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ユララとウララ

 誰かに体を触られている。


 右半身では、足から体へと小さな手のひらがスルスルと上っていく。また、左半身では、腹の辺りをつんつんとつつかれている。私は思わず、目を覚ました。


 目を覚ますと、視界には、木でできた屋根と二人の少女が私の体を撫でまわしている。その二人の少女はどちらも長い黒髪で、顔は小さく丸い。そして、双子の様に瓜二つで、視界が左右対称になっている。しかし、その少女達にはただ一つ大きな違いがある。


 右側の少女だけ目を隠すように包帯をぐるぐる巻きにしているのだ。少女二人は私が目覚めたことに気が付くと、目の見えている左側の少女がすぐに立ち上がり、包帯の少女の手を取った。そして、左の少女は手を引っ張り、私から離れようとする。


 引っ張られた包帯の少女は、やはり目が見えていないらしく、私の体を飛び越えず、私の腹を踏み締めた。私は彼女の踏みつけに押されて、腹から内臓が上ってくる。腹部に痛みが走ったが、心臓をよく握られる私にとっては慣れていた。


 少女達は私から離れ、部屋の隅へと移動した。私は警戒する少女はミナミの妹たちだろうか?と思いながら、部屋の中で、ミナミを探すが、その二人の少女以外誰もいない。


 見渡した部屋とそこにある家具一式はほぼ全て木で出来ていた。また、寝ている床も木で出来ていて、かろうじて、藁を編んだ布団のようなものが敷かれていたが、下の床板の硬さが全身に伝わってきて、体を痛めそうだ。この木の床から一段下がった所に、小さな玄関があり、外とつながる戸がある。


 その部屋の真ん中には囲炉裏があり、その四角に囲まれた木枠の中は、灰が溜まっていて、その中心には火がめらめらと燃えている。そして、その火の周辺に金属の土台があり、その土台の上に、鉄の鍋が置かれている。中ではグツグツと何が煮えている。


 部屋の窓は解放され、囲炉裏の煙は外へと出ているが、部屋中に煙臭さと鍋の獣臭さが漂っている。私は部屋を一通り見渡した後、部屋の隅に逃げた二人の少女を見つめた。


「ミナミさん、どっかに行ったかな?」

 私はそう話しかけた。私は目の合った方の少女へと話しかけたのだが、彼女は隣にいる目に包帯を巻いた方の少女の後ろへ隠れ、私から目を逸らした。その代わり、盾にされた包帯の少女が私の質問に答えた。


「ミナミ姉ちゃんは、祈りに出かけた。」

 祈り? 宗教か何かだろうか?


「じゃあ、その祈りからいつ帰ってくるのかな?」

「多分、もうすぐ帰ってくる。ユララはウララと一緒にお兄ちゃんの面倒と火の元を見るように言われた。」

 包帯の少女は私の発言に淡々と受け応えた。


「君がユララちゃんで、その後ろに隠れている子がウララちゃんかな?」

 包帯の少女はこくりとうなづいた。そんな話をしていると、玄関の扉がガタガタと音を立てて開いた。すると、血で汚れた服から綺麗な服に着替えたミナミが立っていた。


「起きたんですね。 お体は大丈夫ですか?」

「ええ、まあ、良いとは言えませんが、悪くはないです。」

「そうですか。 急いで、運んだ甲斐がありました。」

「えっ、あなた一人で私を運んだんですか?」

「ええ。」

 私は彼女の体を見回した。細身で小柄な女性なのだが、私一人と鹿一匹を持ちながら、山を下りたということなのか。そもそも、彼女は私一人を穴から持ち上げた時に不思議に思うべきだったのかもしれない。


「……見かけによらず、体力あるんですね。」

「そうですか? この村だと非力な方なんですけど。」

「そうなんですか?」

「とりあえず、また倒れられたら困るので、食べましょう。


 ユララ達も食べましょう。」

 そう言うと、ユララはウララの肩を叩いた。すると、ウララは後ろから出てきた。そして、ウララは目を隠しているユララの手を引いて、私を避けるように、囲炉裏を遠回りし、ミナミの方へと向かった。


「じゃあ、ユララ達は食器の用意してくれる? 確か、食器と箸は余っていたでしょう?」

 そう伝えると、目の見えるウララは部屋の中にある棚へ向かい、食器や箸などを出し、ユララへと渡した。そして、ウララは、食器で両手の塞がったユララの背中を押して、私の下へと食器と箸を運んだ。そして、ウララはこちらの様子を伺い、怯えた様子で、ユララの持った食器と箸を私に渡した。


「ありがとう。」

 私がそう言うと、ウララは小さくうなづいた。そして、他の食器を自分たちの座る場所へと置いていった。その二人の様子を見ていたミナミは、こちらに近づいて来て、小さな声で私に耳打ちをした。


「もう分かったかもしれないですけど、ユララは目が見えなくて、ウララは口がきけないんですよ。だから、そこの所は知っておいてください。」

 ミナミはそう私に忠告した。


「準備できたよ。」

 ユララは食器と箸を並べ終わると、そう言った。

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