不敵な笑みの正体は
ホテルのチェックインを済ませたスタンダスタとリオは、部屋へと向かう。ここ、ホテル「レトレスタ」は有名ホテル専門紙による、外装、内装、ホテルマン一人一人の能力等々の総合評価が最も高い、云わば「世界一のホテル」なのである。そんな世界一のホテル、さぞかしお高いのかと思いきや、意外とリーズナブル。それは、レトレスタに併設されてる「カジノ」での儲けがある為、安い価格で宿泊することが出来るのだ。
「こーんな豪華なのに、一人一日2000ベルって安すぎだよね!」
「そうね、安すぎて逆に申し訳ない気持ちになっちゃうわよ。でも、この安さを実現できるのはカジノで大量にお金を使ってしまう大人達のお陰なの。だから、感謝しなくっちゃね!・・・ってフロントのお姉さんが言ってたわよ。」
「ホテル側は、しめしめ・・・って思ってるんだね。怖い怖い、、、」
「違うわスタン、本当に怖いのはそんな事を思われてるなんて知らずに、財産を注ぎ込んでしまうギャンブル中毒な大人達よ。スタン、そんな大人には絶対なっちゃダメよ?」
「それは、フェリーに乗ってるときに「絶対なりたくない」って誓ったから大丈夫だよ」
「でも、一度はカジノに行ってドカン!と大儲けしたいわよね~」
むしろ心配すべきなのは、リオの方かもしれない・・・
話ながら歩くこと数分、迷うことなく部屋へと辿り着いた。
カードキーを持っていたスタンダスタが、部屋のドアを開ける。
ドアを開けた瞬間、目の前には二人が見たことのない光景が広がっていた。
まず天井の高さに驚いた。今までのホテル、客室というものは思いっきりジャンプすれば手が届くくらいの高さであったがホテル「レトレスタ」は違った。
「見て!リオ!すごい天井高いよ!!」
5メートルは優に越える程の高さで、スタンダスタの声が部屋中に響き渡るくらいだ。そして、天井からぶら下がっている大きなシャンデリアが部屋の豪華さをより一層引き立てている。
「あんなものがあの高さから落ちてきたら、一溜まりも無いわね」
「ちょ、リオ!!そんな怖いこと言わないでよ!!」
「・・・バン!!!!」
「あーーーーーーー!!!!」
何か床に叩きつけられた様な鈍く大きな音と共に、スタンダスタの叫び声が部屋中に響き渡る。この部屋のすごいところは、大声で叫んだ所で隣の部屋の客人にすら全く聴こえない位の完璧な防音性能。スタンダスタの迷惑な位でかい声が誰かに届くことはなかった。
リオはわざとらしく口に手を当て、驚く。
「あーらいけない!お姉さまの大事な大事な形見の剣を、床に落としてしまったわ。」
「剣をテーブル代わりにしてご飯食べてるくせに、何が大事な大事なーだよ!!あのシャンデリアが落っこちてきたかと思ったじゃんか!・・・感じたよ、風を感じたよ!多分ボクのすぐ横に落ちてきたよ!少しでも動いてたらボク危なかったよ!てか、お姉「さま」とか言ったことないでしょ!!」
「良かったわね。当たらなくて」
今すぐにちょっとした心理ゲームを彼女にやらせたい。まぁやらなくても結果は分かってる・・・絶対サイコパスだよ。
リオは大剣を両手で起こすと、壁に立て掛けた。自分の体より大きな剣ではあるが、最近ではそれを軽々と持ち上げている。毎日持ち歩いているだけでも、かなり鍛えられているのだろうが、女の子であるリオにとっては、なんとも複雑である。
スタンダスタは驚きで力が抜けていた体を必死に動かし、ベッドにたどり着くと同時にバタンと倒れ込んだ。それから数秒後、何かを思い出したかの様に喋り始めた。
「あ、ガル探さなきゃ。リオはどうする?」
「ごめんなさい、あたしは少し休んでるわ。スタン一人で探してきて。」
「うん、分かった!でもボクも少し休んでから行くとするよ」
・・・
・・・
・・・
・・・
「はっ」
ふと目が覚めると部屋には誰もいなかった。「少し休んで」とは言っていたが、時計を見るとベッドに入ってから実に8時間が経過していた。
スタンダスタが寝ている間、リオは何度も起こしたが起きる気配はなかった。フェリーでの一件、ガルの食あたりの件、知らず知らずの内に疲れが溜まっていたのかもしれない。そう思い、リオは途中で無理に起こすのは止めてガルを探しに出掛けていたのであった。
「リオ、探しに行ってくれたんだ・・・」
自分も早く行かねばと、枕元に置いてあったカメラを手に取り部屋を出ようとした。
「ガチャ」
「起きてるかしら!!・・・って、起きてるじゃない!起きてるならそう言いなさいよ!」
部屋のドアを開けた瞬間、目の前にスタンダスタが居たのでリオは驚いた。てっきりスタンダスタは、まだ寝ていると思っていたからだ。
「ごめん、今起きたんだ。ガルを探しに行ってくれてたんでしょ?ありがとね。・・・で、ガルは見つかった?」
「えぇ居たわよ。」
「え?でも、、、」
スタンダスタは、部屋の外を覗き見る。
「ここには居ないわよ」
「じゃあどこに?」
「さぁ?」
「さぁって!連れてきたんじゃないの!?」
「見つけて、ホテルの部屋番号を教えたら「じゃ、また後で!」って言って、何処かに行ったわ。まぁ、部屋教えたわけだししばらくしたら戻ってくるでしょ。」
「それなら良いけど、、、何か用事でもあったのかな?」
「そういえば、、、別れるとき、「ポーカーポーカー」とか言ってたわね、、、」
「まさか、、、、ね」
「スタン、言いたいことはよーく分かるわ。でも、男ってホント好きよね、、、「賭け事」」
「やっぱそうじゃん!!!」
スタンダスタは、リオとの会話からガルが何処へ行ったかを悟った。
「ま、中毒者予備軍の事は放っておいて、あたしたちは聞き込み調査よ!レストランの正体を暴かないとね!」
「中毒者予備軍って酷い言われ様だ、、、あ、そうだね!!その為にこの街に来たと言っても過言じゃないもんね!!でも、何処で聞き込みするの?」
「そりゃ、人が一番居るところに決まってるでしょ!!」
「それってもしかして・・・」
「・・・さぁ行くわよ!!!」
リオを先頭に、二人はホテルのロビーを抜け外に出た。そして、ホテルに併設されている建物へと向かった。言わずもがなだが、カジノである。
「ねぇボクたちって仮にも16歳だよ?カジノって入れないんじゃないの?そりゃフェリーの時はさ、船長に頼まれてた訳だし・・・でも今回は」
「大丈夫よ。」
そう言うリオの顔はやけ勝ち誇った様な顔である。
「リオの大丈夫は心配なんだよなぁ~。ボクは嫌だよ?強行突破ー!!とかは!」
「だから大丈夫って言ってるじゃない!・・・良い?ここサスラダバータのカジノは、法律による入場制限が規制されてないの。つまり、何歳でもカジノホールに入ることが出来るのよ!!!」
「なんで知ってるんだよ・・・」
遠い遠い国のカジノでは、21才以上しか入場することが出来ない。しかし、ここサスラダバータのカジノは特別年齢制限は設けていない。その為、スタンダスタやリオも16才ではあるが、入場できるのである。
それは大きな両開きのドアの前には、スーツの男が二人立っており、そのうちの一人が声を掛けてきた。
「君たち・・・ずいぶん若いね。あまり熱中しすぎると痛い目に合うから、ほどほどにな」
「はーい!」
二人は手を挙げ、大きな声で返事をすると、ギギギと音を立てながらドアマンの二人が大きなドアを開けていく。
人間、あまりに驚くと声が出なくなってしまうもの。それを体現してるがごとく、二人はカジノの内装が目に入ってから暫くの間、口を開いたまま固まっていた。
まず、ビーノ・カストロイド号に併設されていたカジノとは比べ物にならない位の広さを誇る。単純計算で、約10倍の広さはあるだろう。
そして、一番驚いたのは目に入る至る所全て「金」「金」「金」・・・これでもかと言わんばかりに、金で装飾が施されている所であった。
「うわぁ、、、すげぇ」
とにかく、何が凄いのかと言われたら困るのだけど・・・スタンダスタには、それを表現するためのボキャブラリーが無かった。
「圧巻ね、、、なんて驚いてる場合じゃないわ。何処かに溜まり場があるはずよ。探しましょ!」
あくまで、ここに来た目的はギャンブル・・・ではなく「レストラン」についての聞き込みである。二人は浮ついた気持ちを切り替えて、人が集まる場所を求めて辺りを探し始めた。
「ねぇ、あそこなんか良いんじゃない?」
探し始めてすぐに、カジノ内に併設されているバーをリオが見つけた。
カウンターは8席だけだが、カウンターの周りが広範囲で立ち飲みゾーンとなっているため、大勢のギャンブラーがカクテルを飲みながら談笑して・・・
・・・ん?
談笑と言うより、怒号のようなものが聞こえてくる。どうやら男性二人が言い争いをしているようだ。
「てめぇじゃなきゃ誰がやったってんだよ!!!」
「そんなこと言われても・・・」
見た目からして強そうな大柄の男が、ひょろひょろのか弱そうな男に対し一方的に言い詰め寄っている。スタンダスタは近くにいた野次馬の一人に話を聞いてみた。
「あのーあれは何があったんですか?」
「ん?あれはね、大柄の男のカクテルを隣の奴がわざとこぼしたとかこぼしてないとか、、、ふふふ」
状況を説明しながら、彼はクスクスと笑みを浮かべている。
「何か可笑しいですか?」
「愉快、実に愉快だよ」
「えっ」
「・・・ごめん、ごめん。所で君は、「見えない」ものを信じるかい?
質問を質問で返された。それも、この場とは全く関係ない事だ。
「え、見えないものですか?んー見えない以上、存在を確認する事は出来ないですよねー。透明人間だって仮に居たとしても、透明である以上ボクらは見ることが出来ないので存在を否定せざるを得ない・・・」
「・・・なるほどね。じゃあ、もし透明の箱があったとする。君はその箱を見ることは出来ないけど「掴む事」は出来る。今君は見えない「何か」を掴んでいるんだ。それでも君はその箱の「存在」を否定するかい?」
「んー見えない何かはあるけど、箱かどうかは分からないからなー・・・って何なんですか!こんな話は良くて、あの二人はなんで喧嘩してるか聞きたいんですよボクは!」
意味も分からず質問に答えていたが、我に返り自分のペースにへと持っていく。
「ふふふ、ホント面白いね君は。まぁまぁさっきの質問と君の質問は、ちゃんと繋がりがあるんだから、、、さて話を戻すとね」
再び彼のターン。
「あの大柄の男のカクテルをこぼした犯人は、あの隣にいる男ではない。だから二人は言い争っている。「隣にはお前しかいねぇじゃねぇかよ!」という大柄さんの主張に対して、「ぼ、ボクはそのカクテルに触れてすらいませんよ!」というか弱き男さんの主張。」
彼はご丁寧に二人のものまねをしながら一部始終を教えてくれた。
「それは大柄の男の勘違いなんじゃないんですか?ああいう大人って自分の過ちを人に押し付けようとするじゃないですかー?」
「随分な偏見だね。君はどんな大人たちを見てきたんだい?・・・こぼれた時なんだけどね、グラスごと大柄さんの足元に「ふっとんできた」らしいよ。マスターもその状況を見てたらしいし、大柄さん自身がこぼしたと言うにはちょっと不自然なんだよね。」
「じゃあ、隣の人が?」
「それも違うと思うよ。か弱き男さんは場所的には確かに隣にいたことになるんだけど、ひとつ椅子を挟んだ隣に居たんだよ。だからどんなに手を伸ばしても、座ったままじゃ大柄さんのカクテルには届かないんだ。あ、か弱き男さんが座っていた事は、立ち見のお客さんの一人が見ていたから確かなんだって。」
「へー」
状況を事細かに説明してくれる彼の話を、スタンダスタはうんうんと頷きながら聞き入っている。しかし、聞いてる内に少し疑問に思うことが出てきた。
「・・・何でそんなに知ってるんですか?まるで、その場に居たかの様に。」
「大勢いる野次馬の中の一人」にしては、余りにも知りすぎている。そして、スタンダスタの少しの不安は、彼の一言で確信へと変わった。
「答えは簡単。私はその場にいたんだから。そして、大柄さんのカクテルをこぼしたのは・・・この私さ。」




