第三十六話
「なるほど。どちらのご意見も感慨深いものですね。絶対的な事実としては、自分たちのエネルギーから、莫大な量を削って私たちに贈ってくれた。もしかすると第三惑星のたくさんの種族たちは、やはりもともと一つの種族であった。銀河環境変化が大きくて、それに対応するためにそこから分岐進化を進めていった。UUUを見れば、やはりお互いが助け合っている。そもそも驚くほどの数の個が集まって、一つの群を形成している。それが固定性生命体や、移動性生命体として存在している。しかもそれらをつなげるUUUという存在まで判明した。今回はリントさんとF班、G班がすごい発見をしましたね。その後に追加する情報は出ましたか?」
「シュリアン、褒めてもらってありがとう。調査中にUUUが危険信号を出していた理由は、音波や振動だと思います。タイミング的に今回の贈り物が入箱される直前だったし。贈り物の移動手段が、化学物質と酸素を混ぜて、気体を噴出させて動かすという、効率が悪いシステムを使っていたので、逃げたエネルギーが音波や振動になり、謎の地面を揺らした。それに対する警告だったと予想しています」
「UUUの目的や役割について、その後、新しい情報は得られましたか?」
「新しいとは言えませんが、この第三惑星全体でみられる複雑さは、このUUUも持っていると言える事実は把握しています。UUUというネットワークは、ただ平等にエネルギーを分配するわけではないし、ときには一部を使い捨てるという、この第三惑星特有の判断も下しているようです」
「え? 危険を共有したり、弱っているものを助ける存在ではなかったということ?」
「もちろん、そういう側面もある。でも致命的な傷を負ったり、いろいろな処理が間に合わなくなってしまったり、そういう群が、そういう個体が出たときに、UUUはエネルギー供給を意図的に遮断している。そしてその個体が死骸となって、酸化や他の移動性生命体により分解されている過程で発生する成分を、ネットワークの維持のために回収している。彼らの奪わないという哲学は、私たちのような悠長なものではない。宇宙で個とされている存在が集まって群、個体を形成している。その個体を広範囲の一つのチームのような概念でUUUがまとめている。星が集まり星系となり、星系が集まり銀河であるかの如く。それを守るためには極めて冷酷な判断もいとわない。個という概念が違い過ぎるから言い方が難しくなるけれど、ある意味では完璧なる自己犠牲システムともいえるし、ある意味では自分勝手で奪い取るシステムであるともいえる」
シュリアンは真剣な意思を表す。
「一が全で全が一。個が個を優先しているが、同時にシステムはチームの生き残りを優先させている。やっぱりキーとなる種族に会わないといけないね」
カンファレンスの参加者は全員同意の意思を表明した。
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「五回転目の調査です。あと二回でどうにかキーとなる種族と接触を持ちたい。皆さん、ご安全に」
オヤイアット星系第三惑星。今回もMパックは宇宙港らしき設備内でホログラムを投影している。まず優先して、前回贈り物を入箱してくれるときに開いてしまった、ドームの穴を補修する作業。これが終わるまでは、収納ストレージはこれまで通りドーム内に固定された。H班は一人十機のプロキシフォレジャーの同時操作で、百機が人工サファイアと呼ばれる、酸化アルミニウムの単結晶フィラメントロープを機体に背負い、編み上げていくことによってドームを形成しているテントの穴を埋めていった。
「シュリアン。こんな連続作業、メウジクミがよくOKしたわね」
インストが言うとシュリアンが答える。
「メウジクミさんは理論の人だからね。僕がお願いしたら、あと二回の調査だから全機フル活動させてOKと言ってくれたんだ。時間制限を持ち出したりした理由が、プロキシフォレジャーを守りたいという感情的なものではなかった証拠だね。数が足りなくなるから無理させるなと言っていただけ。そういう意味ではインストと似てドライだ。ある意味ではUUUの判断にも近いかもしれないね」
「面倒だけどシンプルね」
「うん。シンプルだ」
「シュリアン。こちらG班ミッチです。UUUネットワークの追加調査中ですが、ちょっと興味を持てる種族を発見しました。彼らはUUUの指示の下、窒素を必要な固定性生命体の下に運んでいます」
「ミッチさん、それねぇ。前から気になっていたんだ。この第三惑星ではどうして窒素が地面の中にあるのかって。他のことがたくさんあって、うっかり後回しにしちゃっていた謎の一つだったんだ」
「……彼が言うにはですね、この星の全ての生物が体を作るには窒素(N)が必要だ。だが窒素(N)と窒素(N)は強烈に引き合い浮遊窒素(N2)になってしまうから原則は気体で存在する。浮遊窒素(N2)は固すぎるつながりだから、だれにも窒素(N)に戻すことはできない。しかしジアゾという種族が、彼らだけが持つ道具と手順を使って大気中の浮遊窒素を分解して、アンモニアや硝酸塩に固定することができる。それと同時に、私たちが謎の地面と呼んでいる、彼は『土』と呼んでいますが、土は固定性生命体、彼らは『植物』と呼んでいますが、ええと、植物の死骸が土となる、植物はたくさんの窒素を身体に貯めている、だからその死骸にも窒素が残り、結果的に土にも窒素が残る。だから第三惑星の土には窒素が多く含まれている。そう言っています」
「ちょ、ちょっとミッチさん。すごい種族を見つけちゃったね。すごいよ、すごい」
興奮気味のシュリアンを押しのけてプレヴァが割って入る。
「ミッチさん、プレヴァです。植物、土。他にも仮称ではなく正式名を知りたいから、インタビューを続けられますか?」
「……ジアゾが作った窒素を運ばなくてはならないから、動きながらで良ければと言っています。ちなみにジアゾ種族はUUUが作る糖と引き換えに固定窒素を渡していると言っています」
「取引なんだねぇ。プロキシフォレジャー的に問題はなさそう? 一緒に移動しながらのインタビューの実行は」
「はい、おそらく問題ないです。ああ、そうなんですね。プレヴァさん。動物。移動性生命体は動物というのが正式名称だそうです」
「すごいわね。ねえミッチさん。リントさんがね、彼女が仮の名前を付けたUUUについて、本当の名前を知りたがっているのだけれど」
「……ははは。彼はリントさんが名付けたUUUをこれからの正式名称にした方が良いと言っています。今日までは菌根菌と呼ばれていたが、これからはUUUと呼ぶことにすると言っています。楽しそうです。ちなみにUUUは動物でも植物でもないそうです。自分もどっちでもないと言っています」
「彼の名前は?」
「プレヴァさん、アルファプロテオと名乗っています」
「ミッチさん。いろいろ聞いてもらいたいんだけれど、この第三惑星の種族は本当に様々で、僕らと同じくらいのサイズのあなたもいれば、もう驚くくらい大きな群で一つの個体を形成している生命体もいる。不便はないのかな? 僕たちとオーン星人程度の差だって、ものすごく不便はたくさんあるけれど」
「……いろいろあったから仕方ないと言っています。みんな兄弟だからと。ずっと昔にこの星が猛毒の浮遊酸素に満たされ始めたころ、みんなそれぞれ工夫して、努力して今がある。だからその結果を不便だとは考えない。そう言っています」
驚くべき調査進展のきっかけとなる出会いに、関係者は全員浮足立つような嬉しい心持になっていた。
「シュリアン!」
楽しい時間を打ち破るように、強い口調でシュリアンを呼んだのはボア。
「どうしました? ボアさん」
「宇宙港らしき設備のドーム上部で大規模な不安定ポケット発生! まだ修復作業は終わっていなかったから、E班のプロキシフォレジャーが心配だ」
「E班の皆さん、自分が担当しているプロキシフォレジャーの状況把握をお願いします。全班は至急Mパックに集合してください。入箱はまだせずに、Mパック付近に戻ってください。繰り返します。全員集合」
「E班ミティです。十機無事を確認」
「E班アスタ。一機が通信不能。繰り返す、一機が通信不能」
「ミティです。アスタさんの一機以外はE班の全九十九機無事を確認。これよりアスタさんの分身一機の探索に入ります。よろしいか?」
「シュリアンです。これより全七百九十九機のプロキシフォレジャーは、通信不能となっているアスタさんの分身一機を捜索します。非常事態プロトコル発動、繰り返す、非常事態プロトコル7600を発動します」
「シュリアン、こちらA班パブダ。ちょっと……周囲を見てくれ。相当大きな不安定ポケットだったようだ。広範囲で、固定性……植物がなぎ倒されている。隕石衝突のクレーターのようになっている。それと移動性生命体……動物が倒れている。緊急事態に間違いない。プロトコル7600から7700への変更を要請する」
全員が強く緊張する。
「シュリアンより。これより7700を発動する。これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない。7700を発動する。全員私の絶対指揮下に入れ」
全員が同意の意思を示した。




