幼児の日常とドワーフ
現在、この作品は加筆(改訂)作業中です。
まだ、第二話以降は加筆(改訂)作業は終了しておりません。
ご注意ください。
木々の若葉も蔽い茂るようになり、過ごし易い日々が続く。
あの不可解な絵本を見つけてからは、幼児の一番の愛読書となり片時も離しはしなかった。
今日も、いつもの様に絵本を開く。
何時もの様に、文字と絵を目で追う。
「このほんにかかれていることは、しんしつらしい」
(この本に書かれてることは、真実らしい)
絵本を見つけてから、数日間の内に話を聞いたりした結果から、導き出した答え。
「このあとのないようは、たれもしらないみたいた」
(この後の内容は、誰も知らないみたいだ)
大人に、絵本を見せた結果、危うく切り取った犯人にされかけた少し苦い記憶を思い出す。
「しんちうにこうとうしよう」
(慎重に行動しよう)
視野の端に、一冊の絵本が入る。
善良な領主が、些細な切っ掛けで幸運が訪れる物語だ。
(逆も有るな。何を引き鉄に、災いが降り注ぐか分からない気をつけよう)
ちょっと身震いしながら、心に留める。
枕代わりにしている忠犬からの激しくなってきた振動を感じ、その様子を横目で窺う。
寝そべっている忠犬は母親から貰った大きな骨を、一心不乱にガリガリ齧ってる。
「ちとこわいよろら」
(ちょっと怖いよロラ)
違う意味で身震いし、再び絵本に視線を戻す。
二度、三度読み返していると……
「ラトゥ、ジークとイグが遊びに来たわよ」
母親の声に振動が止まる。
夢中で齧っていた骨を咥えたまま、パタパタ振っていた尻尾も止まり、耳も横を向き警戒を顕わにする。
「ろら、そこまて……」
(ロラ、そこまで……)
忠犬の警戒に、溜め息を吐きながら
「しかたない」
(仕方ない)
幼児は、自分の玩具箱を横にして、幼児垂涎の玩具を自分と忠犬の前に広げる。
「これてたいしうふ」
(これで大丈夫)
パタパタパタパタ……
少し時間をおいて、足音が近づいてくる。
バタン
元気よく扉が開かれる。
間髪入れずに赤毛翠瞳の幼児が、少し遅れて銀髪金眼銀目の幼児が入ってくる。
「「おもち~~」」
((玩具~~))
二人の幼児達は、扉と幼児と忠犬の間に広げられた玩具に気を取らている。
「ろら、いまのうち」
(ロラ、今のうちだよ)
ポンポンと忠犬に合図し、小声で退室を促す。
声も無く忠犬は、心配そうに幼児を窺う。
幼児は、ゆっくりと頷く。
忠犬は骨を咥えたまま足音を殺し、幼児の死角になる様に迂回しながら扉に向う。
(頑張れ、ロラ)
声に出せないまま、幼児は忠犬を応援する。
二人の幼児達は、お気に入りの玩具を取り合って忠犬の動きに気付いていない。
「あと、ふたりともおもちこわすなよ」
(あと、二人とも玩具壊すなよ)
絵本を読むふりをしながら、二人の行動を見張る。
最終的に取り合っていた玩具は、赤毛の幼児が奪い、銀髪の幼児が半泣きになった。
忠犬は、扉まで、もう少し処まで来ている。
「まあ、これてろらはたいしうふか」
(まあ、これでロラは大丈夫か)
幼児は、絵本を横に置き立ち上がる。
(さて、イグを慰めるか)
その瞬間。
「あっ、わんわ~」
銀髪の幼児が忠犬を指差し叫ぶ。
ポトッ
予想外の展開に、忠犬は咥えていた骨を落とす。
「ああぁっ、わんわ~」
向きを変え忠犬の姿を確認すると、赤毛の幼児は玩具を放り出し、忠犬に一直線に向う。
一瞬の事で、対応が出来なかった忠犬は、呆気無く捕まってしまう。
その後ろで、銀髪の幼児が、放り出された玩具で遊び始める。
「いく、ちえかついてきたな。それにしても、しくひかかりすきた」
(イグ、知恵が付いてきたな。それにしても、ジーク引っ掛かり過ぎだ)
乳兄弟の予想外の成長を間近で見て驚き、また、いつも通りの行動に思わず、ぼやく。
この日も、忠犬の尻尾や毛を引っ張られ逃げ出し、赤髪の幼児が泣き出し、つられて銀髪の幼児も泣き出し、幼児が頑張る破目になった。
「いつもとけっかはおなしか」
(いつもと結果は同じか)
二人と乳母が帰り、応接間で憔悴しきった忠犬に靠れかかりながら幼児はぼやく。
「かんはたね。ありかとろら、しかし……」
(頑張ったね。ありがとうロラ、しかし……)
いつもよりも頑張った忠犬を撫でながら、銀髪の幼児の成長に驚く。
絵本を開く気力も無くし、しばらく靠れかかっていると、だんだん眠気に襲われてくる。
「あぁ、かたつけないと」
(あぁ、片付けないと)
幼児は、散かり放題の自室を思い出し、疲労で重い身体を無理やり起こし、扉に向かう。
忠犬も、幼児に倣い後を追う。
廊下に出ようとした時
急に扉が開き、体勢を崩しかけた幼児は、忠犬に肩口を咥えられ転倒を免れる。
「おぉ、ラトゥか? 大丈夫か?」
通路から祖父が入ってくる。
その後ろには、冬の逃走劇で忠犬が飛びかか様にジャレた、あのドワーフが居た。
その姿を見た瞬間、幼児の眠気が一気に醒める。
「うむ、二人は冬にも会っているな。改めて紹介しよう」
ドワーフから目が離せない孫を観た祖父は
「儂の自慢の孫のラトゥだ」
ドワーフに幼児を紹介し始め
「ハイデ男爵領北方の丘陵地帯に住まう。ドワーフ族長の息子のカザトだ」
再び孫に、祖父はドワーフを紹介し
「こんにちは、かさとさん」
(こんにちは、カザトさん)
「こんにちは、ラトゥ」
にこやかに握手する。
「今から、ジージは大切な話をするから、ラトゥは外で遊んでおいで」
にこやかに見送ろうとする祖父を
「ぅんん、ほくもききたいの、おねかいジージ」
(うんん、僕も聴きたいの、お願いお爺様)
孫は、やんわりと拒否し、強かにお願いをし応接間に居座る。
「仕方ないのう。大人しくして居るんじゃぞ」
少し困った顔をした祖父を後目に、幼児は好機を感じ取っていた。




