第三十五話
大きな声はボア。
「宇宙港らしき設備のドームに穴があいたのと、収納ストレージにまたしても何か大きなものが積まれたのをみると……隕石の飛来かもしれないが、収納された物の成分分析結果は……そうは言っていないな……」
「ボアさん、Mパックや周辺のプロキシフォレジャーに問題はないですか?」
「ああ、Mパックは問題ない。確認できる範囲では、ドームに穴があいただけだ。窒素と酸素が高密度に結晶化された、何かしらの人工物。通常の隕石ではない。以前オヤイアット星系付近で、操縦不能になったプロキシフォレジャーと巨大な人工物がすれ違ったな。とすると、この星系付近には人工物デブリが多いのかもしれない。とにかく問題は起こっていない」
「シュリアン。E班や私たちは宇宙港らしき設備の周辺で、シンビオ種族探しや、謎の地面の探索をしています。特に変化はありませんが、もしかするとUUUは、このデブリの襲来を予期して危険シグナルを出していたのかもしれません」
「本当にUUUは、ブロック全体のまとめ役のようなことをやっているんだね。通信監理員のリントさんと同じ仕事を請け負っているようだ」
リントがシュリアンに視線を向ける。
「でもシュリアン。まさか偶然と思っている?」
「え? どういうこと?」
「デブリがたまたまこのタイミングで落ちて入箱された。なんて思っているわけではないわよね?」
インストがつぶやく。
「シュリアンならそう思うでしょうね」
「いやいや、さすがにね。偶然デブリが落ちてきたとは思っていないよ。知的生命体から我々に対しての、意図的な贈り物だと認識しているよ。でも自分たちの設備を壊してまで僕たちに送りたかったもの。大きなものもあるかもしれないから、次からはドームの外に収納ストレージを固定しておいた方が良いかな?」
「操縦が下手だったってことはないのかしら? だからドームに穴をあけてしまった」
「ボアさん、収納ストレージに積み込まれたもののサイズはどのくらいですか?」
「シュリアン、今回もバカでかいものだ。円柱のような形で、長さが580センチの直径が37センチくらいだな。先端と後端に飾りのようなものが付いている」
「インストが言うように、ドームに穴をあけてしまったのは、操縦ミスなのかもしれないね。ヌルフィールド技術がないようだから、上空移動するには、この第三惑星のサラサラし過ぎている気体抵抗を使って操縦しなくてはならないはずだ。だから、何か特別に難しい操作が必要なのかもしれない」
四回転目の調査も、破損するプロキシフォレジャーはなく無事に終了した。酸化も少なく、整備チームのメウジクミたちも機嫌が良い。つられてシュリアンも喜んでいる。
だがインストは少し機嫌が悪そうな口調で言った。
「だから、もう積み込めないものをこんなところに降ろしてしまってどうする気なの?」
上空三メートルまで上がったヌルフィールドステージに乗ったインストとシュリアン。インストの言葉を受けたシュリアンが返す。
「そんなこと言ってもしょうがないよ。積みっぱなしってわけにはいかないし。第三惑星の知的生命体が贈ってくれたものだもの。それが何かを確かめなくちゃ。何かしら意味があるもののはずだよ? でもだからと言って、なんだかわからないものをオーン星で下ろすわけにもいかない。それにしても、今回の贈り物は大きいね」
ジャミ星の生命体が存在しない地域。広大な平地に突然浮かぶ、高さ二メートル近いアンテナのような何か。そしてその脇に横たわる六メートル近い棒状の何か。
すでに詳細スキャンは完了しており、事務員室にはいつものように四回転目の調査結果と、この贈り物に関するカンファレンスが開かれていた。
「僕としては五回転目の調査出発前に、この贈り物が何なのか? そしてこの贈り物の目的は何なのか? これについてのイメージをある程度持っておきたいと考えるんだ。お礼やお返しのことも考えなくちゃいけないしね」
「工部技術員の私から。この円柱の基本外郭はタングステンを主とした、極めて硬度の高い合金で作られています。また、先端と後端についている飾りは、おそらく大気摩擦を利用して、この円柱を上空で操作するためについているものだと予想します。つまり移動することが前提の物体である。ただし、第三惑星の低い気体粘度に対して操作板が小さすぎるから、何かしらの特別な技術が存在するのか、それとも細かい操作を必要としていない使い方なのか、これはわかりません。次に円柱の中身。こっちがメインになりますが、人工の窒素化合物だと認定します。ジャミ星三か月分のエネルギーを担える、莫大なポテンシャルを内包している電池です。第三惑星ではこのような爆発エネルギーをどのようにして生活エネルギーに変換しているのかわかりませんが、その効率によっては大変価値ある贈り物だと言えます」
「僕らにこれを送るために、宇宙港らしき設備のドームに穴をあけてしまったのであれば、これは僕らがどうにかすべきかもしれないね」
「シュリアンがそういうのであれば異存はないわ。みんなが良ければH班の人工地面調査班をドームの修繕に回します。第三惑星にあるものと同じものは提供できないけれど、代替えの素材で修繕はできます。酸化アルミニウムの単結晶フィラメントロ―プを使ってドーム修繕をします」
「でもインストさん。相当大きな穴です。直径が37センチの円柱体が通過した穴だ。我々オーン星の遠隔修繕マシンを派遣しなくても大丈夫かい?」
「ありがとうございます、キコブさん。もし五回転目の調査内で無理だと判断した場合、オーン星の技術で修繕してもらいましょう。相談できる頼れるパートナーもいますし」
その頃、オーン星のMパック製造工場の責任者であるキッテは、なぜか突然、体の震えを感じていた。
「目的は何だと思いますか? アンテナらしきもの。そしてこの電池。つながりはあるのかな?」
生命技術員のプレヴァがつぶやく。
「もしかしたら、彼らは私たちが不運な銀河とのマージで生き残れなくなるのではないかと心配してくれている? 長期間保管用の高硬度タングステン合金外郭で保護した電池パック。マージ後に困った時の緊急信号用のアンテナ? マージ後のことを心配して、非常用パックを贈ってくれているのではないですか?」
星系調整員のキコブがホログラムで考え込む。
「私はもう少し、深い意志を感じます。彼らが自分たちの生命の秘密を教えてくれた。そう考えられないだろうか? 糧を浮遊酸素と結び付けて爆発的なエネルギーを生み出す。この高密度燃焼エネルギーの循環を、一つの模型として示してくれた。アンテナの方は、メウジクミさんが前に言っていた部品落下防止工具のように、我々が落下して絶滅してしまうことを避ける、互いに助け合う象徴としての飾り。ランドマーク。こんな感じではないだろうか?」
シュリアンは感情が揺れ動く思いを表現させる。




