夏休みのはじまり
『俺、明日から沖縄〜!イエー!』
『通知表見せあいっこしよー』
『やだー!』
終業式を終えた教室は、生徒たちの開放感で湧き立っていた。
『志乃ちゃん、通知表どうだった?!』
美弥ちゃんが横からグイグイ覗いてこようとするので、私は見ていた通知表を閉じる。
『うん、まぁまぁ。』
去年と同じくらい。算数の"よくできる"が増えてたの嬉しいけど、体育は散々だし、音楽は頑張ったのなぁ。
『"まぁまぁ"じゃ、全然分かんないよー!野口は?!』
今度は私を飛び越して野口くんを覗こうとするけれど、野口くんは通知表を片手に机に突っ伏していた。
その手から勝手に美弥ちゃんが抜き取って見ているので、私は一応『やめなよー』と止める。
『何で落ち込んでんの?全然いいじゃん!』
『…俺、公立中高一貫受験しろって言われてるから、今年は来年の練習で全部"よくできる"とれ!って言われてたから。最悪、ゲーム取り上げられるかも…。』
『なんか、どんまい』
『うん、どんまい』
ざわついていた教室内は杉元先生に一喝され、あっという間に静かになった。
そのあとは永遠とも思える時間、夏休み中に想定される我々の悪事を、まだ未遂にも関わらず一つ一つ怒られ、全てが終わる頃には我々4年2組の教室はお通夜のようになっていた。
『何あれー?』
いつもの帰りのメンバーで正門に行くとカメラを持った人と他にも数人大人が居て、先に帰っていたはずの低学年の子が話しかけられている。
『不審者じゃない?先生呼ぶ?』
相談し合っていると、その人たちが近づいてくる。
『君たち、ちょっと話聞けるかな?』
みんな普段はうるさいぐらいに喧しいのに、知らない大人が近づくと口を噤んで誰かの後ろに隠れようとする。
隣の子が私の後ろに隠れようとして、自動的に私が前に出る。
『東京都の学校の子が地球皇帝に選ばれたみたいだから、色んな地域の小学生に話を聞いてて、ニュースに取り上げたいから何か知ってたら教えてほしくてさ!話してくれたらテレビに映るよ!YouTubeにも切り抜き載ると思うよ!』
ニコニコしながらテレビとか、YouTubeとか子供の食いつきそうな単語を挙げてくるところがいかにも怪しい…
私たちはさすがに四年生なので、みんなで顔を寄せ合って黙っている。
私たちは学校からの通知で親からこういう大人に何も話さないようにキツく脅されている。
話したら警察に捕まるかもよと。
先に聞かれていた低学年の子達は好奇心が勝つのか、自分たち聞いてこないかワクワクしながら視線を向けている。
『先生呼んでくる?』
『何してるんですか?!』
結局、副校長先生と何人かの先生が駆けつけてきて、警察を呼ぶと言って、マスコミっぽい人たちは帰っていって、私たちも解散させられた。
1人、また1人と、曲がり角でバイバイして、最後は美弥ちゃんと2人になった。
私たちが別れる曲がり角に着いた。
『ばいばい』
私が手を振って、自分の家の方の道に歩いていくが、美弥ちゃんが立ち止まったまま歩き出さない。
『美弥ちゃん?』
美弥ちゃんは何を考えているのか分からない表情で、じーっと私を見る。
『?』
戸惑って見つめ返していると、急にニコッと笑った。
『バイバイ!夏休み、頑張って!』
それだけ言うと走り去っていく。美弥ちゃんはめちゃくちゃ足が速いので、あっという間に姿が豆粒のように小さくなる。
『頑張って?夏休みって頑張るんだっけ?』
私は首を傾げながら家路についた。




