第三十八話
「みんなご苦労様ね。いやはや、どうなるかと思ったけど、見つかってよかった。破損などもなさそうでよかった」
「シュリアン、パブダです。どうする? 通常調査に戻るか?」
「いや、僕としては今回の調査はこれで終わりにして、状況を万全に整えたうえで、最後の調査にかけた方が良いと思うんだ。ケチが付いたっていうのかな。なんか、そういう時ってあるじゃん」
インストが口を挟む。
「シュリアンは、本当に根拠がないのよ。でも今回は行動不能になっているプロキシフォレジャーの様子も心配だしね。かなり大きな不安定ポケットの爆発だったから、一度第三惑星を離れて様子を見てから、最後の調査をしっかりおこなった方が良いかもしれないわね」
「うん。じゃあみんな、五回目の調査はこれで引き上げにします。いつもと流れが違うので、入箱忘れのプロキシフォレジャーなどないように、しっかり確認してアンドロメダに戻ってください。ご安全に」
五回目の調査は中途で中断となったが、一気に進展したこともある。何よりシュリアンは、アルファプロテオ種族との会話の中で、とても気になる点に気が付いていた。
「じゃあこれから、中途半端になってしまったけれど、五回転目の調査の振り返りと、ラストである六回転目の調査の方針についてのカンファレンスをおこないます」
シュリアンが見渡すと、いつものメンバーがそろっていた。
「今回は僕の方から、ミッチさんが見つけたアルファプロテオ種族の言葉の中でね、どうしても引っかかっているところから、皆の意見を聞きたいんだ」
インストが少し驚いた感情を示す。
「あら、珍しいわね。まだインタビューの詳細を確認していないけど、私たちも聞いていた会話の中に、そんなに気になるところがあったの?」
カンファレンス参加者はシュリアンに視線を向ける。
「そうか。気になっているのは僕だけなんだね。わかったよ。説明させてもらうね。僕がサイズの違いで不便なことはないですか? って聞いたときにね、彼はこう答えたんだ。『みんな兄弟であり、それぞれ工夫して、努力して今があるのだから、それを不便だとは考えない』そう言ったんだ」
プレヴァが言う。
「同じ惑星に住まうそれぞれの種族だから、平等に協力し合うってことでしょ? 良い言葉だとは思うけれど、シュリアンがそこまで引っかかる理由は何?」
「ええと、僕にはね、そういう道徳的な言葉には受け取れなかったんだ。つまりね、この第三惑星に住まう種族は、銀河マージにおける環境変化で生き抜くために、それぞれが環境に合わせて工夫や努力をした結果、あたかも多種族のように見える形態になったけれど、実は本当に一つの種族なのではないだろうか? インストさんとメウジクミさんのように、その違いはただの個性であり、実は僕らの宇宙と同じように、この第三惑星にいるのは、一つの種族なのではないだろうか? そう感じているんだ」
銀河調整員のウハメが言葉を投げる。
「だがシュリアン。サイズがな、同じ種族というにはあまりにも……」
「ものすごい大小の差に関しては、個が群を成しているだけでしょ? 現状で僕らが会って話を聞くことができた、個として存在している生命体たちは、アンドロメダ銀河内の大小の差より小さいくらいだ。いまのところ、オーン星人より大きな個としての生命体との接触は無いよね? それぞれが分岐進化して別の種族になっていったということも、彼らは一言も言っていない。僕たちが仮説的に言っているだけだ。もともと宇宙全体の当たり前と同じように一つの種族だった第三惑星の生命体。オヤイアット星との距離と、もともと持っていた素材がマッチし過ぎて、あのH2Oが奇跡的に液体を維持し続けている第三惑星。ゆえに、一つの星の中にいくつもの星の環境特徴を持っている第三惑星。銀河マージの環境変化が強くて、それぞれ違う環境特徴を持つ場所で生き抜くために、それぞれの個は工夫して努力した。仮にね、今まで出会った生命体で言えば、アーキア種族が第三惑星のたった一つの種族だったとするでしょ? 僕たちが出会ったアーキア種族は、環境変化から逃れるために塩化ナトリウム水溶液の深くに逃げ込んで生き延びた。でもさ、塩化ナトリウム水溶液が近くにない場所で暮らしていたアーキア種族が、全部死んだわけではなくって、一部が違う工夫で生き残ったとしたらどうだろうか?」
「だがシュリアン、順番的に言えばアーキア種族が水溶液の深くに逃げたのは、浮遊酸素が大量に排出されたからだ。シュリアンの言い分だと、アーキア種族の一部が電磁波からエネルギーを作り出す技術を持った職人となって、結果的にその職人たちの一部が群となって大量に浮遊酸素をまき散らし始めた。こっちが先だよな。それで多くのアーキア種族が死んで、一部が水溶液の深くに逃げた。違う場所で違う工夫で生き残ったアーキアもいるかもしれない。その段階での同種族が大量に死ぬような結果をもたらすことをなぜやった?」
「うん、でももっと言えばさらに順番が違うんだ、ウハメさん。アーキア種族の一部が、自分たち種族が大量に死ぬようなことをなぜやったのか? この前にあるのが銀河マージによる大きな銀河環境の変化だ。このままでは生命体が生きられない。前の話では、第三惑星のみならず、不運な銀河全体がこのようになっていた。だから多分この要因が大きいよね。ジャミ星がピンチになるだけなら、移住などもあり得るけれど、アンドロメダが危ないってなったら、他銀河への移住は簡単ではないもんね」
「ああ、そうだな。Mパックで生命体の移動はできないのだから、事実上無理だ」
「僕たちは今、不運な銀河内ではこの第三惑星以外で生命体を見つけられていない。でも昔は存在した可能性が高い証拠は発見できている。だからね、第三惑星でもきっと、本当に大変な事態が起こっていたんだと思うんだ」
「だから同じ星の種族がどうなるかを考えずに、浮遊酸素をぶちまけ続けたと?」
「そこまでの確信があったのか、僕にはわからない。でも一つその混乱の要因となると予想できるのは、世代交代を短くしたということだよね。一を二つに割って足し合わせたときに、一には戻らないのはこの宇宙の理だ。僕たちジャミ星人でいえば、百億年以上ある寿命の中で、情報を糧にしているから知識はどんどん増えていく。知識一で生まれたとしても、寿命を迎えるころには少なくとも二にはなっている。同じ環境の二人が一つになれば四の知識になって、ジャミ星人のマージ誕生する最低数は三だから、計算の上では一人1.33の知識を持つことになる。でも宇宙の理があるからこうはならないけれど、まあ、一を下回ることはないよね。でも寿命が短くなって、一の知識で生まれた生命体が1.01しか知識を増やせなかったらどうなる?もしかしたら次の世代では一より少ないところから始めなくてはならないかもしれない。それがものすごい速さで進んでいくんだ。数千年、数百年という短期間で。こうなればもう、いろいろな判断ができなくなって、他の場所にいる自分たちの種族が生きられなくなることにすら気が付けないで、それでも受け継いだ糧を生み出す技術がそこにあれば、『自分たちが』ではなくって、『自分が』生き抜くために使ってしまうのではないかな」
「……シュリアン。つまり知的生命体が、知的生命体の技術の一部を持ったまま、生命体になっていったという仮定か?」
「もちろんこれは、今ウハメさんとの議論で生み出したものだよ? 何の根拠もないけれど、こういう流れも予想できて、いまのところ、この流れに対するアンチテーゼを僕は語れないかな……」
言葉を失うメンバーを見渡して、通信監理員のリントが発言する。




