ドワーフと有輪犂の話
現在、この作品は加筆(改訂)作業中です。
まだ、第二話以降は加筆(改訂)作業は終了しておりません。
ご注意ください。
気だるい昼下がり応接間で、三人と一匹は一時を過ごす
大人二人が皮を張った椅子に座り、祖父の膝に幼児が乗る。足元には忠犬が横たわり、ウトウトし始める。
そんな中で、祖父とドワーフ(カザト)の有輪犂の話が穏やかに始まる。
「これを見てくれ」
三枚の羊皮紙を取り出し広げる。
そこには、新しい有輪犂の図案と以前の犂二つの図案が描かれていた。
「ほぅ、これは」
興味深そうに、ドワーフ(カザト)は図案を見る
「斬新じゃろう」
自信満々の祖父の膝で、幼児は怪訝な顔を必死で抑える
(最悪だ。進化の方向性が全く違う。何故こうなる?)
確かに、ラトゥは初代ラザード・ラグナローグ・ハイデ男爵の名を騙り、有輪犂の方向性を説き、自然に有用性が見出される筈だった。
だが、
「これで、作業効率が良くなるはずだ」
自信満々の祖父と、平常を装っているが頭を抱えたくなる孫がドワーフ(カザト)に向き合っていた。
「ふむ、車輪をつける事によって、速度が上がるみたいですな」
顎鬚に手をやり、ドワーフ(カザト)は図案から、利点を読み解く。
「その通りだ」
(違うんだ。有輪犂は、深く耕す為の犂であって速度を求めていない。求めているのは作業効率より作業の質なんだ)
対照的な心境で、孫は祖父の膝に乗っていた。
(風向きを変えなくては)
苦々しく思うが、切っ掛けが無い。
幼児は、他の図面に視線を落とす。
(木製犂と金属切断面使用犂の狭間か、微妙な技術レベルだ。この世界の技術レベル読み違えた。しかも、牛一頭曳き用の犂じゃないか、普通は牛二頭牽きじゃないのか)
農場で改良型犂を見て無かった事を、苦々しく思う。
祖父とドワーフ(カザト)の話がスムーズに進む中、孫は、木製犂と金属切断面使用犂の過渡期に、多連動犂を素っ飛ばし有輪犂の知識を持ちこんだ弊害に頭を悩ます。
その中で、二人の話が進み、技術提供の話も出始め、孫思わず天(天井)を仰ぐ。
そこには、
(あ……、)
視界に、初代ラザード・ラグナローグ・ハイデ男爵の肖像画が入る。
(再び、お借りするか)
意を決し機会を待つ。
話は進むが、徐々に脱線しかけ
「話はも……」
話を戻そうと、祖父が雑談を切ろうとした時、膝の上の孫が動く。
「ね、ね、じーじ」
(ねぇ、ねぇ、お爺様)
「なんじゃ、ラトゥ?」
(ラトゥが、初代様からの言葉を聞いて居なければ話が変わっていたし、もしかしたら……)
さらなる言葉を期待して、今まで大人しくして居た孫に、視線を落とす。
「そういえは、したいさまかいてたの」
(そう言えば、初代様が言ってたの)
「初代様が、何を言っていたんだ?」
不思議そうに、祖父は孫に問い掛ける。
「しりんのついたすきは、てつてつくれて」
(車輪の付いた犂は、鉄で作れって)
一瞬、ポカーンとする祖父を後目に、孫は考えを纏める。
(もういい。多連動犂は、取り敢えず置いて置く。その上で、深く耕せて、ある一定の作業能力を持つ有輪犂の制作に舵を切る)
「鉄でか?」
「うん」
笑みを浮かべながら頷く孫に、祖父は困惑する。
「鉄で作ったら重くなるぞ、しかも、作業効率も悪くなる」
不満そうに応える。
「ても、ふかくたかやせるていてたよ」
(でも、深く耕せるって言ってたよ)
ニコニコと、孫が返答するが
「深く耕せても意味がないだろう」
とても微妙な顔で、祖父は疑問を口にする
「ふかくたかやせると、さそうかはえにくい。て、はなしてたよ」
(深く耕せると、雑草が生えにくい。って、話してたよ)
疑問に応える孫に対し
「しかし、鉄で作ったら車輪が付いていても重くて、一頭では効率が悪かろう」
否定的な言葉で返す。
「うん、たから、うしにとうかよんとうて、ひくといいていてたよ」
(うん、だから、牛二頭か四頭で、牽くと良いって言ってたよ)
「……むぅ」
孫の言葉を無下にする訳にもいかずに、祖父は困惑する
暫しの沈黙
祖父と孫の間での会話で、蚊帳の外だったドワーフ(カザト)が、ためらいがちに口を開く
「車輪を付けるとの発案は、もしかして」
「あぁ、ラトゥが夢の中で、初代様。ラザード・ラグナローグ・ハイデ男爵の御言葉を聞いたので、それから試行錯誤して、絵図を引いたのじゃ」
頭を掻きながら、祖父は答える。
「我等は、しばらく滞在する予定ですので、この話は時間をかけて話し合いませんか?」
「そうじゃな」
一先ず話が終わった雰囲気が漂う。
(取り敢えず、最悪の方向性は回避できたようだな)
この雰囲気に、幼児は胸を撫で下ろす。だが、ここは異世界、日本では無い。何が起こっても不思議では無い。
(真田先輩、こんな時、どうすればいいんですか?)
微妙な空気の中、前世で高校の先輩に現実逃避の話を振り
(出来たら、マジ変わって欲しい)
現実逃避代わりに、ぼやく。
「ふむ」
ドワーフ(カザト)が興味深そうに幼児に顔を近づける
(……恐っ、なに?なんだよ)
ちょっと仰け反りながら、幼児は視線を合わせる。
(視線を逸らしたら、なんかに負けそう。って言うか逸らせない)
ドワーフ(カザト)と幼児は、一時の間、見詰め合う。
「ラックス殿、一つ頼みがある」
ドワーフ(カザト)が、徐に口を開く。
「なんじゃ?」
ラックスと呼ばれた祖父は図面と睨めっこしながら、何処か上の空で応える。
「ラトゥ殿を儂の娘の婿にくれ」
ドワーフ(カザト)が意を決し、重い口を開く
「駄目だ」
間髪入れずに、応え
「駄目か?」
短い言葉の遣り取りが二人の間で行われる。
「駄目だ。ラトゥは、息子の次にハイデ男爵領を継ぐから婿にやれん」
「じゃあ、儂の娘をラトゥ殿やる。ついでに、鉄製の有輪犂を婚約祝いに作ってやる」
ドワーフ(カザト)が、早々に折れる。
「……それならいい」
あっさり、祖父が認める。
(えぇっと、なに俺、齢一歳ぐらいで、許婚ですか?あぁ、あれですか。絵本であった善良な領主が、些細な切っ掛けで幸運が訪れる物語のアレですか。って、言うか。本当に、何が引き鉄なるか分らないですよ)
少しパニックになりながら、膝の上から祖父の顔を見る。
思案顔で見つめる視線の先には、図案が描かれた三枚の羊皮紙。
(えぇっ~と爺ちゃん。実は、話半分で言ってない?)
視線を正面に戻すとドワーフ(カザト)は、一向に視線を幼児から離してない。
(なんか、ドワーフ(カザト)さんは、マジみたいですよ。御爺様)
祖父と孫の足元で、スピスピ鼻を鳴らしながら忠犬が眠っている中、一方的に婚約が決まった瞬間だった。




