繚乱のファンタズマゴリア 12
1.
ブルーサス達の異形との遭遇からすこし時間を遡り、ネロ邸。
私、アサヒは机に向かいランプの僅かな明かりを頼りに本を読んでいた。
少し離れたベッドからは、ジルニトラちゃんのすやすやという心地いい寝息が聞こえてくる。
ここはブルーサスがこの屋敷の主人から借りている部屋。
夜警の手伝いへ赴いた彼の代わりにジルニトラちゃんの面倒を見てくれないかとの頼みに応えて、今ここにこうしている。
小さい子の面倒を見るなんて初めての事だったけれど、ジルニトラちゃんはよく言う事を聞いてくれるから助かった。
私に対してちょっとだけ警戒はしていたけれど。
でも、初めて会った時よりはずっと気を許してくれてると思う。
本当なら私ももう寝る時間だけれど、ここはブルーサスの部屋。
そもそも異性の部屋に来ること自体初めてだし、ましてやそこで寝るなんて。
そうしていると、静かな部屋にノックの音が響いた。
「はい」と答えると、この屋敷の主―――ネロさんが部屋へ入ってきた。
右手には湯気を立てるカップがふたつと小さなクッキーが数枚乗ったトレー。
「どうしたんですか?」
「いや、まだ明かりが点いているのが見えてな。勉強でもしているのかと思って差し入れを用意した」
「あ、ありがとうございます」
トレーを受け取り机に置く。
ふたつのカップの中にはミルクティー。
カップのひとつはジルニトラちゃんに用意してくれたのだろうか?
首を傾げていると、カップの1つをネロさんが手に取った。
自分の分?
そしてそのまま壁に寄り掛かって静かにカップを回している。
「えっと……ここで飲むんですか?」
「悪いか? どうせ互いに手持ち無沙汰のようだ。俺としては若い奴と話す機会もそうそうないしな」
そう言ってネロさんはミルクティーを口にする。
―――まあ、折角だしこうしてるのもいいかな。
そう思って私も一口飲む。
「おいしい……」
本当においしい。
こんなにおいしい物を飲んだのは初めてかもしれない。
それほどにこのミルクティーはおいしかった。
「当然だ。俺のお気に入りの茶葉でな、高級なものではないが上手く淹れればこのように見事な味になる。そのクッキーもどうだ?」
促されて、クッキーのひとつを手に取って一口齧る。
―――すごい。これもおいしい。そう伝えるとネロさんは少しだけ、でも嬉しそうに口元を綻ばせた。
「そうか。実はこれだけは俺の得意料理でね。久々に自分で作ったので味の保証はなかったが、上手く作れたようで良かったよ」
手作り、と聞いて私は少し驚いた。
だって、正直そういう雰囲気じゃないもの、この人。
目つきはちょっと怖いし、いまいち何を考えてるのか分からないし。
人は見かけによらない、というやつなのだろうか。
それからしばらくは、とりとめのない話をしていた。
私の身の上話や学院の事。
どうでもいいような私の話を、ネロさんは少しだけ笑みを浮かべながら聞いていた。
「そういえば、ネロさんは学院長のご友人なんですよね?」
「……ああ、そうだな。あいつとは古くからの知り合いだ。親友、といってもいい」
表情を曇らせ、やや躊躇いがちにネロさんが答える。
親友、という割には妙な反応。
(なにかあったのかしら……)
私は学院長の過去を知らない。
何で魔術師を志したのか。何で学院を創立したのか。
学院長が一切語ろうとしないので当然の事だけど。
魔術師同士、なにか因縁でもあるのかしら。
(私が気にすることじゃないか……)
例え二人の過去を知ったところで、所詮私は部外者だ。
二人にどうこう言う立場じゃない。
語らないという事は語りたくないという事。
わざわざそういうことに触れる程私は無遠慮じゃない。
―――それに、知ったところで私には何もできないから。
「考えてみると皮肉ですよね。私は何もかもが平凡なのに、ネロさんみたいに非凡な人と良く知り合うなんて」
ホント、特に最近はそうだ。
ブルーサスはジルニトラちゃんと《契約》するわ、生きる伝説みたいな人の家にお邪魔しているわ。
私に対する嫌がらせかと思ってしまう。
「なに、平凡であるということは忌むべきことではない。世界から逸脱せず、絶対に『人として』生きて死ねることはむしろ幸運と言ってもいい。それに……数百年も在り続ける程の渇望を持つ様な歪な生など、君みたいな娘には必要ないと思うがね」
「……それは慰めの言葉ですか?」
「年寄りの訓戒だ。過ぎた生は全てを狂わせる。俺やトウヤみたいにな」
過ぎた生―――か。
今考えてみれば、長く生きるという事は他の色んなものが失われていくのを受け入れなくちゃいけないということだ。
ブルーサスもきっとそう。ジルニトラちゃんと一緒だから寂しくはないだろうけど、きっといつか私やオルフェ、リョウ先輩やナシュト君だって彼らの前から永遠に去っていくだろう。
いつか別れは来る。それが命というものだから。
そして、いつかはもう別れずに済む日も来る。それもまた命だ。
けれど別れずに済む日が果てしなく永いのならば、より多くの人や物と別れていく。
それはきっと―――寂しい事だと私は思う。
私だったら耐え切れずに狂ってしまうかもしれない。
それとも、いつかは忘れていくのだろうか?
それもまた、悲しい事。
(でも、そうしてでも求めるものがあるのなら?)
それは分からない。
数百年も生きて手に入れたものがそれまでに失ったすべてに勝るというのなら、耐えられるのだろうか。
あるいは、すべてを―――。
私は思考を振り払うように頭を振った。
結局これも凡人の考えだし、どっちにしろ私が気にすることじゃないと思ったから。
「でも、ありがとうございます。……少しだけ、自分が平凡であることに納得できたかもしれません」
「そうか。なら良かった。―――さて、そろそろ寝たほうがいい。この部屋で寝る事に抵抗があるのなら隣の部屋を使え。その場合はその子も連れて行ってあげることだ。運ぶのは手伝ってやる」
「いえ、大丈夫です。今ならきっと、ぐっすり眠れるはずですから」
身体も温まったし、なにより少しだけ心のつっかえが取れた気もする。
まあ、ある種の諦めだけれど。
やっぱり私は平凡にしか生きられない。
―――この人と話していて、改めてそう感じた。
「なら、俺も眠るとしよう。お休み、アサヒ」
「おやすみなさい」
空になったカップを乗せたトレーをネロさんは受け取ると、静かに部屋を出て―――行こうとした。
でも、すぐに立ち止まった。
「ああああああああああああああっ!!」
悲鳴をあげて、ジルニトラちゃんががばっとベットから起き上がったから。
驚いてジルニトラちゃんの所へ駆け寄る。
「どうしたの、ジルニトラちゃん!?」
ジルニトラちゃんの様子は見るからにおかしかった。
汗をびっしりと浮かべて、がたがたと怯えた震えている。
目の焦点もあっていない。まるで、どこか遠くを見ているよう。
「ブルーサスが……ブルーサスがぁ!! いやっ! いやぁぁぁぁぁ!!」
―――!? ブルーサスに、何かあったの!?
私はジルニトラちゃんを落ち着かせるよう、抱き締める。
「大丈夫だよ」と気休めを言いつつ、彼の無事を祈りながら。
2.
やや時刻を遡る。
ブルーサスとガルスは囲まれていた。
広くはない路地の真ん中、二人は背中合わせで目の前の相手を睨んでいる。
それぞれの目の前には、あの異形。
援軍を呼びに行こうと走っていた所を襲撃されたのだ。
この状況に、ガルスが舌打ちする。
複数犯であることを想定していないわけではなかった。
しかし同時に考えたくなかった状態というのも事実。
既にブルーサスを逃がすための牽制は行っていた。
しかし一切こちらの攻撃が効かなかった。
ガルスは自身の力を過信しているわけではないが、それでも騎士団にすら通用すると自負する程の実力はある。
そんな彼が、牽制としてあまり威力は込めていないとはいえ怯ませることすらできないような相手が3体もいるなどと、誰が考えたいと思うだろうか。
だが、それよりもガルスにとって悔しいことは自分の役割が果たせなくなったことだ。
ブルーサスを護衛し、もしもの時は囮になって彼を逃がす。
だが、もはやブルーサスを護りつつ戦う余裕はない。
「ブルーサス、すまねえが……」
「わかってます。自分の身は―――自分で守ります」
申し訳なさそうに言うガルスに、身体を変異させたブルーサスが僅かに笑みを浮かべて答える。
もっとも、その面持ちは緊張したものだが。
せめてもの救いは今のブルーサスには未熟とはいえ戦う力があるということ。
頷き合ってそれぞれの構えをとる。
「最悪殺しても構わねえ……躊躇すんなよ」
「―――善処します」
ブルーサスは固い声で答える。
そして―――周囲が急激に明るさを増す。
ガルスの異能に因るものだ。
足元に浮かぶのはセフィロトの図式。
ネツァクに属するその異能の名は《黄光》。
光でありながら熱を発せず、しかし敵を貫く光線を生み出す異能。
そして、ガルスは目の前の異形へと駆け出し、ブルーサスの目の前の異形がその両腕を触手へと変化させて彼へと挑みかかる。
ガルスが刃を黄色く輝かせる槍を振るう。
その一撃を異形は後ろへ跳躍することで回避するが、ガルスは元よりその一撃を当てるつもりはなかった。
中空に刃の軌跡が輝く光となって浮かび上がり、そこから無数の光線が打ち出される。
その数5。
光線は直線的な、しかし複雑な機動で異形へと駆け抜けていく。
流石に光速とまではいかないが、それでも凄まじい速度。
実体のない光だからこそ周辺への被害はないが、もし実体があるのならば衝撃で周囲が甚大な被害がでるであろう。
だが、異形は高速で襲い掛かる光線の隙間を縫うように移動し、果敢にガルスへと突撃を行う。
それは敵であるガルスですら「見事」と称賛したくなるような動きだった。
しかし、関心こそすれ気後れするガルスではない。
槍を回転させ突き出された右腕の触手を受け流し、がら空きになった胴体目掛け光を纏わせた槍を振るう。
だが命中するギリギリで左腕の触手を槍に巻き付けられ防がれる。
再び右腕の触手が振るわれるが、ガルスはそれを素手で掴むことで受け止めた。
掌を打たれた痛みは気合で耐える。
そして互いに膠着状態となる。
否、異形にはもう一つの攻撃手段―――鋭い牙が。
「させるかあああああ!!」
叫び声と共に、ガルスは異形の顔目掛けて《黄光》を放つ。
………自分の口の中から。
『―――!?』
異形もこの攻撃には流石に不意を突かれたようで、顔面に光線を至近距離で喰らい仰け反った。
ガルスは槍に巻き付いた触手から力が一瞬抜けたのを見逃さず、拘束を解く。
そして異形の腹目掛け回し蹴りを叩き込み後ろへと蹴り飛ばした。
更に追撃の《黄光》を放つことも忘れず。
《黄光》によって砂煙が上がり、異形の姿が隠れる。
だが「倒した」などとガルスは思っていない。
砂煙の向こうからガルスへ向けられる殺気は今尚健在だからだ。
(しかし―――妙な気配だな、こいつ……)
こうして対峙してみてよく分かった。
少なくともこの個体、“勝負”に慣れている。
確かに明白な殺意を向けてはいるが、しかしその外見とは裏腹に恐ろしく静かな殺意。
それは「殺す」ではなく「お前は死ぬ」という圧倒的な自信の上に成り立つ殺意だ。
(まあ、何であれ―――)
「生憎、負ける気はねえがな」
宣言と共に、ガルスは眩い光の軌跡を残しつつ異形へ向けて突撃した。
* * *
一方、ブルーサスは苦戦していた。
リョウとの修行により掌に喰らう力を込めることには成功していたが、懸念されていた展開が起こってしまっている。
―――こちらの攻撃の悉くを避けられているのだ。
もっとも、ブルーサスの格闘術もまだ付け焼刃とはいえ竜の本能と相まって既に並の相手ならば刃の立たない領域にある。
喰らう力も含めた純粋な戦闘力ならば相手の異形に確実に勝っていてもおかしくはない。
しかし、相手が悪かった。
ブルーサスが相手にしている個体は肉体の軟質化能力に特化しており、文字通り肉体を変形させることで巧みに彼の攻撃を回避しているのだ。
(もっと、もっと上手くできるはずだ。先輩との訓練を思い出せ!)
ブルーサスは自分に言い聞かせるが、心には焦りだけが募っていく。
何故当たらない。
先輩と訓練したんだ、やれるはずなんだ。
僕は《契約者》だ。こんな相手には負けない。
焦るな余計に隙が出来るいいやもっと焦ろこんな状況僕は認めない。
そんな焦りと苛立ち。
そしてそれをあざ笑うかのように異形は触手を振るう。
伸縮自在なのをいいことに、四方八方防ぎきれない方向からブルーサスを打ち付け、刺し貫こうとするのだ。
竜の力を得た肉体はそうそう傷つかないが、しかし衝撃を緩和できるわけでもない。
なにより、“痛み”に対する耐性はそうそう身に付かないものだ。
特に大人しいジルニトラに由来する力ならば尚更。
そして、身を苛む痛みは更にブルーサスの精神に揺さぶりをかける。
だが―――嘲りの笑みを浮かべる異形は、ひとつ過ちを犯した。
大きな過ちだ。
例え竜との《契約者》となり竜の力を手に入れた所で、人は人だ。
理性という箍がある。
―――同時に、理性を失いやすいのが人間でもある。
そして、それはつまり容易く『理性を失った竜』となり得ることだということを。
轟、と一瞬突風が路地を吹き抜ける。
それ自体は何の変哲もないただの風。
そのはずだった。
だが、それがきっかけとなった。
ゆらり、と頭を垂らしたブルーサスの身体が脱力したように揺れる。
そして、再びその顔を上げた時―――その瞳に、理性の色はなかった。
『GRRRRR………』
獣の如き唸り声をあげながら、ブルーサスが異形へ向けて突撃する。
先程より速い、などということもない。
むしろ直線的過ぎて今までよりも遥かに避けやすいただの無謀な突撃。
異形はその口元をさも馬鹿にしたような笑みを浮かべ、あえて身体をぎりぎりの所で変形させることで無造作に突き出されたブルーサスの右腕を回避する。
表情と同じように馬鹿にしたような行動。
だが、異形は判断を誤った。
『―――?』
直後、異形が首を傾げる。
何故。
何故、ぎりぎりで、しかし確実に回避した自分の身体がわずかに消失しているのか、と。
その理由を、異形は右腕を見て理解する。
ああ、ブルーサスの右腕は、“全ての関節が外れていた”。
それによって僅かに伸びた喰らう力を込めた指が異形の身体を掻き削ったのだ。
にぃ、と今度はブルーサスが笑みを浮かべる。
それは正気の人間の表情ではなかった。
かといって獣の表情でもない。
ただただ狂笑と呼ぶほかない表情。
その様子に異形から笑みが消える。
異形ですら彼の変化を理解できなかった。
それどころか恐怖さえ感じたのだ。
異形は翼へと変化した腕を広げ距離をとろうと羽ばたく。
だが、偶然か必然か、再び異形の背後から突風が吹き抜けた。
予想外の追い風をもろに翼に受け、意図とは正反対に前へ僅かに飛ばされた。
そして、正面からは再び突撃してくるブルーサスの姿が。
『―――!』
かろうじて身体を変形させるが、反応が遅れた。
ブルーサスの手が触れた肩口が一瞬にして消失する。
異形の口から悲鳴にならない悲鳴が上がった。傷口から出血はない。
それどころかまるで最初からそんな部位がなかったかのように滑らかだ。
悲鳴を聞き、もがき苦しむ異形にガルスと戦闘を行っていた個体が跳び寄る。
そしてブルーサスを睨み、初めて声を発した。
『穢レタ血メ……』
そして共に空へ飛び上がる。
ガルスはそれを追おうとするが、ブルーサスが突然倒れた。
「おい、ブルーサス!?」
呼びかけに返事はない。
―――易々敵を逃すのは悔しいが、それよりもブルーサスの救護が最優先だ。
ぐったりと脱力したブルーサスをガルスは背負う。
とにかく、増援を呼んでいられる状態じゃない。
まずは自警団本部に戻り報告しなければ。
そう考え、本部へ向けて駆け出した。
3.
―――その光景を、遥か高みから傍観する者の姿があった。
王城が有する4本の尖塔のうちのひとつ。
その先端に立ち、王都を猊下する男。
纏う服こそ黒いが、月光に受けて浮かび上がるその肌と髪は透き通る様な白。
―――ギュスターヴだ。
『今日は随分と街が騒がしいわね。誰も知らない祭でもやっているのかしら?』
ギュスターヴに語りかける、彼にしか聞こえない声。
ラヴィーネのものだ。
彼女はこの場には居ないが、彼の瞳を通してこの光景を垣間見ているのだろう。
「祭? いいや、これは“祀り”さ。美しいとは思わないか?」
目を伏せ感慨深げにギュスターヴが答えると、ラヴィーネは呆れたような声をあげた。
『理解しがたくはあるけど……共感はしておくわ。それにしても、私達ですら認識するのがキツイ結界って、一体どんな魔術師がやってるのよ』
ラヴィーネの疑問に、ギュスターヴは笑って答える。
「残念ながら、これは基礎魔術の範疇だよ。認識阻害と簡単な忘却の魔術さ」
『基礎魔術って……本気で言ってるの?』
基礎魔術。
それはいわば「誰にでも扱える魔術」だ。
魔術と名を冠してはいるが、正確には魔術ではない。
本来魔術とは人が適性を持つひとつの概念のみを修得できるものを指す。
基礎魔術とは錬金術や催眠術―――そういったある種の科学的な側面を持つものを指すものだ(本当に科学的か否かは置いておくとして)。
だが、それにしては規模が違い過ぎるとラヴィーネは考えたが、ギュスターヴ曰く「規模が大きい」という認識自体が間違っているらしい。
「あれは2種類の基礎魔術をいくつも張り巡らせることで作り出された結界なんだ。その2種類というのはさっき言った認識阻害と記憶障害。
簡単に説明すると、まず目標の周辺に認識阻害の空間を作り、それと同時にその空間の外部へ忘却魔術が発動し一時的にその場所が存在するという記憶を失う。更にめぼしい力のある人物には個別に強い認識阻害をかけておくことで確実性を高めているんだ。
そのうえ騎士団と夜警団の拠点にも認識阻害が発動するようになってるから、まず探知できないだろうね」
ギュスターヴの説明に、それでも分からないという風にラヴィーネは首を傾げる。
『でも、個別に魔術を掛けるなんてそんな無茶やるのかしら? そもそも自警団ならまだしも騎士団の拠点に魔術かけるなんて可能なの? 余程この国の騎士が無能なら不可能ではないでしょうけど』
「簡単さ。騎士団の魔術師に教徒がいるだけだよ」
ラヴィーネが呆れたような溜息をもらす。
正直単純すぎてその答えを予想していなかったのだ。
『それは、まあ……。でも、なんで私たちやあの《契約者》の子には探知できたのかしら』
「それも簡単なことだよ。まず、僕達やネロに対しては最近王都に来たばかりで《アートレータ・アエテルヌム》の力を見誤っていたんだろうね。それとあの子は……恐らく、魔術が竜に完全には効いていなかったんだろうね」
成程ね、とラヴィーネが頷く。
そして、もうひとつの疑問を口にした。
『―――ところでさっきのあの子、何者? 一瞬だったけど、あれは“上り切った”人間の力よ』
あの子。
それは先程結界の中で巨大な蒼い閃光を放った青年のことだ。
つまりリョウ。
「さあね。彼がどんな渇望を持っているのか気になるところではあるけど。―――さあ、“祀り”も終わったことだし、そろそろそっちに帰るとするよ。明日からは忙しいからね」
『ええ、そうね。“祀り”の後の盛大な“血祭”の準備をしなければならないもの』
再び、ギュスターヴは王都を見渡す。
その顔に浮かぶのは―――羨望と慈愛の入り混じった表情だった。




