第九話
会議が終わった会場では、インストがシュリアンにやり切れないような感情と言葉を投げかけた。
「環境変化に対応するためとはいえ、世代交代を数百年単位まで縮めるだなんて……」
「僕らであっても、数百年では何もできないし、何も解明できない。なぜそんな道を選んだのだろうか? この不運に流された銀河の住人たちは」
「それしか、なかったのでしょうね。私たちが経験したことがないほどの、銀河マージによる環境変化の凄まじさに対応する方法が」
「でも……なんて言葉は、間違えているね」
「そうね。誰かの決定や行動に対する『でも』は明らかに否定。アンドロメダ銀河では許されないことね」
シュリアンは大きく静かにうなずいた。
会議で決定されたことは、即時プロキシフォレジャーの操縦士や、エポンラインのドライバーにも共有された。
不運な銀河で初めて知的生命体の痕跡を発見したA班は、マニュアル操作での調査や周辺の調査を念入りにおこなったが、たった一つの『正二十面体』という知的生命体の痕跡以外は、何も発見できなかった。
調査開始から十二日間が経過し、割り振られた星の調査を終えたプロキシフォレジャーから順に、今後の有酸素星への調査準備のため、各ゾーンの宙域で待機しているMパックへの帰箱が始まっていた。そんな時にE班から緊急通報が入った。
「至急! E班のミティです。私が操縦する一機のプロキシフォレジャーが操作不能。重力場に捉えられてしまいました」
シュリアンと同じ部屋にいたインストも、身を乗り出すようにホログラムを覗き込んだ。
「ミティさん、シュリアンだ。操縦不能の理由は三つ。プロキシフォレジャーが故障したか、コックピットが故障したか、通信システムが故障したかのどれかだ。機械の故障というのはとても低い確率だ。だから僕たち生命体由来であるインディビジュアルエラーから確認しよう。通信の確認からだね。コックピット側のマガジンインジゲーターを表示してくれるかな?」
「はい、これです、表示しました」
「うん、冷静で素晴らしい。コックピット側の使用済みカプセル位置はどうなっているかな?」
「AスロットとBスロットの二本のマガジンが空。現在Dスロットのマガジンが潰れていってます」
「もう大丈夫だ、ミティさん。コックピットのマガジンを入れ替えよう。CとDを入れ替えるんだ」
しばらくすると、ホログラムには画像が映し出された。次の瞬間、見たこともないような物影が通り過ぎていくのをカメラは捉えた。
「なに? あれ?」
ホログラムを見ていたインストがつぶやくのと同時に、ミティからの報告が入る。
「はい!……入れ替え完了です、映像回復しました。操作も回復です」
「よしミティさん、冷静で良い対応だった。もしCスロットとDスロットの差し間違いであれば、Dスロットになってしばらくの間は通信不能になる。その時は少し待ってみてくれ。少し待って反応がない場合は、もう一度マガジンインジゲーターで、その時に潰れていっているカプセル場所を見つけて、そのスロットのマガジンを最前のスロットに差し替えてくれ」
「ありがとうございました。私、操縦不能なんて初めてで」
「うんうん、みんな初めての時は怖いもんだよ。でも冷静に処理できていたよ。さすがミティさん」
「ミティ、私よ、インストよ? あなたがマガジン差し替えをしている間に、おかしな物体をカメラがとらえているの。その画像をすぐにこちらに回してちょうだい」
「わかった、インスト……ああ、これだね、送ります」
事務員室の大型ホログラム投影スペースには、何とも言えない奇妙な形の物体が映し出された。
インストはすぐに解析を始める。
「1FPSだからこの一枚にしか映っていないけど……これ……なに? 大きすぎやしない?」
シュリアンも隣で考えあぐねていた。
「とにかく、一度ミティさんの方を完全復帰させよう。ミティさん、それでは予定通りの行動に戻ろう。今の座標はわかるかな?」
「はい。引き込まれていたのは、おそらくオヤイアットという星系の重力場です。予定通りE班のMパックまで戻ります」
「うん。素晴らしい危機回避行動だったよ。ご安全に」
シュリアンがインストに視線を戻すと、じっとホログラムに映し出された謎の物体を見つめていた。
「インストさん。これはどう見ても人工の工作物、つまり君の専門分野だ。僕はこの後、有酸素星の調査のフォローアップに入らなければならない。この工作物の調査は君に任せていいかな?」
「……もちろんよ……だけれど、これ、いったい何なのかしら?」




