第四十二話
「ええと、その炭疽という種族はいったいどんな種族なんだい?」
「この炭疽という種族が少し複雑な相手でして、休眠状態になることができて、その状態が仮死状態と言えるほどの深さだそうです。もともと塩化ナトリウム水溶液の中にいた種族でしたが、新天地を求めて地面に上がった。しかし当時はまだ浮遊酸素排出という産業廃棄物が排出される前、気体が少なかったのでオヤイアット星から届く電磁波が大気フィルターの影響なく届いていたそうです。その中で紫外線という周波数の電磁波がこの第三惑星の生命体の骨組みを作っている炭素の結合を解除していた。この紫外線と呼ばれる電磁波から逃げるために地中で休眠状態を取るようになった種族のようです」
「でもこの地中休眠している種族と動物たちが赤黒い液体を吹き出しているのと、どんな関係があるの?」
「はい、地中休眠したままだと種族を増やすことができない。そこで動物が地面に生まれた植物を自分の糧にするために奪ったときに、炭疽種族も一緒に飲み込んでしまうような場所で休眠を始めた。動物という個の群、体内に入った炭疽種族は異物として追い出される前に、三つの道具を解き放つようです。一つ目は動物という群を組み上げている個の中に入る穴をあける道具。二つ目がその穴から個に入り込み、周囲の個と情報断絶をさせてアポトーシスへ追い込む道具。三つ目は個が持つ水分コントロール機能を壊して水分を漏れ出させる道具。これが赤黒い液体。血と呼んでいるようです。こうやって動物は群としての行動を止めて個の死を迎えるという流れがあるそうです」
「やっぱり異物だと思われるんだね。群を成している個に他の個は入れる、つまりマージできるけれど、他の種族とマージした場合、群としてそれを許容しないんだ。ところでアポトーシスとは僕たち宇宙では、種族を守るために個が進んで犠牲になるという意味だけれど、同じ概念でいいのかな?」
「はい、シュリアン。我々のアポトーシスと似た概念です。この第三惑星では、浮遊酸素を燃やして短く生きる前提を持っています。例えば植物でいえば、電磁波をエネルギーに変える葉と呼ばれる緑の板状の部分。これの生産効率が下がってくると、その葉はアポトーシスをおこなって群から離れて地面に落ちる。そして新しい葉がその場所に生まれて高効率で電磁波をエネルギーに変える。動物でも同じように、個の効率が下がったときに、自らをアポトーシスして群としての効率を優先するそうです」
「なるほど。でもますますわからなくなるね。第三惑星の個は群を優先する。でも奪うこともする。もしかしたら同じ種族かもしれないのに。ところでミッチさん、炭疽種族によって動物という群が危機状態になっているという認識で合っている?」
「はいシュリアン、もうじき群としての行動停止、つまり死を迎える状態だそうです」
「でも自分たちが休眠状態から目覚めるために動物の体内に入ったのに、その動物を死なせてしまっては元も子もない気がするんだけれど」
「……あくまでも炭疽種族は動物の温度や栄養素を、自分たち種族が増えるためだけに利用するので、すぐに死んでしまっても問題はないそうです」
「シビアだね……僕たちにできることはあるのかな?」
「……アルファプロテオが言うには、炭疽種族に出ていってもらえばそれで解決だと」
「それは可能なの? 炭疽種族だって、自分たちの種族を増やすためにやっていることなのでしょ?」
「……ずっと寝ているから、世界が変わって紫外線を恐れる必要がない事を理解できていない。それを教えて種族全体が進化すれば問題ないと言っています」
「ああ、難しいね。でもやってみるしかないね。みんな、今のミッチさんとの会話は聞いていてくれたかな? 僕たちがやることが一つ明確になった。センサー部位から赤黒い液体を流している動物の体内に入って、そこにいる炭疽種族に出ていってほしいとお願いしよう。今の世界はもはや紫外線を恐れる必要はないってことを伝えるんだ」
「了解」
G班以外のプロキシフォレジャーは、次々と動物の体内に入り炭疽種族を探し始めた。
「シュリアン、ダメです。炭疽種族はそんなことは信じられないし、こうやって自分たちは生き残ってきたのだから、何の保証もなく今の生き方を変えることはできないと言っています」
「そうだよなぁ……どうしたらいいのだろうか」
シュリアンがホワイトノイズを吐き出したときに、ノナックのホログラムが浮かんだ。
「シュリアン、相手は保証を求めている。これは銀河マージの時と同じだ。保証をしてやればいい。四十億年休眠状態を続けてくれれば、炭疽種族が最高に住みやすい星を用意する。そこは炭疽種族だけの楽園だ。もう休眠する必要がない楽園だ。この提案は今だけだ。もしこの契約を結ばないのであれば、この先も炭疽種族は、ずっと寝ているだけの種族になる。何も生み出せない種族のままだ。そう言ってやれ」
「でもノナック、本当にそんなこと可能だと思っているのかい?」
「当たり前だろ。アンドロメダ銀河と不運な銀河を合わせてどれだけの星があると思っているんだ? しかも炭疽種族は休眠できる。つまり時間をかけた移動ができる種族だ。Mパックのゼロスキップは生命体を移動させることはできない。だがこれを使わなくても、星間移動ができる特徴を持っている種族だ。可能に決まっているだろ。可能性を考えろ」
「なるほど、わかったよノナック。みんな、今のノナックの言ったことを聞いててくれたかな? 炭疽種族には、アンドロメダ銀河の単独全権事務員総長の権限と責任をもって、必ず炭疽種族の楽園といえる星を用意する。これは契約だ。もう一度、炭疽種族と交渉してみてほしい」
「了解」
三十分くらいすると、次々に動物の体内から炭疽種族は出てきて、地中深くに潜っていった。
「シュリアン、成功です。UUUも力を貸してくれて、全炭疽種族は連携を取って、動物の体内から出ていってくれました。作戦成功です」
シュリアンは嬉しそうにノナックにつないだ。
「ノナック、ありがとう。上手くいったよ」
「だがシュリアン、問題なのは今回の炭疽種族は不安定な二本脚動物が人工的に増やした存在だ。何か、少し嫌な感じがするな。他の生命体に比べて、この不安定な二本脚の動物は」
「そうだね、奪うということにリソースを割き過ぎている動物なのかもしれないね。でも炭疽種族がそうであったように、何かしらそうなった流れがあると思うんだ。それを知って解決していけば、きっと分かり合えると思うんだ」
「おまえらしいな。何かあればまた頼ってくれていい」
「わかったよ。ありがとうね」
シュリアンのデスクから、ノナックのホログラムが消えた。
プロキシフォレジャーからの映像を映している、巨大ホログラム投影装置を見ながら、生命技術員のプレヴァがいう。
「シュリアン。炭疽種族の三つの道具によって、すでに傷ついてしまっている動物はこのままでは助からない可能性が高い。UUUの情報網で、助けられない動物と、助けられる動物に分けてもらって、助けられる動物にはプロキシフォレジャーが体内で手助けをすることを提案するわ」
「でもプロキシフォレジャーは探査用の分身だから……生命維持の手助けなんてできるのかな?」
「サイズが良い方向に向かう初めてのチャンスよ。傷ついた動物に対してプロキシフォレジャーは体内を自由に動けるほど小さい。人工サファイアでテントを修復したように、何かしらできることはあるはずよ」
「そうだね。やってみなくちゃわからないよね。ありがとう。ミッチさん。UUUに傷ついた動物を助けるために何をすべきか、助けられる動物はどこにいるか、情報を集めてほしいんだ」
「シュリアン、了解しました。それらの情報をみんなで共有して、先行して助けられる動物たちを助けます。動物とも炭疽種族とも、私たちは家族になるのだから。みんなのために頑張ります」
この後三時間にわたって、プロキシフォレジャーは炭疽種族の三つの道具を体内から排出させる作業と、傷ついた血管などをつなぎ合わせる作業に取り組んだ。




