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恋いろ  作者: AlphaLD
4/5

よん 転校生、その人物は

 翌朝、いつも通りの時間に目を覚まし、学校へと向かう。その道中、昨日のことを思い出す。

 夕暮れ時、海で黄昏れていた瀧黎ちゃんに出会って、夜道の帰りに明らかなお嬢様口調の女性に出会った。出会いの季節はもう過ぎているというのに、こんなにも新しい出会いがあるとは。

 そんなことを考えながら教室に入ると、何やらみんなが騒がしくしていた。その騒ぎの中心に立っているのは、和翔と同じくクラスメートであり親友の『夜美宮よみみや 綺音あやね』だ。


「こんなに集まってどうしたの」


 そう言って賑やかな中心に近づくと、全員が一斉にこちらに顔を向けてくる。もちろん、その目に男女の隔たりはなく、もれなく全員だ。


「え、なに」


 さすがにこんな一斉に見られては戸惑ってしまう。戸惑いに声を漏らしていると、中心に立っていた綺音がズカズカとこちらに近づいてくる。


「ちょ、どうしたのよアヤ」

「それはこっちのセリフだよ、渦中の人物さん」


 その言葉に首を傾げながらみんなに視線を送ると、ため息をこぼして和翔がわけを説明してくれた。


「お前昨日、綺麗な女の人と一緒にいたろ」

「え?」


 そう言われて一番に思い出すのはやはり瀧黎ちゃんだろう。唯那のことはみんな知っているし、思い当たる人物は瀧黎ちゃんしかいない。だからとりあえず頷きを返しておくことにする。


「やっぱりそうか」

「くぅーっ!羨ましいやつだコノヤロぉ!」

「ねぇねぇその子どんな子だったの!?」

「もしかして好きになっちゃった系?」


 矢継ぎ早に質問攻めにされる。


「ちょっとちょっと!みんな落ち着いてよ、迷惑かけちゃったからお詫びしてただけ!」

「迷惑かけた?」


 アタシの言葉に綺音が眉を顰める。それに対して返答しようとしたが、すんでのところで言葉を止める。


(あんまり、言いふらしていいことじゃないよね)


 勘違いとはいえ、内容が内容だ。本人がいないところで口外していい話ではない。


「ちょっと海ではしゃいじゃってね、そのお詫びをしただけよ」


 若干濁して伝える。実際海にいてそこで迷惑をかけたのだから間違いではない。


「ふーん」


 と、かなり興味なさげな返答を綺音にされてしまう。どうやら彼女の中ではアタシと瀧黎ちゃんの間でなにかときめくことでも起きたのだと思っているのだろう。そんなことは一切ないのだが。


「ほら、この話はもうこれでおしまい」

「えー、もっと聞きたいのに!」

「本人が居ないところであれこれ言うのは良くないでしょ。それに、観光客みたいだったし」


 そんな感じでゆるゆらと話をかわし、この話に終止符を打つ。クラスメートたちもそれ以上の追求はしても無駄だと分かったようで、各々の話に切り替わる。

 ようやく落ち着いたのを確認して自分の机に荷物を置くと、背後から和翔に声をかけられた。


「そういえば見たか?昨日のニュース」

「昨日のニュース?」


 テレビのニュースでなにやら特大情報が流れていたみたいで、アタシの話が終わればクラスメートたちの中でもその話で持ち切りになっている。


「なんだ見てないのか?」

「昨日はお詫びとかあって忙しかったからね。何があったの?」


 アタシの問いかけに和翔が話を続ける。


「あのチョー有名なお嬢様が婚約を破棄したって話だよ」


 そんな話をされるが、あまりテレビを見ないアタシにとってなんのことかさっぱりな話だ。


「へー、そんなことが」

「反応うっすいな」

「だってアタシそんなにテレビ見ないからよく知らないし」

「お前これかなりの重大ニュースなんだぞ!?」


 確かに、教室内の会話を聞いてもそれがかなりの重大ニュースだということは見て取れる。


「でも婚約破棄なんて普通じゃないの?離婚する人なんてごまんといるのに」

「そいつらとはわけが違ぇんだよ、そのお嬢様は許嫁いいなずけとの婚約を破棄したんだ」


 許嫁、いわゆる双方の親が決めた結婚相手ということ。政略結婚と言い換えてもいいだろう。それを破棄する。つまり、親や周りの意見を無視するということだ。


「お嬢様とその婚約相手はお互い納得した上でこの結果を出したみてぇだけど、互いの親はご立腹みてぇでな」

「確かに、その婚約相手が親同士が決めたものなら色々言われちゃうね」

「ニュースではやってなかったが、巷では家を追い出されたなんてうわさまでたってんだよ」

「ふーん、まぁ単なる噂でしょ。流石にそこまでしないでしょ」

(アタシの親じゃあるまいし)


 そんなことを考えていると、学校のチャイムが鳴り響く。その音を聞いたクラスメートたちはわらわらと自分の席に座る。それはアタシと和翔も例外ではない。

 アタシが席に着くと同時に担任教師が少し緊張した面持ちで入室してきた。

 その緊張はクラスメートたちにも伝わり、綺音が口を開いた。


「先生、なんかすごい緊張してますけど」

「ん?あぁ、重役を任されてしまってな」


 いつも明るくて冗談を交えて話す担任がこんなにもガチガチになっているのはアタシを始めみんな見たことがない。この学園では日の浅い新任の先生とは言え、アタシが入学する前から教師として務めていた人がここまで緊張するのだ。きっと、相当な役目を負わされたに違いない。全員がそう思い先生に視線を向ける。


「そのぉ、だな……いや、俺から説明するより見てもらったほうが早いか」


 一瞬言い淀んだ担任がそんなことを口にし、扉の方に顔を向ける。それに合わせて、クラス全員の顔が扉に向けられた。


「入ってくれ」


 そう短く行った途端、扉の開く音が室内に響く。

 コツコツと、優雅な足音と少し緊張した足音が並んで室内に響き渡る。先導する人物の髪は紺色に教室の光を反射し、見る角度によって時に黒く、時に強い青になる。その髪は小さくウェーブがかかっており、背中までのセミロング。歩く度にふわっと足取りのように優雅に浮き上がり、その美しさを知らしめる。

 その後ろをついて歩くもう1人の人物は美しい目を見張る金髪を腰まで伸ばし、編み込まれたハーフアップで小さくポニーテールを作っている。大人っぽくも、幼さが残る髪型だ。

 教台の隣に並んで立つ女性2人。それに教師含め、全員の視線が釘付けになる。静寂に包まれた教室を最初に乱したのは、紺色の髪をした女性だった。

 とても優雅にスカートを小さくたくし上げ、ゆっくりとお辞儀をして見せた。そして、顔を上げた女性は口を開く。


「お初にお目にかかりますわ。わたくし嘩珀弥かびゃくや 誠麗まり』と申します。以後お見知り置きを」


 また深々とお辞儀をする女性、もとい嘩珀弥 誠麗。その優雅たる一挙手一投足に全員の視線が引き込まれた。

 その視線を奪うかのようにもう1人が頭を軽く下げ、口を開いた。


「は、初めまして、『瀧黎 愛』と言います。よろしくお願いします」


 こちらはとても緊張した様子だ。言葉も少し噛みそうになっていたが、それでも何とか耐え、自己紹介を終えた。

 全員が呆気にとられていると、担任が教台に手をついた。


「とまぁ、転校生が2人入ることになった」

「「「ええええ!?」」」


 担任の最後の言葉をトリガーに、全員が驚きに駆られた。


「て、転校生って、しかも2人!?」

「ただでさえ珍しいのに!」

「こんな偶然あんのか……」


 全員が各々言葉を漏らす中、アタシだけは顔を窓の方へと逸らす。その理由は、言うまでもないだろう。でも、目線だけは小さく2人に向けていた。そんなことをしていると、紺色の……嘩珀弥さんがこちらに目線をやり、驚きに目を見開いていた。


「あ、あなたは!」


 バレた。早速バレた。しかもそれのせいで全員の視線がこちらに向けられた。こんな状況になって無視してしまうのは申し訳ない、なのでアタシは嘩珀弥さんに顔を向けた。


「え、えと、昨日ぶりですね」


 そう言葉を漏らすと、全員から言葉がこちらに飛びそうになる。だが、それよりも早く嘩珀弥さんがこちらに近づき、手を取ってきた。


「まさかこんな所で会えるとは思いませんでしたわ!早速御加護があった、ということですわね、刻野さん!」

「え、えぇ、あはは……」


 全員の視線が痛い。さすがに乾いた笑いしか出てこない。その興味津々の瞳に押しつぶされそうになる。ただでさえ嘩珀弥さんがアタシと仲がいいというので興味を示されているのに。


「あはは……昨日ぶりですね、刻野さん」


 教台の隣にまだ立っていた瀧黎ちゃんがそんな言葉を口にした。ますますクラスメートたちの視線が興味に支配される。こうなったらもう後の祭りだった。


「おい刻野!どういうことだ!」

「えっ、刻野くんと転校生が知り合い!?」

「しかも2人ともなんて!」

「昨日一体何が……!」


 クラスは一斉に騒がしくなり、そこらかしこから質問が飛んでくる。


「いやあのこれは……」


 その質問攻めにたじろいでいると、アタシの手を取っていた嘩珀弥さんが全員の方へと体を向けた。


「皆様、落ち着いてくださいませ。そんな一斉に質問をしてもこの方はおひとりしかいませんので答えられませんわ。後の休憩時間に、わたくしもお答えしますので、質問はその時に」


 嘩珀弥さんの言葉にクラスメートたちからの質問攻めは無くなる。でもまだ釈然しゃくぜんとしないのか、話し声は聞こえてくる。

 そんな中、担任はどこかホッとした面持ちでアタシに顔を向けてきた。


「まさか2人とも刻野の知り合いだったとはな。じゃあ2人の席は刻野の隣ってことで」

「は?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえてきたが、アタシの疑問などなんのその、あれよあれよとアタシの左隣に瀧黎ちゃん、右隣に嘩珀弥さんが座り込んだ。


─────────────────────────


 嘩珀弥さんの宣言通り、次の休み時間になればアタシ含め嘩珀弥さんと瀧黎ちゃんがクラスメートに囲まれていた。その中でしっかり質問攻めに会っている訳だが、かく言うアタシも質問を多く投げられる。


「あの2人とはどこで知り合ったの!?」

「どういう関係だ!?」


 とまぁまぁほとんど同じ内容の問いかけだらけだ。それに対しての返答は実に簡単なもの。


「瀧黎ちゃんは海で、嘩珀弥さんは家の近くでたまたまよ。ほんとに昨日初めて会ったの」


 どちらも嘘はない真実だ。そう返答をして2人に顔を向ける。


「───え、じゃあ家にも上がり込んだの!?」

「そうですね、お風呂をお借りしました」

「お風呂!?」

「お夕飯もご馳走してくれましたね」


 瀧黎ちゃんはそうしてあれよあれよと質問を躱している。お風呂を貸して夕飯をご馳走した。本当にそれくらいしかしていないので隠すこともない。ただ少し戸惑っている様子は見て取れる。

 対して嘩珀弥さんは……。


「───途中でナンパに会ってしまいまして、そこをこのお方に助けていただいたのです」

「へぇ、そんなことがあったのか」


 話しぶりはとても凛々しく、特に戸惑った様子もない。あたかもこういった場面に慣れていると言った様子だ。


(そういえば……)


 和翔が先程話していた婚約破棄したお嬢様はどうやら嘩珀弥さんみたいで、みんなそれについても驚いていた。それについてはテレビをあまり見ないアタシからしても驚きの情報なのだが、それで何となく察せられる。みんなの反応、そこにプラスしてテレビでの放送ともなればそれが相当なニュースだということは簡単にわかる。恐らく本人に取材も来ただろうし、この質問攻めに対しての反応。きっと取材を受けてテレビにも出たのだろう。

 そんなことを考えながらみんなの質問に答えつつ、2人に目を向けてしまう。すると、嘩珀弥さんとチラッと目が合わさる。

 目がバッチリあった嘩珀弥さんはニコッと笑みを浮かべる。その笑顔はとても丁寧で美しく、育ちの良さを感じさせる。


「……ですよね、恩人様?」

「え?」


 突然そんなことを言われるが、何が何だかさっぱりだ。でもそんなアタシと嘩珀弥さんの様子を見たクラスメートたちはなにやらニヤニヤとしていたり、睨んできたり。


(一体なんなのよ)


 よく分からないが、みんなの視線が痛いことだけは理解できた。


─────────────────────────


 時間は刻々と過ぎていったが、みんなからの質問攻めは休憩時間を重ねるにして薄まっていき、そのまま昼休みになった。

 ガタッ!と、昼休みになった瞬間、嘩珀弥さんが立ち上がる。それに驚いていると、何故かこちらに向いてアタシのことを見てくる。


「お礼、ですわ!」


 そう高らかに宣言してくる嘩珀弥さんになんだと思っていると、不意に昨日のことを思い出す。


「あ、そういえばそんなことを言ってましたね」


 昨日、恩を返すと決意高らかに宣言されたのを思い出す。


「えぇ、嘩珀弥家の者として、受けたご恩はしっかりお返ししなければなりません」


 そう胸を張って言うということは、恩返しの内容はもう決まっているのだろう。昨日はいらないと返答したが、正直今はどんなお返しがあるのか楽しみではある。


「じゃあお言葉に甘えなくちゃですね」

「ですわ!」


 アタシの言葉に嘩珀弥さんは大きく頷いていた。


「お返し、そんなような話してたね」


 たまたま近くを通った綺音がそう言葉を漏らす。先程までの休憩時間に他のクラスメートと混ざって綺音も嘩珀弥さんに質問を投げかけていたみたいで、アタシと嘩珀弥さんの関係は知っているみたいだ。


「えぇ、よろしければ夜美宮さんもご一緒しませんか?」

「え、いいの?お礼じゃ……」


 そう遠慮しようとする綺音だが、嘩珀弥さんはどうやら逃がしてはくれない様子だ。


「いいんですの、お近付きの印にということで」


 軽くウィンクまでしてそんなことを言う。お嬢様とは言うけれど、質問攻めの時にも見せていたこういったあどけない仕草はかなり親しみやすく感じる。


「……それなら断る理由はないね」


 その親しみやすさに負けたのか、綺音が嬉しそうに頷く。それを受けて嘩珀弥さんもとても嬉しそうだ。


「瀧黎さんもご一緒いたしましょう」

「───え?」


 カバンの中の荷物を整理していた瀧黎ちゃんが突如言われた言葉に理解が追いつかずにそんな言葉を漏らす。


「私、ですか?」

「もちろんですわ!とても偶然に同じ日に転入を果たし、あまつさえ同じ日にこのお方と知り合った。これはもう運命と言ってさしつかえありません」

「え、運命って……」


 嘩珀弥さんの言葉にかなり戸惑った様子の瀧黎ちゃん。その言い回しはまるで漫画やドラマの恋愛モノの主人公あるあるな告白のようだ。


「えぇ、御友人になる運命、ですわ!」

「あ、そういう……」


 瀧黎ちゃんも同じようなことを考えていたようだが、嘩珀弥さんの考えは全く違っていた。


「?」

「あ、いえ」


 瀧黎ちゃんの反応に首を傾げる嘩珀弥さん。先程のセリフが漫画やドラマなどで使われていることは当人は知らないようだった。


「そういえば、何でお返ししようと考えてるの?」


 ふと気になったのか、綺音がそんな問いかけをする。正直その内容はアタシも気になっていた内容だった。その質問を受けて嘩珀弥さんはふふんと鼻を鳴らし、何故か胸を張った。そして一言。


「それは『学食』、ですわ!」

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