↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダブルスタンダード  作者: 平瀬川神木
第十章 非常事態プロトコル7700

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/45

第三十九話

「シュリアンの仮説を並べると、次に考えるべきは、あなたが初めに言った違う工夫で生き残ったアーキアの一部ってことになるけれど。その先を聞かせて?」

「ありがとう、リントさん。僕自身自分が立てている仮説に絶望しかけていたところだよ。気を取り直して。宇宙で酸素はたくさんある。でもそのほとんどは他の何かとつながっている。窒素の真逆な存在だ。窒素は窒素としか組みたがらないけれど、酸素は他の何かとしか組みたがらない。でも宇宙のどこを見ても、ほんの少しは酸素同士が組んでいる浮遊酸素は存在している。例えばアーキア種族が、少しだけ存在している浮遊酸素を使って何かを作り出す技術を持っていたとしたらどうだろう?」

「でもシュリアン、浮遊酸素から何かを生み出すことと、浮遊酸素の中でも生きられるというのは、話が別な気がしない?」

「ええと、ひとつ大事なのがさぁ、猛毒の定義だよね」

 ハッとしたような感情をリントは表した。

「そうね、シュリアン。寿命なのよね。私たちが浮遊酸素を猛毒だと認識するのは、私たちの寿命が少なくとも数億年はあるというのが前提。浮遊酸素に触れていれば酸化が進んで、数百年から数千年で生命維持ができなくなってしまう。でも彼らは、銀河環境変化に対応することを目的に、世代交代を早めていって、最終的には数百年になってしまった。だから彼らにとって、浮遊酸素は猛毒というわけではない存在になった。浮遊酸素を変えたのではなくて、自分たちが変わった。まるで浮遊酸素に合わせるように」

「そうだね。実際には浮遊酸素に合わせたわけではなくって、銀河マージの環境変化に合わせるために世代交代を速めた。結果浮遊酸素は猛毒ではなくなった。だから糧を生み出すために、浮遊酸素をまき散らすことは悪ではなくなった。なんだろうね、僕たちと当たり前の違いが大きすぎて、彼らを理解するには前提を知ることが大切だね。僕たちと同じように、マージで世代交代をしているだけなんだけれど、そうでないように見えてしまうポイントは、やはり銀河マージの環境変化がとても大きかった。だからそれに対応するために、世代交代を早める必要があった。結果として浮遊酸素が猛毒ではなくなった以上、いろいろなことが理解できそうだ。光速移動の技術を持っていない彼らは、場所というものが僕たち以上に制約になる。だから自分がいる場所に合わせた工夫や努力を積み重ねていき、その個性の違いは別種族にしか見えないくらいに大きくなっていった。でも実はインストとメウジクミさんの違いでしかないのかもしれない」

 インストが静かに言う。

「シュリアンと派生体のノナックも別種族みたいに見えるわね」

「でしょ? もしこれでウハメさんが言うようにサイズまで違うのであれば、僕ですらノナックとは別種族だと僕でも思うよ。話を戻すとね、僕は仮の話でアーキア種族の名前を使ったんだけれど、アルファプロテオ種族がね、キー種族だと思うんだ。理由は自分の兄弟って言っていたからだ。あまりの違いや知識の少なさから、アーキアも含めた多くの種族たちも別種族のような印象を持っている中で、アルファプロテオ種族は変化が少なかったから、自分たちは兄弟だという知識を持ち続けられている。だから最後の調査は、このアルファプロテオ種族に全面的にアプローチして話を聞きたいって思うんだ。どうだろうか?」

 ウハメが納得しつつも意見を投げる。

「だがシュリアン、私が他に引っかかるのは、ミッチのインタビューの中で、アルファプロテオ種族が言っていたことだ。UUUと窒素を分解固定させているジアゾ種族は糖と窒素を交換取引していると言っていただろ? オーン星人もジャミ星人も、他の銀河の生命体も同じだが、一つの種族が役割分担をしているのであれば、それは全体のための共有になるはずだ。だからわざわざ取引をしている時点で、彼らは独立した別々の種族であるという証拠にはならないか? 私たちが別銀河との取引をするときのように」

「そうだね。でもね、さっき言ったように、自分たちが同じ種族であると理解している個がごく限られた、変化が少ない個だけだとしたらどうだろう?」

「つまり自分たちでも別の種族だと思っているが、本当は同じ種族だと言いたいのか?」

「そう。あれだけの違いがあればね、そもそも種族って何? ってなっちゃうね」

 考え込んだウハメを見ながらプレヴァが言った。

「シュリアンが言う職人集団という例えは理解した。でも決定的な矛盾を感じるの。もし彼らが今でも一つの種族だというのならば、あの不安定な二本脚動物とアルファプロテオ種族は、情報を統合しないの? つまりマージはしないの? 別の形になり、マージもしない。互換性が全くない状態と仮に考えると、シュリアンの言う通り種族って何? という疑問が起こるし、宇宙の定義としても、これは同じ種族とは言えないのではない?」

「そうだね、でもさ、マージって何? ということにもなるよね。僕たちは少なくとも外見的には大きな違いがない者同士でのマージになる。だから一つになって分散される。でもさ、例えばサイズ的に小さいアルファプロテオ種族が、不安定な二本脚動物の中の一つの個とマージすることはないのかな? 群としてそれを不調和な存在と認識するのかもしれないけれど……僕が言いたいのはね、あくまでも個と個のマージは今のところないとは言い切れないのではないかな? ってことだね」

 やり取りを聞いていたインストがシュリアンに視線を向けた。

「シュリアン。もしあなたの言うとおり、浮遊酸素という猛毒を逆利用するために職人になったとするわよね? 職人集団同士の世代交代で、あたかも別種族のように見える状況になったとする。だとするとよ? 言い方の問題であって、これはもう十分分岐進化じゃない? それにキーとなるのは進化した側であって、なぜシュリアンが原始的なポジションにいるアルファプロテオ種族をキーと考えるのか、理由を聞かせて?」

「そうだね。個性が強い一つの種族って言い方も、一つの種族から始まった分岐進化って言い方も、実は大差ないのかもしれないね。インストの言う通りなんだけれど、僕がなぜアルファプロテオ種族に話を聞きたいかといえば、それを覚えている可能性があるからなんだ。僕たちは学術的な目的で、不運な銀河を調査しているわけではないよね? これから仲間になる知的生命体を知ることにより、同じ銀河の生命体として一緒に助け合ってやっていくことが目的だ。だとしたらね、これまでの経緯を知らないと、今の姿だけ見ても理解が難しいと思うんだ。僕が初めてシアノ種族を知ったときに、浮遊酸素という猛毒をまき散らした良くない種族だと思ってしまったようにね。他銀河の存在としてならば、今の姿を知ることが大切。だって今の彼らと付き合っていくのだから。でもこれから同じ銀河の家族になるのだから、いまに至る理由を知っていたいと、僕は思うんだ」


カンファレンスの参加者たちは、静かに同意の意思を表明した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。