↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/25

PECの提案と美弥ちゃんの涙

PEC第三回会議 決定事項


・パリ協定の目標達成による地球皇帝のご褒美


・海洋生物、動植物の世界的な調査。

既存の大学・研究所・NGO・国際機関をオムニアが繋いで、共通データベースと共同調査網を作る



・熱中症の危険が高い地域でエアコンの無い公立学校へのエアコン整備の支援




『決めたはいいけど、本当にこんなこと、できるのかな?』

『(まぁ、オムニアが出来るというなら、できるのでしょ。AIが見栄なんてはらないし。)』

『(す、すげー!)』

『(あんた絶対YouTubeで話したらだめだからね?)』


『話したら、リザードマンを削除、あ、異世界転生させないといけなくなるから。』

『(…)』

『それって、現実で削除ってことでしょ?』


リザードマンは無言になり、柴山田さんの声が震えている。



結論として、この会議の案はオムニアが直接国や、それこそUNEP、他の各機関にコンタクトをとって伝えるらしい。


(コムのことだから、伝えるというか、脅すというか…。)


柴山田さんは、私がUNEPと話すことを主張していたけど、コム曰く、特定の団体や思想と私を近づけたら、私を地球皇帝にした意味がないらしい。




そして、1ヶ月後。


このことは"地球皇帝の初の動向"として、瞬く間に全世界に報道された。



『ご褒美って、結局なんなんだろな?』


『うー、この話やっぱり学校ではやめようよ!』



地球環境委員会のグループワークで、三人で班になった野口くんと、私と、柴山田さんは昼休みに、各クラスの給食の残飯量を量るという、非常に地味な作業を行いながら、雑談していた。

他の生徒は校庭で遊んでいるため、給食室の前のワゴンの押し込まれた廊下に他に人の気配は全くない。



『優先投資、とか、オムニアが世界規模のデータベースからダヴィンチさんと共同開発してる技術の利用権、とかだって。私の知らないとこでも色々してるみたい。ワシントンさんが色々交渉して今のところ不満も少ないみたい。あ、これ一年生のワゴンよろしく。』


『エアコンはニュースになってたな!リザードマンのYouTubeでもめちゃくちゃ地球皇帝褒めてるコメントあった!英語であんま読めなかったけど。おいおい!一年残飯多すぎだろ!揚げパン残すとかそんなやついる?!』


『報道されてないけど、海洋生物と動植物の現状把握も一気に進んでるんだよ!世界規模で一気に出来るのはすごいことだよ!揚げパン、…俺あんま好きじゃない。』


怯え気味だった柴山田さんが急に元気になって、四年生の私と野口くんに微笑ましく見守られている。

揚げパン、嫌いなんだ。身体大きいのに、みんな好きなもの嫌いなので意外。

野口くんは『揚げパン嫌いなやつは、本当にリアルに存在するんだな…』とかショックを受けていた。



『コメントとかニュースとかそんな反応でてるんだ!』


私が驚いていると、むしろ野口くんと柴山田さんが逆にそんな私に驚いた顔を向ける。


『え?…ニュース見てないの?あ、いや、今度は責めてるんじゃなくて。』

『リザードマンの動画は?』


あの後も、一回動画には"地球皇帝、もう一回踊ってみた"だけでた。


どうやら、もっぱら"全然上手くなってないけど、頑張ってる感じがいい!"との感想だったとのこと。


出てはいるけど、一度も見てはいない。


というか、もともと沢山はYouTubeとテレビも見る方じゃなかったけど、地球皇帝になってからほぼ見なくなった。


『たぶん、見たら私何も決められなくなるから。』


二人は私を見たまま固まって黙り込んだ。



地球皇帝になってしまった、おみくじの日の帰り道。


怖くて怖くて、息の仕方と分からなくなりそうだったけど、


ナイチンゲールさんと、鞠江先生が、温めてくれて。

お母さんが、恐ろしい背中のモンスターをハムスターに変えてくれた。


そしたら、何とか歩けるようになった。


だから私は、そこで自分の中の何かを止めた。


これ以上進むと、どうにかなっちゃうと本能的にわかったから。


お母さんがテレビをつけなくなったのも


お父さんが家で仕事をするようになったのも


鞠江先生がよくうちの教室の前を通るのも


お祭りであった怖いことも


全部ちゃんとは考えちゃいけない。

気にしてはいけない。



私が黙ったまま、残飯の計量を再開すると、二人も黙々と作業を続けた。




帰り道、途中の公園で、美弥ちゃんがランドセルを背負ったまま、滑り台の上に座っていた。


美弥ちゃんは、夏休み明けに2週間休んだ。


その後も、学校に来ても休み時間も机に伏せていることが多い。

私以外の子とは多少話しているけれど、何となく避けられているのは気づいていた。


私も自分のことで、それどころではなくて、なんとなくそのまま放っていた。


(滑り台、もう熱々じゃないんだ…)


気がつけば秋が近づいていた。


私は一瞬立ち止まったけど、どう声を掛けていいかもわからず、そのまま見なかったフリをして歩き出した。


『志乃ちゃん。』


背中から掛かった声に、驚いたふりをして振り向く。


『美弥ちゃん。どうしたの?』


美弥ちゃんは私の質問に答えずに、滑り台を滑って降りてくる。


そして私を通せんぼするように、わざわざ目の前に立った。


『どうしたの?』


もう一度聞いてみる。


『志乃ちゃんこそ、どうしたの?』


『私はどうもしないけど?帰ってるとこ。』


『野口と、五年生と、コソコソ話してからね。』


"コソコソ"というところに敵意を感じる。

私はやましいことはないけど?という目線で答える。


『委員会だし。』

『嘘。』

『嘘じゃないし。』


美弥ちゃんは、今度は私に背を向けて石を蹴り始めた。

蹴っては追いかけ、蹴っては追いかけ、私の周りをぐるぐると歩く。


『私のおばあちゃん、フランスにいるんだ。今ね、フランス大変なんだよ?今すぐ地球皇帝を辞めさせろって。暴動が起きてて、おばあちゃんさ、巻き込まれて怪我したんだ。』


蹴られた石が、カツンと、私の足元にぶつかった。

小さな小石で、痛くも何ともないはずけど、なぜか痛い気がした。


『フランスの人はね、日本人が地球皇帝やってるせいで、今日本のこと大っ嫌いなんだって。だから、危ないからって私ずっとおばあちゃんに会いにいけない。怪我してるのに!!』


美弥ちゃんは目に涙の膜を浮かべて、私を睨んだ。


美弥ちゃんの泣いた顔を見たのは初めてだった。


『地球を守るんじゃないの?!おばあちゃんが死んだら許さない!』



私は強く唇を噛んで、何も言うもんかと耐える。


『何とかしてよ!できないならもう辞めてよ!!』


『辞められるなら辞めてるよ!!!』


私は反射的に、大声で怒鳴り返していた。


自分の声じゃないみたいだった。


先に美弥ちゃんが背中を向けて走り出した。


私もすぐに自分の家に向かって走った。



何も、今は何も考えちゃいけないのに!


美弥ちゃんのバカバカバカバカバカ!!



我慢してた涙がボロボロこぼれ落ちてきて、家に着くまでずっと美弥ちゃんの悪口で頭がいっぱいだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。