第一章 学園入学編 第1話『目覚め(1)』
文章中にアイナとあいながありますが、誤字ではないです。相手から見えているのはアイナ、心の声等はあいなになります。
「――イナ。――アイナ」
あいなの頭の中に悲痛な女性の叫び声が響く。
――だれ?……だれの声?聞き覚えがないけど……。
揺れる意識の中、ゆっくりと瞼をひらく。こちらを心配そうに覗き込む女性の顔が見えた。女性はアイナが目を覚ましたことに気がつくと声を震わせながら身体を抱きしめる。
「アイナ……よかった。気が付いたのね」
――だれ?この人は私を知ってるのに私はこの人を知らない。この声さっきの頭に響いてきた声とは違う……それに見覚えのない人ばかり。いったい此処はどこ?
見知らぬ女性に上半身を抱擁されたまま、首を軽く動かして周囲を見渡す。周囲に複数の人はいるものの、誰一人として見覚えのない現状にあいなは身体が動かなかった。
「……アイナ?もしかして私がわからないのかしら?」
女性はあいなの反応が薄いことに気がつき不安げな表情を浮かべる。
不安げな表情をしている女性を放っておけず咄嗟に嘘をつく。目の前の女性をこれ以上不安にさせたくなかった。
「……わかる!大丈夫!わかります!寝起きでぼうっとしていて……」
――さすがに言い訳がくるしいか……?
「そうよね……あんなことがあったあとですもの。ごめんなさいね」
あいなの想像とは裏腹にすんなりと信じられ少し安堵しつつも罪悪感を覚える。
少しして医者らしき男性が入室してきた。あいなの前に立つと身体に向かって手をかざす。すると、淡い光があいなの身体の周りを覆う。医者らしき男性は淡い光にむかって何かを確認するように、静かに言葉を発する。
――一体何が起きてるの?この淡い光は何?この人だれと話しているの?
「身体に問題はありません。ただ、記憶に関する部分にもやが掛かっているような状態ですが、日常生活くらいなら問題ありませんし、無くした記憶は時間が経てば戻る可能性もあります。お大事になさってください」
「医者ありがとうございます」
あいなは退院許可が降り、誰一人名前も知らない人物たちと共に病室を後にした。病院の外に出ると衛兵数十名が馬車の周りを取り囲み警備をしていた。車ではない。目の前にあるのは、物語の中でしか見たことのない馬車だった。馬車の前まで歩くと、先ほどの女性があいなの背中を支え馬車へ乗り込むように促す。
「アイナ先に乗りなさい。足元気をつけるのよ。大丈夫?」
女性は、先程まで眠っていたあいなを心配し、献身的にサポートをする。そうして馬車へと乗りこみ帰路に着く。
――私は一体、誰になったんだろう。




