良薬は口に苦し
急がなければいけないのだが、ただでさえ元々体力がない上に、強風も伴って、スタンダスタはしばらくして走るのを止めていた。
その間に、リオはスタンダスタに追い付いていた。
「あたしを無視して走り出すとはどういうつもりよ!というか、ガルは?大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃないから、走ってたんだよ!急がないと、、、」
走り出すスタンダスタだったが、止むことのない強風に打ち勝てずまた走るのを止めた。
「とにかく、ガルの症状を教えなさい。そして、あなたはどこへ向かっていたの?」
リオはとにかく、今何が起こっているのかを知りたかった。そんなリオにスタンダスタは今までの経緯を話始めた。
「なるほどね、、、だから急いで湖に向かっていたのね。でもほら」
リオが指を指すその先には、大きな湖が見えていた。目的地のリーザス湖だ。
「案外近くにあって良かったわね。じゃあお目当てのリーザス草を・・・」
グルルルルルルルル
そして湖の近くに、こちらを見ながら威嚇をしている生物がいた。
「リオ!!あれって、サンドラウルフじゃない?」
・・・サンドラウルフ。体長は大人で約1メートルと、決して体は大きくないが、凶暴な性格であり、昔からコイツに噛まれたら最後だとよく言われていた。それはコイツの噛む力が強大で、噛んだものを噛み砕くまで離さない為だ。
「今一番会いたくないやつに会ってしまったわね」
リオは腹をくくったのか、両手でエルネスの大剣を持って構えた。
「リオ!まさかやろうっての?危ないよ!!そいつに噛まれたら一溜まりもないよ!」
「じゃあどうしろってのよ!逃げようったって、すぐ追い付かれるわ!」
二人が言い争っている間にも、サンドラウルフはどんどん近づいてくる。
「スタン!!ナイフを出しなさい!!」
「えぇ!!ナイフって、ボク、、、戦うの!?アイツと!?」
「何を今さらビビってんのよ!要は噛まれなきゃいいのよ!!」
「噛まれたらどうするんだよ!?」
・・・
数秒間、間が空いた。
「どうにかしなさい!」
グルゥァァァァ!!!
サンドラウルフは唸り声をあげ、大きな口を広げながらリオに飛びかかった。リオは自分の体を噛みつこうとするその大きな口めがけて、剣を振りかざした。
それは一瞬の出来事だった。サンドラウルフの体は見事に真っ二つになった。苦しむ時間も無く、まるで自分が切られて死んだことに気付いていないんじゃないかと思う位、一切の声も出すこと無くサンドラウルフは息耐えた。
「やった・・・の?」
「これで生きてたら、怖いわよ!」
といいつつ、念のためリオは振り返り、真っ二つのサンドラウルフを見て、改めて死んでいることを確認した。
「生きてるわけないわよ、そりゃ。さて、早く行きましょ。時間食ってる時間はないわ!」
「そうだね!早くガルを助けなきゃ!」
二人はリーザス草探しを始めた。ひとまず湖の周りを歩いてみる。湖の周りは、見るからに草木ひとつ生えていない。こんな所にあるなんて到底思えなかった・・・
「あ・・・」
二人は口を揃えて呟く。歩いて数分、二人はポツンと生えている緑色の草を見つけた。なんの変哲もない草。でも二人はこれがリーザス草だとすぐに分かった。草の後ろに一枚の看板があったからだ。
「看板の前、リーザス草生えてます。リーザス草を守る会」
「あらら、ご丁寧に教えてくれてるわよ」
「ガルの為に早く見つけなきゃって思ってたけど、こういうのって苦労して見つけるもんだと思ってたよ。」
「スタン、RPGのやりすぎよ。まぁ見つかったことだし、早くガルにこれを届けるわよ」
リオはリーザス草をむしった。それを手に、二人は病院へと戻った。スタンダスタが病院を出てから、1時間も掛かっていなかった。
病院に入ると、スタンダスタとリオはガルがいる病室へと向かった。
病室に入ると、ガルはベッド・・・の上で、筋トレしていた。
「ちょっとガル!!なにしてんのよ!!」
スタンダスタからガルの病状を聞いていたリオは、ピンピンなガルを見て驚いた。それは、スタンダスタも同じだった。
「おぉ!おかえり!リーザス草取ってきてくれたか!?」
ガルは状態起こしを止めない。
「大丈夫なの!?そんなに動いて!?」
一応病人であるガルをスタンダスタは、心配して声をかけた。
「ドクターのじいさんに、痛み止め貰ったから今ん所大丈夫よ!無理はしないでねとは言われたけど、筋トレするなとは言われてないからなー」
「あんたね、自分が今どんな状況か理解してるわけ?・・・まぁいいわ。ピンピンしてるなら、それはそれで安心したわ。で、ドクターは?」
「私ならここにいますぞ」
「わぁ!ビックリした!!いきなり出てこないでもらえるかしら!」
突然の登場にリオは声を荒げた。
「ずっとこの部屋にいたんだけどなぁ・・・。お、リーザス草とってきたね。どれどれ、貸してみなさい。」
リオはドクターにリーザス草を渡すと、ドクターはリーザス草をすり鉢ですり始めた。
「やり方が随分と原始的なのね」
リオはついつい本音をこぼしてしまった。
「お嬢さん、確かに昔からのやり方だが効果は絶大だよ。これを食べれば、すぐ治るさ。なんで治るかは私にも分からないんだけど」
「ドクターの口から聞きたくないわよそんなこと!!」
リオの言葉を聞き、ドクターはすり鉢を動かす手を止め、話始めた。
「大昔、私の高祖父がリーザス草の効力を発見したんだよ。元々リーザス草は、ただの食用野草として育てられていた。リーザス草の葉を煎ってリーザス茶も作っていた。そう、リーザス草はあくまでただの食用。その当時体に良いとか誰も思っていなかった。そんな私の高祖父が、ある日魚を食べたら急にお腹が痛くなったらしい。当時、流通していた飲み薬があったらしいのだけど、それをリーザス草のお茶で飲んだら、その効力以上の効果が出たらしい。あっという間に腹痛が治ったんだ。後日調べたら、リーザス草は特定の寄生虫、菌を弱らせ、死滅させる効果があることが分かった。ただ、そのメカニズムまでは解明できず、今に至るわけだ。」
「・・・つまり?」
「・・・治れば良いじゃない」
ドクターは開き直った。
「・・・まぁそうね。小さいことは気にしちゃいけないわ。ドクターごめんなさい、余計なことを言ってしまって。」
「分かればいいのさ。お嬢さん、あんたは将来良い女になるよ。」
ドクターとリオの話を、スタンダスタとガルは密かに聞いていた。
「良い女になるって・・・何を根拠に言ってるんだろうね~」
「そんなことより、俺に早く薬を飲ませてほしいぜ。」
しばらくすると、ドクターがガルにリーザス草を渡した。
「お待たせしたね。これを一気に飲みなさい」
言われるがままに、ガルは液体状になったリーザス草を一気に飲み干した。
「苦ぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ガルの叫びは、部屋中に響き渡った。
「・・・あれ、でもなんだかすっきりしたかもしれねぇ」
「一応、改めて検査をしてみよう。きっと菌は居なくなってるはずだよ」
ガルはベッドから立ち上がり、ドクターと別室へと向かった。
部屋の中で二人きりになったスタンダスタとリオは、軽く会話を交わした。
「良かったね、ガル元気になって」
「そうね。普段はうるさいガルも、静かすぎちゃうとなんだか私まで調子狂っちゃうもの。とりあえずひと安心だわ。」
「リオもちゃんと心配してたんだね!」
「そりゃ少しは・・・ほら、ガル戻ってきたわよ!」
「悪いな、いろいろ迷惑かけちまって!でも、ビブ・・・なんとか菌は、全部死んじまったらしいから、もう大丈夫だってよ!さぁ!次の街が俺たちを呼んでいるぜ!!」
ガルは一足早く、病院の外へと出ていった。
「全く、調子良いんだから・・・じゃ、あたしたちも行くわよ。あ、荷物だけど港で預かってもらってるから、まずはそれを取りに行かなきゃだわ。」
「あ、そうだったの!?ごめんね、荷物リオに全部任せちゃってて。うん、早く取りに行こ!」
「元気な若者で、結構結構。そういえば、君たち近くのレストランで食事をしたと言っていたが、それはなんというレストランだね?」
帰ろうとするスタンダスタたちにドクターが質問をひとつ投げ掛けた。
「え、「レストラン」って名前のレストランですけど?」
スタンダスタが答えた。それを聞いてドクターは、こくりこくりと頷いた。
「そうか、君たちは運が良いのかもしれない。」
「え?どういう事よ?」
「あ、いや。これは年老いたドクターの独り言だよ、軽く聞き流してくれたまえ。それじゃ、良い旅を。」
「何なのよ・・・行きましょ、スタン。」
「うん。あ、ありがとうございました。」
リオはドクターの態度に少しイライラしている。その空気を察したスタンダスタは、ドクターに軽くお礼を言ってリオと共に、足早に病院を後にした。
外に出ると、向こうからガルが走って戻ってくるのが見えた。
「おーい!俺は一体何処に向かってるんだ!?」
「知らない!!」
リオとスタンダスタが口を揃える。
「あんたが街に呼ばれてるとか言ってたじゃない!」
「いやー聞こえてた気がしたんだけどなぁ~」
「きっとそれは幻聴よ。まだ病院にいた方が良いんじゃないかしら?」
リオの鋭い一言。ガルは黙ったままだった。
「・・・湖行く途中に街があったからそこに行こうよ!そこが、サスラダバータの中心街だと思うよー。」
スタンダスタが二人の話の間に入る。
「お、おう!そうだな!早く行こうぜ!な?リオ!」
「それがあなたが呼ばれていた街だと良いわね」
皮肉めいたリオの言葉を聞いてたのか、聞いていなかったのか。ガルは颯爽とその場から離れ、街の方へと走っていった。
「行っちゃったね。」
「そうね、ほっときましょ。私たちは港で荷物をもらってから行きましょう。」
ガルは街の方へ、スタンダスタとリオは港の方へと歩き始めた。
港で荷物を受け取り、街に向かい始める頃には、歩くのも苦労していた強風も弱まっていた。
街に向かう途中、スタンダスタがあることに気づいた。
「ねぇ、この辺りにレストラン無かったっけ・・・?」
3人がサスラダバータの地に降り、最初に向かったレストランが辺りを見渡しても何処にも無かった。
「・・・そういえば、無いわね。」
「あんな目立つオレンジ色の建物を見逃すわけがない。絶対無くなったよね!!」
まさか、と思いリオは改めて辺りを見渡す。草木がほとんど生えておらず、何か目立つものがあればかなり遠くからでも確認できるはずだか、見えるのは中心街とその先にある湖のみ。
「あれは、夢だったのかしら」
「だったら、さっきまで病院にいたのはなんだったのさ!」
「もしかして、それも夢・・・」
「リオ、一旦落ち着こう!」
スタンダスタは今まで起こったことを整理してみた。思えば、不思議なことがいくつかあった。
「あのレストランの店員さん、ボクの名前を知ってた。ボク、会ったことないのに。」
「そういえば、ドクターもレストランの話したらおかしな態度取ってたわね。運がいいとかなんとか・・・」
「やっぱりさ・・・」
スタンダスタがしばらく、考え込む。
「夢だったのかもね」
思わず、リオはずっこけてしまった。
「ごめんリオ、冗談だって!でも、何か秘密があるに違いないよ!街に行ったら、レストランの事いろいろ聞いてみようよ!」
「そうね、気になったままこの地を離れるわけにはいかないわ。このモヤモヤ、ホントなんとかしたいわ。でもあれね、やっとこの旅が楽しくなってきたわね!」
「うん!なんか冒険してる!って感じ!!」
深まるレストランの謎に、二人の胸は高鳴っていた。早く真相に迫りたいと、自然と二人の足は早足となり、気がつくとサスラダバーダの中心街の入り口にたどり着いていた。
「いろいろ聞いて回りたいところだけど、まずはホテル探しからね。」
「そうだね、ちょっと今日は疲れたもんね!あ、ガルも探さなきゃ!」
「ガルはいいわよ、この街にいることは確かなんだから。」
「・・・そうだね。」
大きなアーチが、スタンダスタたちを出迎えてくれた。これがサスラダバーダの街の入り口だ。街にある建物はほぼ全てがレンガで出来ており、どこかレトロな雰囲気を漂わせている。そして、この街で最も大きな建物が、スタンダスタ達が探しているホテル「ニューレトレスタ」であった。
「あら!立派な建物ね!これがホテルなの!?」
「うん、そうらしいね。でも良かったね、すぐホテル見つかって!」
「そうね、早くチェックインして、この荷物たちをなんとかしたいわ。」
ガルは未だに何処に居るか分からないが、先にチェックインを済ましスタンダスタとリオはホテルの部屋へと向かった。




