第十話
数日後、それぞれの班のプロキシフォレジャー全機が、無事Mパックに戻った。予定では有酸素星の調査に入るタイミングまであと二日。シュリアンは調査を前倒しせずに、ここで一度休憩を取ることを操縦士たちに提案した。
するとインストがシュリアンに声をかける。
「シュリアン。これから臨時会議をしようと思うの。オムニノードの各専門員が集まる。時間ができたなら参加してくれるかしら?」
「ああ、こないだのあの謎の物体の解明だね?」
「私なりに頑張ってはみたのだけれど、全く見当がつかない。視野は広い方が良いと思ってね」
「それはそうだね。わかったよ。すぐに始めるかい?」
そう言った瞬間に、シュリアンの目の前にはメンバー全員のホログラムが浮き上がった。
インストが口火を切る。
「みんな。時間をありがとう。私一人ではどうにも思考が行き詰まってしまうから、みんなの力を借りたいの。不運な銀河のオヤイアット星系外縁で、操縦不能になったプロキシフォレジャーが偶然映像をとらえた謎の物体について。意見を聞かせて?」
「……まず、前提を確認させてほしい」
通信監理員のリントがホログラムを見る。
「これが人工物だというインストの主張を前提とするならば、この設計者は物理学に対する嫌がらせを目的としているとしか思えない。見て? この無意味に突き出した三本の棒を。慣性モーメントを無視し、構造的な脆弱性をわざわざ晒している。ヌルフィールド被膜も設置できないのではない? だとすると着陸という概念が必要になるから、これは着陸時、地面に固定するためのアンカーのようなものではないだろうか?」
生命技術員のプレヴァが付け加える。
「リントさん、物理学を無視している点とアンカーに対して同感です。私が一番理解不能なのは、この巨大な白い円盤です。おそらくですが、これは昔、電磁波通信で使われていたアンテナ、集波装置ではないでしょうか? 跳ね返して一点に集中させて、そのポイントでキャッチするという、とても古典的な作りのアンテナに見えます。原始的な作りではありますが、受信センサーの機能が弱かった時代の技術なのかもしれません」
「サイズも中途半端ですね」
星系調整員のキコブがデータをスクロールさせる。
「一枚の画像からでは正確に判断できませんが、とにかく大き過ぎる物体だ。第二核のオーン星でも作れないサイズだと推察できる。恒星規模ではないが……かといって、知的生命体が作った目的物。つまり道具だったり、輸送機器だったりするには巨大すぎる。例えばこのサイズの物体が、定期的にルートを通っている。重力波であるアルト線やバルミ線のずれやゆがみを調整している……のか?」
インストは、悔しさを表す。
「わからないわ。一番意味不明なのは、機体の側面に貼り付けられた『黄色い円盤』よ。これだけは、他のパーツと扱いが違うように見える。でも、ただの金属板。表面には傷のような溝が円状に走っているわ。……リントさん、これ、あなたの専門でしょう?」
リントは笑った。
「まさか。その傷が情報だと言いたいの? 情報だったとして、宙域空間を秒速二十キロくらいの速度で移動している、その円盤に書かれた情報を誰が読めるというの? いくら馬鹿でかいからといって、インストさんが好きな『ノイズパージ・エステ』の看板をこんな速度で、こんな場所を移動させていたって、誰も読めないでしょ? 意味がない。だから私は、これは情報の記録ではなく、ただの損壊だと推察する。私の見解では、これは単なるデザイン……あるいはどこかの小惑星に衝突した際についた損傷跡ね」
銀河調整員のウハメが、静かに口を開く。
「百億年前の彼らはイリジウムの単結晶を使った。だが、この物体からはそれほどの知性は感じられない。……おそらく、乱流に耐えきれず知能が退化した生命体が、動くものを作りたいという本能だけで組み上げた、壊れた玩具のようなものだろう。あの中にロジックは存在しない」
「結論が出たようね」
インストが、投影された謎の物体を見つめた。
「不運な銀河で知的生命体と出会えない理由と仮定している、知能低下した知的生命体が作り出した、あらゆる技術力や知識的根拠が低い建造物。おそらく作った種族たちも、本当の目的は把握できていなかった。シュリアン。私たちの結論として、ただの巨大なデブリとして報告するわ?」
みんなの意見を黙って聞いていたシュリアンは、少しだけ好奇心の笑みを浮かべていた。
「なんだか少しだけ、プロキシフォレジャーに似ているとは思わないかい?」
「どこがなのよ」
「なんだかね、何かを探索するために作られたような気がするんだ」
「……形状の根拠がどこにも、何一つないわよ」
「ほら。僕たちも今回、有酸素星の探索をするので、色々とアイディアは出ただろ? インストに言わせればバカなアイディアかもしれないけれど、ヌルフィールド被膜を倍の厚さにして、酸化した表面を削り取るなんてさ。でもあんなところから始まるんじゃないかな? 進歩ってさ」
「つまり意味がないことに意思が見えるって言いたいのね?」
「そうそう」
「だとすると、結局『巨大なデブリ』で終わりね」
「そうだね」
シュリアンは笑みを浮かべた。




