8話 指示
8話 指示
あいつはまだ作業していた。
あの人物もだ。
運が良かったのは二人の距離があったことだ。
道具の影に身を隠すこともできた。
…。
それにしても…。
…いや、考えるな。
俺は小さな声であいつに呼びかける。
「おい…おい、…お前」
「聞いてるか?」
「おい」
…反応がない、黙々と作業している。
「こっちを見ろ!」
あいつは前と同じように一度俺を見て、
その後また作業をした。
…くそっ。
…強引に引っ張ってもいいが、足枷になると俺が危険だ。
俺は何か気を引けないか考えた…。
…。
…。
「アイ」
「なんですか?」
驚き、焦り、緊張、といった感情が体に噴き出した気がした。
初めて、あいつが返事をした。
「あっ…」
声にならない。
やばい、…気付かれた。
俺は慌てて隠れる。
…あの人物だ。
あいつが急に喋ったことに気付いたのだ。
「アイ、どうした」
そう言ってあいつの頭に手をかざす…。
……!
いや、頭に手が入り込んだ…。
俺は正直目を疑った。
だが今は息を殺し状況を見守る。
しばらくするとアイと呼ばれたあいつは
何事もなかったように作業に戻った。
あの人物も同じだ。
俺は驚きはしたが、同時に安堵も覚えた。
…人間じゃない。
その気持ちは俺の行動を加速させた。
…しばらく様子をみていたが、あの人物がさらに遠ざかったとき、
俺はあいつにこう言った。
「アイ。長い廊下の先にある、お前が出てきた部屋へ行け」
「喋るな。音を立てず、静かに行け。」
…あいつは俺の言う通りに動いた。
…そういうことか、なるほど。
俺は不敵な笑みを浮かべた。
ここに来て初めて、俺は笑った。




