前は「ベンジャミン・アネックス」ここから遥か遠い「メンデンス村」のメンデンス族の生き残りだよ。」
「メンデンス?・・・あ、聞いたことある!森の奥深くにある通称「不思議な村」って所ですよね!確か、村の情報が余りにも少ないから架空の村なんじゃないかとか言われてる・・・」
スタンダスタは「メンデンス」というキーワードをやたら鮮明に覚えていた。それは、小さい頃「メンデンスの秘密」という本を良く読んでいたから。この本は、メンデンス村で起こった様々な出来事を面白おかしく書かれている絵本である。
「でも、メンデンス村ってホントにあるんですね。作り話だと思ってました。え、じゃあ村の住人たちは、他の国の人たちには「見えない」存在って本当なんですか?・・・あっ」
「気づいたかい?スタンダスタ君。そう、私たちメンデンス族は、村の人以外には見ることの出来ない、所謂透明人間と言ったところなのかな。しかし、君は私の事が見えている。スタンダスタ君、君は他の人とは違う「特別」な存在だということさ。」
「「特別」・・・良い響きですね。」
嬉しさが顔と言葉に出てしまい、スタンダスタの顔はかなりにやけていた。
「スタンダスタ君は、少しメンデンスの事を知っているようだね。それじゃあこれを聞いたことないかい?「心の目がありし者こそメンデンスを救う勇者なり」これは、昔から村に伝わる言い伝えなんだよ。普通の人たちには見えない私たちの存在、そんな私たちを見る方法、それは「心の目」を持つこと。その「心の目」を君は持っていることになる。私はね、そんな君を探していたんだ。スタンダスタ君!」
「はい!!!」
ベンジャミンはスタンダスタの名前を力強く言う。その一言で、雰囲気が一変した。にやけていたスタンダスタも、少しばかり険しい顔になった。
「・・・私たちの村を救ってくれ。」
「ボクが村を救う!?」
店内BGMにも負けない位大きな声でスタンダスタは驚く。
「はいはい、お待たせしたね。アイスコーヒー2つと、ティラミスとモンブランね。」
客に急かされたと思ったのか、マスターが急ぎ足でコーヒーとデザートを持ってきた。
ベンジャミンは、熱々のコーヒーを一口すすると 流れ作業の様に手に持っているスプーンをティラミスに伸ばし口に移す。
スタンダスタは、驚きと興奮でマスターが来たことすら気付いていなかった。
気づいたときには、ティラミスがなくなっていた。
「・・・あ!ちょっと!全部食べたんですか!?ボクも食べたかったのに、、、」
「ごめんごめん、ここのお代はボクが払うから、、、」
「あ、良いんですか?ありがとうございます・・・ というか、村を救うって一体何があったんですか?」
「・・・今、メンデンスの森が無くなりそうなんだよ。原因は分かっている、、、隣のロッシャードのせいさ」
ロッシャード?聞いたことのない言葉に、スタンダスタは首をかしげる。
「ロッシャードって何なんですか?ボクが見てた本でも、そんな言葉を目にしたことないです、、、」
「ま、ただでさえメンデンスの事を知らない人が多いからね。ロッシャードの事なんて知らなくて当然だよ。ましてや、私たちでさえ知ってるようで知らないようなもんだから・・・」
・・・そろそろ、何が分からないのかが分からなくなってきた。ひとまず、スタンダスタは少し冷めたコーヒーをゴクゴクと飲み干した。
「ロッシャードは、メンデンスの隣にある村なんだよ。とはいえ、村との交流はほぼゼロに近い、、、いや、ゼロなんだよ。だって見たことがないんだもの。ロッシャードの人たちを。」
「見たことがない?なぜですか?」
「だって、「見えない」んだもの、彼らの事」
「は?見えないって、メンデンスの人みたいにってことですか?」
「そういうこと。ここの人たちが私の事を見ることができない様に、ロッシャードの人を、私たちメンデンスの人たちは見ることが出来ないんだよ。」
「・・・全部ではありませんが、なんとなく理解したつもりです。あの、、、ロッシャードの人とは関わりがないんですよね?何もしてないのに、なぜロッシャードの人はメンデンスの村を攻撃するんでしょうか?そもそも、どうやって攻撃しているんでしょうか。」
「お、興味出てきた?」
ベンジャミンを見てる限り、村が壊滅的危機に陥ってるとは到底思えない位能天気な態度だ。そのせいで、イマイチ現実味が無く、スタンダスタは少し拍子抜けしてしまった。
「なんだか、あなたの話を聞いてる限りそんな大変な事が起こってるだなんて思えないんですよね。もちろん、信じていないわけではないのですが、、、」
「スタンダスタくんはさ、遅刻とかしたことある?」
「え、いきなりなんですか?・・・まぁ、したことはありますけど、、、だから何ですか?」
「10時集合なのに、11時に起きてしまった、、、こういう時って焦るどころか、逆に落ち着いちゃうんだよねー。優雅に紅茶なんか飲み始めちゃったり・・・今そんな感じなんだよね!」
「それとこれとは、全然訳が違いますよ!!村の命運が掛かってるんですよ!!」
「そうだね、村の命運は君に掛かってるんだよ、スタンダスタ君!」
「・・・はぁー」
これが文化の違いなのか、、、スタンダスタは思わずため息が出てしまった。
「とりあえず、メンデンス村に行きましょう。今こうして、話を聞いてる内にも、村が危ない目に遭ってるんですから。」
「うん!そう来なくっちゃ!」
まるでこれから遠足に行くかの様にスタンダスタを誘っている。これ以上話を聞いてもらちが明かない、そう思ったスタンダスタはカフェから出る用意を始めた。
「それじゃリオ達に事情を話してきます。しばらく一緒には居られないって。」
「ん?みんなで行けば良いじゃない?」
「え?大丈夫なんですか?」
「もちろん!みんなで来た方が楽しいでしょ?」
「・・・呼んできますね。」
リオになんて説明しようか・・・自分なりに頭の中で整理をした。
「マスター!お金置いときます。でも、また戻ってくると思いますので、テーブル開けといてください!」
「はいよー」
ある程度まとまった所でスタンダスタは急ぎ足でカフェを飛び出し、カジノへと向かった。
カジノの中へ入り、バースペースへと向かう。辺りは落ち着いている所から、どうやら、先程までの言い争い事は終息を迎えたようだ。
「スターン!こっちよ!」
スタンダスタがキョロキョロと辺りを見回していると、それに気づいたリオが手を挙げて声を掛けてくれた。スタンダスタはリオの元へと駆け寄る。
「リオ!やっと見つけた!」
「見つけたじゃないわよ・・・それより、良い情報を聞けたわ!どうやら、あのレストランはメンデンスって村の人たちが経営してるらしいわよ。」
「メンデンスだって!?」
「な、何よ!そんなに驚いて!」
「だって、さっき話してた人が正しくメンデンス族の人なんだよ!」
「・・・へーなるほどね。で、その人はなんて言ってたの?」
「村が危ないとか、なんとか」
「ふーん。・・・でも、危ないのはあながち間違いではないのかも」
「え?あながち?どういうこと?」
リオは何かを悟ったのか、うんうんと頷く。
「ま、とにかくメンデンス村に行ってみましょ。ガルは、さっきホテルに戻るって言ってたけど・・・すぐ戻ってくるでしょ。・・・さぁ、益々楽しくなってきたわ!」
「楽しいだなんて、村が大変な目に遭ってるのに縁起悪いよ」
「大丈夫よ心配ないわ・・・」
リオは、バーで聞き込みして得た情報と、スタンダスタがベンジャミンから聞いた「村が危ない」という言葉から、大体の状況を理解することができた。
簡潔に言うと、スタンダスタは「騙されている」のだ。それでも、その事実をスタンダスタ本人に伝えないのは、その方が「面白くなりそう」だから。スタンダスタの驚く姿が見たいという、リオのSっ気が垣間見えた瞬間だった。
暫くして、ホテルからガルが戻ってきた。心なしかテンションが低いのは、3人共同で使っている財布のお金が大分少なくなっている所から大方予想がついたが、だれもその事に触れることは無かった。
三人が揃い、カジノを後にする。向かい側のカフェのドアを開けると、店の奥のテーブル席にポツンと佇んでいるベンジャミンを、スタンダスタだけが確認することができた。




