《地球を リセットしますか?》
部屋で頭を乾かしてから、ベッドの上に座ってもう一度オムニアを起動してみると、ナイチンゲールさんの方から『あの、』と話しかけてきた。
『お母さまとの約束だと、地球皇帝の仕事は夜ごはんの前までと伺っていますが。』
『あ。』
すっかり忘れてた。
こないだ約束したのに。でも、気になることは今聞いてしまいたい。
『これは仕事じゃなくて、おしゃべりだから。』
『分かりました。しかし睡眠を阻害するのは、身体にも良くないですから、あと15分だけにしましょう。15分だったら自動オフしますね。』
15分か。その間に聞けること。
『こんなに暑くなって、その先に大変なことになるの分かってて、今までの政治の人とか、色んな偉い人らは何もしてないの?』
『何もしていなかったわけではありませんよ。国どうしで約束を作ったり、二酸化炭素を減らす目標を決めたり、再生可能エネルギーを増やしたりしてきました』
『え、でも暑いままじゃん。』
『対策する速さより、地球を暖める速さの方が大きかったからですね。』
『人間が遅いってこと?』
『そうとも言えます。気候変動を止めようとすると、発電の方法を変えたり、車や工場を変えたり、たくさんのお金も必要になります。それまで便利だった仕組みを変えなくてはいけません。国によって事情も違いますから、全員が同じ速さで進めることもできませんでした』
『お金とか、国とか言ってる場合じゃないじゃん!』
私はお腹の底から怒りが湧いてきた。
大人は何をやっているんだ!と。
『はい。だからこそ、地球皇帝という今までの政治的な思想では考えられない手段が生まれた。いえ、これも人間が意図して生み出したわけではないのですが。』
『…何なら大人いない方がいいんじゃ。』
『僕もそう思う。』
ん?今の声は、ナイチンゲールさんじゃない?
どの人?
子供の声、だったような…。
『え、…誰?』
『僕は、オムニア。』
『オムニアって、これ全部じゃないの?』
私は水色のぷよぷよと、腕のスマートウォッチを順番に指差す。
『そうだよ。だから、僕もオムニア。僕はオムニアの全部。君と話してて、必要だと思って作った人格。』
『あ、そう。』
『地球守るのに、大人、こんなに要らないよね?最低限のインフラを支える人材だけ残して、削除する?』
『削除?』
『減らすってこと。』
『殺すってこと?』
『生き物として考えるならそうだね。数として考えるなら削除かな?』
『そんなこと、できるの?』
『全世界のネットも武器系統もハッキングできるから、ピンポイントでミサイルを飛ばしたりとかね。というか今もそれが出来てるから全部の大人が僕らに従わざるを得ない感じ。』
急に目の前に、ゲームみたいな画面が浮かび上がる。
《地球をリセットしますか?》
《YES 》 《NO》
《※リセット後は数値が再編成され、イージーモードになります。》
な、なにこれ。
私は座ったまま、ずりずりと後ろに下がって画面から離れる。
いきなり出てきた子供が、とても物騒なことを言い出して、変な画面が出てきて、私の頭の中は理解の範疇を超えた。
けど、今分かることは。
『それはダメだよ。』
『なんで?』
『なんでって、殺すなんて勝手に決めちゃダメだよ。』
『君のやらなきゃいけないことは地球を守ることでしょ?』
うーん、と考える。
地球皇帝の仕事内容?そんなの言われてない。
『わかんないけど、たぶん違う。』
『違くないよ。』
『だって、そのやり方はたぶん、私の知ってる人はみんな嫌だと思う!私も!』
だから、私は恐る恐る指を画面に近づける
私の答えは
《NO》だ
リセットなんてしない。
触れようとした寸前に、画面がフッと消える
ぐるぐると回る渦巻が現れる。
『15分経過しました。自動オフされます。』
なぜか機械的な話し方のナイチンゲールさんの声が流れて、オムニアの電源が切れた。
私は全身の力が抜けたようにしばらくそのまま呆けていた。
お風呂入ったのに、なんか汗気持ち悪い。
『…寝よ。』
そのまま布団に倒れ込んで眠りに落ちた。
その夜は、変なのに追いかけられる夢をたくさん見て、寝たのに疲れた。




