第五話
隣の銀河ミルコメダ準備会議で承認された、第一回知的生命体存在調査は、一か月の予定を無事こなした。インストとプレヴァが設定した優先調査星の五十万星と、それ以外の二十万星を調査した。だが結果としては、一つの知的生命体とも出会えずに終わった。
七十万の星々の情報が入手できたことと、プロキシフォレジャー八百機全機の回収ができたことは成功といえるのだが……。
「皆様には事前に結果報告書を配布させていただいておりますが、今回は驚くべき結果となりました。プロキシフォレジャーに搭載された『双対波束収縮型量子通信殻カプセル』のデコヒーレンスリミットオーバーによる波束の収縮や、カプセルマガジンの装填順番ミスなども疑ったのですが、八百機全機にそれが起こるとは到底考えられませんし、残カプセルの確認でも異常は見つけられませんでした。つまり結論といたしましては、隣の銀河で生命体を発見できなかったという、冗談のような結果となりました」
第二回隣の銀河ミルコメダ準備会議の場で、シュリアンは調査の顛末を報告した。
「素晴らしい! 隣の銀河の新しい友人たちは、とても恥ずかしがり屋なのですね。七十万の星を回って見つからないなんて、なんて見事なかくれんぼでしょう!」
「……かくれんぼ、ですか」
シュリアンが戸惑う。
「確認じゃがんすシュリアン。時間の流れの相違という点では、我がアンドロメダ銀河と隣の銀河での差はどのくらいでじゃがんすか?」
「はい。幸いなことに一年間で二秒のズレですので、これは問題要素から除外できると考えております」
「シュリアン。二秒の価値はどうなんでしょうねと考える次第。我々でも種族によって寿命は大きく違う。同じ種族内でも大きく違う場合もある。百億年以上生きるシュリアンたちの種族にとって、私の種族の十億年程度は驚くほど短いと考える次第。でも我々の二秒は共にあっという間だ。この価値によって、マージまでの四十億年とはどうでも良いくらい長い価値を持っていたり、どうでも良いくらい短い価値しか持っていなかったりもする。この場合、相手にとって、どうでも良い問題になるのでしょうねと考える次第」
「ええ、ええ、ええ。でも私は早く会いたいわ。シュリアン、あなたたちは安全で居心地の良い星ばかりを探したのでしょう? もしも、価値観が違ったらシリーズで提案するならね、ええ、ええ、ええ。絶対に誰も探さないような、とんでもない場所がすっごく好きな種族だっているかもしれないわね。ええ、ええ、ええ」
「……誰も探さないような、とんでもない場所?」
「ええ、ええ、ええ。そうですよ、シュリアンさん。私たちアンドロメダ銀河の種族の中には、マイナス百八十度という高温を望む種族もいれば、他銀河においてはマイナス五十度という超高温の環境を好む種族もいるのです。ええ、ええ、ええ。色々いるってことですよ」
「……例えば?」
「例えばと言えば、ええ、ええ、ええ。ドロドロにねばりついてくる異常な粘性を持つ気体の、ええ、ええ、ええ、キセノン(Xe)が充満している星とか」
「ああ、それをいうならじゃがんす、記憶も記録も飛びまくりでじゃがんす、しまいにはノイズに焼かれるような強磁場の星も、とんでもない場所ではないでしょうかじゃがんす」
シュリアンは議場の空中に投影された、隣の銀河のホログラムを見つめた。第一回の調査の際、浮遊酸素がある星には生命が存在するはずがないと、早々にリストから除外した六百億の星々。
「でも……一番とんでもない場所と言えば……」
シュリアンのつぶやきに、傍らにいたインストがハッとして彼を見た。
「あなたまさか……浮遊酸素を含む星に、生命の可能性を見出そうというの?」
突拍子もない仮説に、議場はどよめくのではなく、かつてないほどの好奇心と興奮の波に包まれた。議論が続く中で様々なとんでもない場所の提示がなされたが、侃々諤々の結果、アンドロメダ銀河的に最もとんでもない場所が導き出された。
かくして二回目の調査は、前回除外された浮遊酸素を含む星で温度がマイナス五十度以上の星も調査対象に入れるということになった。




