第四話
家に戻ったシュリアンは、リフレッシュポッドに入り『スピンアライメント』の磁場シャワーを浴びていた。
「隣の銀河……ここまでわかっていない領域はあまりないよなぁ……。以前おこなった調査でも、ある程度の地図を作ることはできたけれど、生命体を確認できたことは一度もないだなんて」
ホワイトノイズパージでスッキリしたシュリアンは、事務局への道すがら食事の準備を済ませることにした。バーガーショップに寄って、ヒストリーバーガーとインダストリーバーガーをテイクアウトした。
事務局の探索機操縦フロアに戻ると、まだ予定時刻の一時間以上前だというのに、何人かの操縦士がすでに来ている。その中にはインストの派生体であるミティがいた。
「ミティさん、早いね」
「ああ、シュリアン。今回は未開宙域の隣の銀河だからね。緊張して家にいても落ち着かなくって」
「そうか。ミティさんは未開宙域の探査は初めてなんだっけ?」
「うん。今まではアンドロメダ銀河内の第二核の辺境調査ばかりだったから。それにインストがうるさいんだ。何度も端末に遅れるなってメッセージをよこしてさ」
「面倒見が良いインストさんらしいね。僕が思うに、ミティさんなら何の問題もないよ。気負わずに楽しんでね」
ミティは笑みを返した。
Mパックの出発から十三時間ほどが経過した頃には、全八班の第一班全員が探索機操縦フロアにそろっていた。フロアの中心にある大型ホログラム投影スペースに、ボアの姿が映る。
「シュリアン、そして操縦士諸君。すべてのMパックは各班所定宙域に到着した。これより上部収納面を開放状態にする。三十秒後にストレージ内の全方位重力ロックを解除するから出箱は自由だ。各班のMパック待機地点には定常物体軌道は確認されていない。だが、なにぶん未開宙域。全機現在位置をゼロポイントに座標メモリしておいてくれ。Mパックの待機位置が変わる場合にはゼロポイントからの修正座標を伝えることになる。ご安全に」
操縦士たちは不安と緊張を飲み込むように、パイロットシートに着座しなおした。
「シュリアン。A班全百機のプロキシフォレジャー、Mパックより出箱します」
「B班も同じく全機出箱」
次々にマットブラックのMパックから、プロキシフォレジャーが無音のままで出箱し、その瞬間、光速移動で映像から消える様子を、シュリアンは見守った。
大型ホログラム投影スペースには、八百機分の映像が重なり投影される。
「八百機分だと大迫力だなぁ……」
シュリアンが小さな声でつぶやく。それぞれの操縦士は、自分が操縦する十機のプロキシフォレジャーを、別々の星に光速で誘導しては、その星の基本調査を行い、情報を伝送すると次の星に移動する。未開宙域が故の総当たり調査が始まった。
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調査開始から二週間が経過していた。シュリアンは集まったデータをもとに、事務局事務員室でインストと分析をおこなっていたが、八百機が二十四時間体制で探索をおこなったログには、文明由来の規則信号は一度も立っていなかった。
「いやいや、まさか二週間で一つの生命体とも出会えないだなんて。ちょっと運が悪いどころじゃないなぁ……」
「そうね。事前に遠方分光観察の波長スペクトル調査で、大気に酸素があると仮定される六百億の星を除外した残り千四百億の星々。この中から、さらに生命体が住めそうな優先調査対象星を五十万星に絞り込んだわけだけれど……。その半分以上を当たって、いまだゼロだなんて」
「インストさん。そもそも僕の感覚としては、アンドロメダ銀河の有生命体星密度は1.5パーセント。百の星を当たれば一つの生命体と接触できるはずなんだ。それなのに、二週間で二十七万近くの星を回って、いまだゼロってどういうこと?」
「私の工部技術員としての見立てと、生命技術員であるプレヴァさんの予想が間違っていたってことかしら……少し不安になってくるわね」
「インストさん。僕だって君の見立てには賛同したんだ。そして会議でも了承された。一時間で一つの星の調査は終わる。あと二週間でさらに二十七万くらいの星の調査を進める。とにかく今、僕たちが慌てても仕方ないんだからさ。予定通り、安全に調査を進めるために、プロキシフォレジャーの操縦士たちのバックアップをしっかりやろう」
「そうね。今回の調査は確実に意味があるものだしね」
「そうだよ。本当にそうだ。少なくともこれまでだけで、隣の銀河にある二十七万の星々の基本データをはじめ、人工電磁波や人工ノイズの有無、アンドロメダ式化学的非平衡の確認や局所的熱源の偏り、非自然化合物であるテクノシグネチャーの調査データが僕たちのもとに集まった」
シュリアンは笑みを浮かべた。インストも不安な感情から笑みに変わる。
「シュリアンったら。ご馳走を前にしてウキウキね」
「こんなレアな情報は、滅多にお目にかかれないからね」
シュリアンは嬉しい感情を表した。




