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"コム"

『扇風機の前でアイスを食べると、めっちゃ口の中冷たくなるんだよ?知ってた?ひのくん』

『わかんない!ひのくんも!やりたい!』


私はひのきくんと扇風機の前の特等席を交代して、少し角度を下げてあげる。


『つめたい!!』


ひのきくんはキャッキャッと笑い声をあげている。

4歳児に尊敬されるなんて、私には赤子の手をひねるようなものよ。

まぁほとんど赤ちゃんなんだけど。


『ひのきくん、お姉ちゃん天才でしょ?』


『??…わかんない!』


ひのきくんは飽きたのか、どこか行ってしまい、私は扇風機の前で潰れたカエルのように倒れた。


オムニアに啖呵を切ってから数日。

なんとなく、あれ以来オムニアとは話していない。

今日は土曜日でお父さんもお母さんも居るし、私もだらだらと家で過ごしていた。


今年の夏休みはおじいちゃんおばあちゃんの家に行く以外、旅行の予定も無いし、つまんないなぁ〜。


神社のお祭り、いつだっけ?


『おかあさーん、どっか行こうよ〜』


『どっかって、どこ行きたいの?暑いよ?』


『どこでもいいよ〜』


『めんどくさい娘だな〜もー!』


結局お母さんが折れて、2人で炎天下を歩いている。

お父さんとひのきくんには唐揚げを頼まれた。


『暑い!死ぬ!無理!』


お母さんが夏にブチギレている。

お母さんは普段結構優しいけど、夏に対してはだいぶ攻撃的になる。

おもろい。

結局近所の大きめのスーパーに行った。


『今度は寒い!あ、大きなスイカ売ってる。2階行く?』


お母さんは寒いのにも暑いのにも弱くて、よく『私は爬虫類なのかもしれない』って嘆いてる。私はどんまいって言ってあげる。


お母さんと別行動で文房具を物色していると

『白田?』

と声がして、振り向くと野口くんがいた。

大きなリュックを背負って、さらにプールバックも持っている。


『やっほー、めっちゃ荷物多いね。』

『おー、これからプール行って、そのまま塾だから。』

『忙しいねぇ。ごくろーさまです。』


私がふざけて、恭しく頭を下げると、すかさず『うざっ!』と突っ込んでくる。


『杉元に会わないで済むから、多少忙しくても全然いいし!』

『あ、呼び捨て』

『言うなよ!』


お母さんが隣の棚からひょこっと顔を出して、『あ、友達?そっちいるね』と言ってからまたいなくなった。


『お母さん?』

『うん、じゃあ私もう行くね。』

『白田、神社の祭り行くの?』

『たぶん。』

『じゃ、祭りでな。』


野口くんは手を振って、一階に降りていった。

なんか、クラスメイトの、特に男子と外で話すの変な感じだよなー。

野口くんは男子の中ではかなり話しやすいけど。


『お母さーん、お待たせ〜、ねえねえ、このメモ帳さー。』


そのあと色々理由をつけて可愛いメモ帳を買ってもらえて良い外出になった。



夜、スリープのままにしてたオムニアを起動する。

なんと声をかけて良いか分からず、黙っていたら。


『志乃、地球子供サミットはどう進める?』


『え?なにそれ』


子供オムニアが唐突に聞き覚えのない単語を質問してくる。


『志乃がこの間、自分で提案した地球皇帝の方針だよ。便宜的に言いやすいように仮の名前をつけた。』


『え?あー!あれ!うそ、ほんとにあれやるの?』


『やらないの?』


私はつい先日、自分がイライラを爆発させて癇癪を起こして出てきた発言を今になって思い出す。

オムニアは『やらない場合、すでに進めてた下準備の処理を…』とぶつぶつ声に出して、水玉をくるくると半回転を繰り返している。


『というか、逆にやっていいの?子供だけでやるなんて、地球皇帝としてたぶん何もできなくない?…色んなこと、ちゃんと知らないし。』


『いや、この間の志乃の発言から、初代地球皇帝は試験的運用を試す期間にすることにしたから、もう好きになってくれ。』


『…なんか、ごめん。』


『別にいい。それが1番効率がいい。』


なんというか、期待されてないんだろうなってことはよく分かった。


『好きにするついで、オムニアというか、君の呼び方も変えていい?』


『僕?僕はオムニアだよ。』


『いや、でもこれもオムニアじゃん?』


私は腕のスマートウォッチを指差す。


『いや、それは正確にはただの僕を搭載したスマートウォッチで、僕がオムニア』


『でも、私もうこっちをオムニアで慣れちゃったから、ダメ?』


『まぁ、いいよ。何て登録する?』


『子どものオムニアだから、"コム"でいい?』


しばし沈黙して水玉がくるくると回転する。


『分かった。僕はこれからコムと名乗る。』


『よろしく!コム。』

『うん。よろしく志乃。』


なんだかだいぶコムと仲良くなれた気がする。


『で、地球子供サミットはやらないの?』


うーん。としばし考える。

もう全然期待されてないみたいだし、怖い大人と話し合ったり、難しいこと勉強するくらいなら、地球の色んな子供と話す方が絶対ハードル低い。


『うん、やろう。でもどうやろうか?テレビ電話?』


『とりあえず地球上のネット環境のある地域全域に無作為で試験的な国際子供会議の試験運用の案内を出しておいたから、おそらくすでにそれなりの人数が応募していると思う。サーバーも作っておいたから、日程が決まればいつでもできる。』


『時差とかあるよね?』


『え…、うん。だから夜とかおすすめ。…志乃の知能レベルの認識をアップデートしなきゃ。』


今、コムめっちゃ失礼なこと言わなかった?


『顔がバレるのは良くないから、アバターでやろう。これでいい?』


ウインクしてる女装した髭のおじさんが映し出された。


『良いわけない。なんでこれ?性別も歳も、なんていうか、私に似てるとこ一つもないけど?』


『セキュリティ上、あえて何もかも本人から遠い方がいいかなと。あと、時代の多様性に配慮して。』


配慮した結果生まれたのが、困惑しかされないおじさん。


『もっと可愛くしてよー。もういっそ人型じゃなくするとか!』


『…なるほど。じゃあ、これは?』

『おおー!それでいこう。あ、あとコムも参加してよ。』

『え?僕子供じゃないけど。』

『子供のフリして、ほら何か困ったら手伝って。』

『まぁいいけど。僕は意見はできないよ。人間同士の反応じゃなくなるから。』


『うんいいよ!コムのアバターも決めようよ!』


こうして夜になるまで、第1回地球子供サミットの準備にあけくれた。


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