繚乱のファンタズマゴリア 21 清廉なる朝は訪れ
1.
「えー、昨夜の勝利と、皆の無事を祝って―――乾杯!!」
レイフォンの音頭に、全員がグラスを掲げる。
―――吸血鬼事件の最後。ヴァンパイア達による王都襲撃は王都側の勝利で幕を降ろした。
夜は明け、身近な後片付けも済んだ昼過ぎのロシェに彼らは集まっていた。
事件の解決と勝利、そして無事を祝う為に。
ここに居るのはブルーサスとジルニトラ、先程帰ってきたリョウと包帯だらけのオルフェ、ナシュトとセレス、近衛隊の面々、ネロとトウヤとケイン、レイフォンと九龍、そしてアサヒ。
ガルスは残念ながら今も後始末に奔走しておりこの場に居ない。
そして各人は、思い思いに会話に花を咲かせていた。
「オルフェさん、傷は大丈夫なの?」
「ええ。まだ痛みますけど、傷自体は殆ど塞がっているそうで。ただしばらくは大人しくしているようにと」
傷を心配するブルーサスに、オルフェは笑って返した。
「今も十分無理しているんじゃないの? ……私としては、肝心な時に居ない駄目な殿方に一言申したいところだけど」
「だから信用できる奴を就けてたんだよ。到着するまでの時間稼ぎが機能してなかっただけで」
責める様な視線を送るアサヒにリョウが弁解するが、「先生達も他の生徒も怪我してるのに責任を押し付けるな」との言葉にぐうの音もでなかった。
「でも、皆さん無事でよかったです。……あ。セレス、これおいしいよ。食べてみて」
「では一口。……本当、おいしいです。ジルニトラちゃんもどうぞ」
「ん……ありがとう、セレス」
セレスから料理を受け取り、ジルニトラが笑顔で礼を言う。
リョウ以外の全員の顔には明らかに疲れが見えていたが、それでも皆楽しげだった。
(それにしても……)
ブルーサスは思案する。
それはあの急激な力の成長のこと。いっそ覚醒と言ってもいいかもしれない。
そのことをアルトさんに相談するべきか否か。
(………ううん、やめておこう)
相談することを躊躇するには理由があった。成長があまりにも急激かつ急速過ぎるからだ。
それに自分が行使した力は―――異質。異常すぎるもの。
あれに関しては可能な限り口を噤むべきだと心の内の何かが警鐘を鳴らしていた。
「そうだ、トウヤ学院長。あのヴァンパイアの子の事なんですが」
一方こちらはレイフォンとトウヤ、ケイン。
あの子、というのは昨夜の戦いで唯一無事(死んでもいなければ封印もされていない、と言う意味で)であるカミラの事。
「ああ、学院で引き取るよ。聞いた限りじゃそこまで悪い奴じゃなさそうだしな」
一応事件の主犯格でもあるカミラを受け入れる決定をしたトウヤ。
無論ケイン含め他の教員への相談などない。完全な独断だ。
「随分とあっさり決めたのう。生徒に危険は及ばんか?」
「大丈夫さ。さっき面会してきた。あの子はどちらかといえば他者と関わるのが大好きなタイプみただし、色々な奴と関わる道を用意してやれば違う生き方ができるだろう」
それにウチはどんな子供でも受け入れるからな、とトウヤは付け足す。
「そうですか。身体の方の再生が終わるのはまだしばらく掛かるみたいですけど、たまに悪態聞きにいってやってください」
未だにカミラは首だけの状態だが、多分ナシュト達年下組と比べれば遥かに元気だった。
事実先程トウヤが面会に行ったときはかなり悪態をついていたのだから。
とはいえ悪意のようなものはなく、単に強がっているだけのようだが。
「そうすることにしよう」
「ああ、ここにいたのか」
「私達も混ぜてもらえるかしら?」
しばらくして、男女二人組がロシェへとやってきた。
ギュスターヴとラヴィーネである。
「貴方等も来たのか。どうだ、駆け付け一杯」
「有難くもらうわ」
ネロがグラスを二杯差し出すが、ラヴィーネがその両方をかっさらっていった。
「まさかあなた方が動いていたとはね。《契約者》ギュスターヴさん」
「君は……レイフォン・ストレインか。久しぶりだね」
やや驚いた顔で二人を出迎えるレイフォンと、それに親しげギュスターヴ答えるギュスターヴ。
「なんだ、知り合いか」
「まあね。何度か会った事があって」
「ちょっと~~~! お酒足りないわよ!! もっと持って来なさい!!」
早くも酔っぱらいの気を見せ始めたラヴィーネを置いて、レイフォンが手を鳴らし皆の注目を集める。
「さて、盛り上がってきた所悪いが1つ話がある。聞いてくれるか?」
何事かと場がしいんとなる。
「今回の事件は無事に解決した。けれどこれで終わるとはどうも思えない。そうですよね、ネロさん」
ネロはコクリと頷く。そして、
「あの程度が未来を予知できなくする程の“うねり”とは思えないからな。今後も何かが起こらんとは言えないだろう」
と答えた。
「という訳だ。そこで俺から1つ提案がある」
皆が興味深げに耳を傾け言葉の続きを待つ。
「今、この場にはこれだけの凄まじい戦力が揃っている。その上所属も立場もバラバラ。そこでだ。―――同盟を組まないか」
「同盟……ですか?」
聞き返すブルーサスにレイフォンは「ああ」と返す。
「利害の一致不一致にもよるが、協力してこれから起こり得る王都―――いや、大陸全体の大事に対処するための同盟だ。折角こうして縁もあることだ、無理強いはしないが考えてくれないか?」
その提案に、ほぼ全員が考え込む。
―――同盟。正直な話を言ってしまえば、全体的にメリットは少ない。
今回こそ王都における大規模な戦闘だったからこそ全員がそれぞれに対処していたが、これ以降おこるかもしれない不確定な事項に自分も関わるという確証はない。
それに、ともすれば無駄に危険に首を突っ込むことにもなりかねないからだ。
かといって利害の不一致として参加していながら協力もしない、というのも一部の達観者を覗いては避けたい所だった。
何故ならば、それは自らの名誉を傷付ける事だから。
他人の危機を知りながら我が身可愛さにそれを見捨てるなど、不名誉以外の何物でもない。
しかし他者よりも優先すべきものがある者も多いのがまた事実だが。
「面白い。その話、乗ろう」
最初に名乗りを上げたのは、レイフォンの予想に反しネロだった。
「意外だ。あなたが最初とは」
「元々“うねり”の対処の為に王都に来たのだ、当然のこと。貴公はどうだ、ギュスターヴ。既に我々は協力関係にあるが」
「参加させてもらおう。最も、人間同士の争いにだけは手を出せないけれど」
「トウヤ、貴様は?」
「一応参加すると言っておこう。生徒に害が及びそうになった時だけだけどな」
「俺は……」
逡巡するリョウ。しかし、オルフェの
「やりましょう、先輩。何かが起こると分かっていて手をこまねいているだけなんて、私にはできません」
との言葉を受けて、参加を決定した。
近衛隊の面々は互いに顔を見合わせて、アルトが代表して
「姫を最優先する事を条件に参加しよう。君も当然参加するな、ナシュト君」
と告げた。
急に話を振られたナシュトは一瞬戸惑ったものの、
「やれるだけの事はやってみます」
と表明した。
(………どうしよう)
ブルーサスは決断しかねていた。
確かに、手にしたこの力を誰かの為に使う機会があるというのは甘美な響きだ。
けれどそれは同時にジルニトラを無闇に危険に晒しかねない事でもある。
「ブルーサス。むしろお前こそ参加した方がいいと思うぜ。今の所、何かに巻き込まれてるのはお前だけだからな」
トウヤがブルーサスを説得する。
巻き込まれた事件。ジルニトラを襲っていたあのナイトゴーントの事だ。
結局今回の吸血鬼事件とは何の関わりもなかった。
ということは、まだジルニトラを狙った“誰か” は未だ健在ということになる。
もしまたジルニトラが狙われたと知ったら、きっとリョウ達は自分を助けるだろう。
―――ならば、自分も手伝うべきではないか。
「―――わかりました。僕も参加させてもらいます」
「決まりだな。名はどうする?」
「名前?」
「ただの『同盟』では締まらんだろう。名は体を表す、ならば然るべき名をつけるべきだ」
ネロの言葉にレイフォンは暫く考え込み、そして全員に告げた。
「『ミスティルテイン』―――てのはどうだ?」
「“神殺しの芽”―――いいんじゃないかな」
「実際に神を殺すようなことにはなりたくないものだがな」
ギュスターヴとネロが同意する。他の皆からの反論もない。
「決定だな。よろしく頼むぜ、『ミスティルテイン』」
―――こうして。
吹けば飛ぶような“歪な同盟”は結成された。
………けれども。この時はまだ、誰も気付いてはいなかった。
“神殺し”の名が、何を意味するのかなど。
次回予告
事件から2週間。アサヒはいつものように休日を過ごしていた。
けれど、いつもと違う出会いがあって―――。
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