第四十一話
「ボアさん、テントははがれたけれど、僕には特に変化は感じられない」
「いや、なんか変だ。嫌な感じがする。無責任にプロキシフォレジャーを出箱させられない。先に周辺を確認させてくれ」
ボアはシュリアンの返事を待たずに、宇宙港らしき設備周辺の画像データ収集を始めた。
ホログラムには、前回の不安定ポケット爆発により、なぎ倒された植物が映し出されている。同時にいくつもの動物が倒れていた。
「なんだろう……シュリアン、宇宙港の近くに倒れている動物は、おそらく植物と同じで爆発の衝撃にやられたのだと思う。残念だ。だが宇宙港から離れるにつれて、植物は正常だが、動きを止めた動物が増えていく。それらの動物は、何かしらの液体にまみれている。主に赤黒い液体だ。何かしらのセンサーのような部位から、赤黒い液体が漏れているようだ。そうだ。俺が感じている嫌な感じとはこれだ。今までと比べて動物が少ない、いない。不安定な二本脚の動物も、一体もいない。何か問題が起こっているのではないか?」
「つまり、爆発の影響で多くの生命体が瀕死の状態になっているということ?」
「わからんが、注意が必要だ。俺の経験がそういっている」
シュリアンはホワイトノイズを吐いた。
「生命技術員のプレヴァさん、銀河調整員のウハメさん、通信監理員のリントさん。意見を聞かせてください。僕はどんな指示を出すのが最も正しいのか?」
場の空気が一気に引き締まった。
「生命技術員としては、まずプロキシフォレジャー全機で状況調査。その結果次第で対応を考えるべきと思います」
「銀河調整員としても、プレヴァさんの意見に賛成だ。いずれ同じ銀河の家族になる生命体に危機が訪れている可能性があるのであれば、調査よりも危機回避が優先だ」
「通信監理員としても同意見ですが、一班だけはUUUやアルファプロテオ種族にインタビューをすべきかと思います。何が起こっているのか、現地の第三者から情報を集めることは重要です」
シュリアンは小さなホワイトノイズを吐きだして力強く言った。
「了解です、ありがとう。みんな、聞いてください。十分に注意しつつ、Mパックはテント上部に固定。そこに収納ストレージも固定。プロキシフォレジャー全機出動し、G班以外は現地の動物の調査を実行。G班はUUUとアルファプロテオ種族に何が起こっているのかの情報収集を実行してください。現状では通常対応ですが、必要に応じて7700発動もあり得る前提で動いてください。ご安全に」
全操縦士から緊張感が溢れだした。プロキシフォレジャーが出箱を終えると同時にボアが通信を入れた。
「シュリアン、今までは一度も見かけなかった存在だ。おそらく動物ではない、何かしらの巨大機械。大気中を飛んでいる。一つの機体に四つのプロペラ状の動力を利用したものが複数飛んでいる。Mパックであれらの調査をおこないたい。許可をくれ」
「ボアさん、危険がないようにくれぐれも気を付けてください。相手にも認識できるように、ホログラムを投影した状態で調査を実行してください。ぶつかってしまったら、相手を傷つけてしまうかもしれません」
「了解した。これより調査を開始する」
「インスト、どう思う? この何やら不穏な状況について……」
「そうね、私ならば信頼できるうえで、私が見えないものを見る力を借りるかしらね」
「インストにとってのメウジクミさん?」
「そうね」
シュリアンは小さなホワイトノイズを吐いて、端末を操作した。
ホログラムにはシュリアンの派生体だが、明るいシュリアンとは似ても似つかない、神経質そうな姿が浮かぶ。
「何の用だ?」
「ノナック、意見を聞かせてほしい。いま、これまでのデータは送った」
「……リアルタイムで新しいデータは送ってくれ」
「わかったよ。ところで元気なの?」
「ああ、元気だ」
会話を聞いていたインストが小さな声で笑った。
「シュリアン、ミッチです。入手した情報をお伝えします。ええと、なんだろう……どう理解していいのだろう……」
「ミッチさん。理解しなくていいから事実をそのまま伝えてほしいんだ」
「そうですね。わかりました。まず前回の不安定ポケット爆発は……翻訳システムでも言語がそのままになってしまいわからないのです。『KOUGEKI』という発音だと思います。それは何かと聞くと、この第三惑星では……奪うことが生命の起点になっているそうでして、奪うために相手を壊す。星と星が衝突して壊れるように、相手を壊して奪うそうです。奪うために相手を壊すことが起点だと……」
ミッチは不安定な感情を表しながら伝えた。
「ミッチさん、落ち着いて。大丈夫だ。まだまだ本質的な解釈には程遠い。今ミッチさんが持っているイメージは、ミッチさんが勝手に作り上げた怪物だ。真実とは別物だ。だから今は解釈を正確にやるために、情報をたくさん集めよう。いまはそこに集中だ」
「はい、シュリアン。ありがとう。先日の宇宙港らしき設備で起こった不安定ポケット爆発は、KOUGEKIという行為だったそうです。動物たちが赤黒い液体を目、鼻、口と呼ばれるセンサー部位から噴き出しているのは、今回のKOUGEKIで使われた方法が原因だそうです」
「ただの爆発ではないってことだね?」
「はい。普段は地中で眠っている炭疽という種族を人工的に集めて増やして撒き散らしたそうです」




