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ダブルスタンダード  作者: 平瀬川神木
第二章 誰も探さない場所

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第八話

『三十六の星で作られていたこの星系。その中の六の星で栄えた我らの文明も、残すところ私と十七名の命となった。この不運な銀河は、他銀河との統合を果たすたびに銀河環境が大きく変化した。銀河渦の向きや角度が違う銀河との統合。ガスなどの成分が反発しあう銀河との融合で、驚くほど銀河自体の性質が変化した。我ら、この不運に流される銀河の知的生命体は、環境適合のために世代交代を速めていった。私はその流れに反対した、生き残りのおいぼれ生命体だ。世代交代のリズムが一億年を切ったころから、徐々に知性が退化していった。当然だ。たかが一億年で何を成し遂げられるというのだ? それでも環境変化に対応していくために世代交代の速度を速め続け、千年を切ったころには文明も崩壊し始めた。自分で何も成し遂げられぬ生命体の集団だ。文明文化が保てなくなるのも当然だろう。もはや集団としての保持よりも、個の保持を優先させる有様となり、我々の仲間は消えてなくなった。仲間たちに送る。ありがとう。そして残念だ。無念だ』

 ウハメが複雑な心境を胸に、会場を見渡す。

「仕事柄、私はいくつもの絶滅した種族を知っていますし、接点もありました。前回ビッグバンは百四十億年前。我々アンドロメダ銀河がゼロスキップ技術を手に入れて、周辺銀河の調査を開始したのが百億年ほど前。概ねこの期間で絶滅した可能性が高いと推測いたします」

 ウハメのホログラムが消えると、インストのホログラムが映し出された。

「工部技術員としての意見は、九十八億年程度前だと考えます。この頃の隣の銀河は、我々の観測記録にも残っておりますとおり、ガイアエンケラドゥス銀河とのマージというより大衝突をした時期です。その前後にもたくさんの銀河と融合したという記述も散見されるため、とても不安定だったこの時期ではないかと考えます」

 ホログラムがシュリアンに変わる。

「私の分析といたしましては、イリジウム単結晶から出ている磁力の弱さから考えても、インストさんとウハメさんの意見に同意いたします。九十八億年から百億年前に起こった哀しい出来事だったと考えます」

 ここまでの説明を聞いていた種族が発言をする。

「とすると、ビッグバン後の不安定な時期に作られたということですわね。その前の宇宙、つまり親宇宙にあった星々が巻き込まれたビッグバン。私達だってもしかしたら、隣の銀河のような不運に見舞われたかもしれない。皆さんで彼らのために祈りませんか?」

 議場は全ての同意スイッチが押されて、数分間全員で黙とうをささげた。


「シュリアン。そうですね、隣の銀河に生命体は期待できないのではないですか? そうですね、調査を続けるということは、彼らが打った終止符を部外の我々が書き換えるような気持ちになってしまうのだけれど」

「シュリアン、オッレの種族も元はアルカイック銀河出身だっぱ。百億年前のマージでアンドロメダ銀河の一部となったっぱ。当時はまだ技術力も低くて、マージの際に絶滅したアルカイック銀河の種族もたくさんいるっぱ。あの時のことを思い出して、さっきのメッセージを聞くと、これこそが隣の不運な銀河の知的生命体と出会えない理由なんじゃなかっぱか? そうだとしたら、その場所を他の銀河の生命体に調査されるってのは、自分勝手かもしれねんけんど、オッレもやめて欲しい気持ちを持つっぱ」

 会場内は重苦しい空気に包まれた。だがシュリアンは、いつものように明るい元気な声で発言した。

「なるほど。銀河全体に起こったことは、一つの星でも起こることだし、一つの星で起こったことが、銀河全体に波及することもある。世代交代を速めたことで、知性が低下して、最終的に文明文化が保てなくなった。これが不運な銀河で知的生命体と出会えない、大きな理由なのかもしれない。でも低下した知性で、頑張って生き残っている種族がいるかもしれない。だからこそ僕は、僕らアンドロメダは、僕らの知恵を共有するために手を差し伸べたいと考えてしまうのです。知恵は無限です。僕らアンドロメダ憲章『協力し合う』をこれから仲間になる生命体にも提供したいのです」

「ではシュリアン。このメッセージが見つかった宙域の全ての星で、このメッセージカードを探したらどうかしら? 知的生命体が存在したことは把握したのだから、とんでもない星のことは一度忘れて」

「不運な銀河を知る上で、とても意味があるとは思うのですが、今回のメッセージが発見できたのは運が良かったからです。同じ時期に残されたメッセージだとすると、イリジウム単結晶から出ている磁力がとても弱いため、プロキシフォレジャーによる光速移動スキャンは不可能です。だからとても時間がかかってしまう。この宙域全体で数千年規模の調査になります。ですので、先に知的生命体を探して、その後で不運な銀河の歴史を知るためにメッセージを探す調査を進めていくという案はいかがでしょうか?」

 会議場内では積極的同意というより、妥協を表すような速度で同意のスイッチが押されていった。

「ありがとうございます。それでは、今後についての確認でございますが、前回の会議で決定された通り、残りの二週間は有酸素星の調査をおこなうことは、継続でよろしいですね?」

 会議空間では、全員の同意スイッチが押された。シュリアンは笑顔を浮かべて締めくくった。

「今回のマージが、不運な銀河にとって不運なものにならないように。全力で調査を継続します」


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