第六話
第二回隣の銀河ミルコメダ準備会議の場で、ある程度の方針は固まったが、有浮遊酸素星への調査などという、あまりにも荒唐無稽な方向性に、シュリアンもインストも戸惑っていた。
そこで事務員シュリアン、工部技術員インスト、通信監理員リント、銀河調整員ウハメ、星系調整員キコブ、生命技術員プレヴァのアンドロメダ銀河オムニノード専門員たちと、一回目の隣の銀河の調査を共におこなった、エポンラインのドライバーであるボア、プロキシフォレジャーのベテラン操縦士パブダが集まってのカンファレンスを開催することにした。
「今日は急な会議に参加していただきありがとうございます」
大きな会議場の一部に浮かぶ八つのホログラム。
「エポンラインポーターのボアです。有浮遊酸素星への調査という話を聞いたときには……正気なのかと驚いたが、冷静に考えてみればたった一つ、酸化対策だ。そもそもアンドロメダ銀河の第一核の生命体の移動には、ヌルフィールド被膜技術は欠かせない。現在では第二核の皆さんも同じだと思うが、自力移動などしていれば、自宅からエポンラインのドライバールームまでだって、何百年かかるかわかったもんじゃない。Mパックもプロキシフォレジャーも、ヌルフィールド被膜の上に対酸化コーティングのようなことをすれば、エネルギーコントロールができなくなってしまい、ゼロスキップどころか、重力サーフィンすらできなくなってしまう。この時点でお手上げなんじゃないか?」
「工部技術員の私としても、その問題が絶対唯一の障壁だと考えています。可能性は低いですが、アンドロメダ銀河内に私の知らない技術があるかもしれない。星系調整員のキコブさんは、アンドロメダ銀河内のあらゆる情報に精通しておられるわけですが、何かご存じありませんか?」
「各星系の情報を集めて調整をしておる私ですが、一番新しく仲間に加わったメリースリーツー銀河の技術も含めて、対酸化とヌルフィールド被膜を両立する技術は聞いたことがないです。アンドロメダ銀河外ではどうなのでしょう? ウハメさん」
「銀河外といっても、すぐ隣の隣の銀河のことすら把握していない、お恥ずかしい体たらくです。現在一万を超える銀河と連携を取っていますが、そもそも浮遊酸素に近寄ろうなどと誰も考えませんから、対酸化コーティング的な技術開発など聞いたことがないです。ましてやヌルフィールド被膜との並列など難しいでしょうね」
「困りましたね。事務員としても皆様から様々な情報を収集していますが、噂すら聞いたことがない。第二核出身のウハメさんが言うように、酸素に近寄ろうなどと破滅的なことを考える生命体は聞いたことがないです」
「操縦士のパブダです。俺たちが操縦するプロキシフォレジャーは、そもそもその形状からヌルフィールド被膜のエネルギーコントロール技術を使って、全方向の重力を利用して光速移動はできるが、ゼロスキップはできない。長方形であり溝や穴、出っ張りがない物質でなければゼロスキップはできないわけだから。それと同時にその形状から、ヌルフィールド被膜を分厚く設置することもほぼ無理だ。でもMパックであれば、ヌルフィールド被膜を分厚く設置することは可能ではないのか?」
「おいおい、ちょっとまて。俺たちがドライブするMパックに、分厚くヌルフィールド被膜を設置して、どうしようってんだ?」
「例えばだよ。ボアさんのMパックのヌルフィールド被膜の厚さを倍にする。酸素が満ちている星に直接運んでもらって、そこで待機してもらう。俺たちが短時間の調査が終わったら、プロキシフォレジャーで外側の酸化したヌルフィールド被膜を除去する。そして収納して運んでもらうってのはどうだ?」
「待って、パブダさん。工部技術員として言わせてもらえば、ヌルフィールド被膜の表面はとてもデリケートだから、現地でプロキシフォレジャーが酸化膜を除去する程度では、ゼロスキップは難しいわよ」
不意にボアが、何かに気付くように呟く。
「……今まで考えたこともなかったが、MパックにMパックを積むっていうのはどうだ? 帰りの便になったら、収納してあったMパックで帰途につく」
「は? それまで使っていたMパックはどうするの? 十一次元ストレージ内であっても、酸化したMパックを積んだら内部から酸化が始まってしまう可能性は否定できないわよ?」
「いや、そのまま置き去りだよ」
会議参加者たちが全員絶句した。
翌日シュリアンは、緊急で第三回隣の銀河ミルコメダ準備会議を招集した。
その場で昨日のカンファレンス結果を提示すると、さすがに会議は紛糾した。使い捨てるなどという、前代未聞で言語道断で非常識極まりない破滅的暴論に対して、参加者全員から反対の声が上がった。
シュリアンは破壊的環境下に踏み込むためには、こちらが相手に合わせる以外に手がないこと。相手の価値観を理解するところから始めるという、アンドロメダ銀河のマージの心得を引っ張り出し、今回一回だけの了解を取り付けた。
言い出しっぺではあったが、今回の件で最も心を苦しめたのは、エポンラインのドライバーであるボアたちだった。仕事であり、必要なことだとはいえ、使い捨てなどということをおこなうのに、心が地に沈まないアンドロメダ銀河の生命体などいるはずもない。
ボアたちはさんざん話し合いを重ねて、一番経験のない新箱を置き去り担当にすることを決めて、出発前はみんなでこの八箱を丁寧に磨いた。




