第三十三話
三回転目の調査も無事に終わり、予定通りアンドロメダ銀河に戻った調査団。前回より少しだけ機嫌がよさそうなメウジクミのホログラムが、シュリアンのデスクに浮かんでいた。
「シュリアン。三十分の調査であれば、整備に間に合う酸化レベルで抑えられました。今後も同じブロックの調査の場合、三十分で切り上げるようにしてください」
「そうか、それはよかった。ところでね、メウジクミさん。C班から調査時間の確保のために、機数を倍に増やしてほしいという意見が出ているんだけれど、どうにかなるかな?」
「厳しいです」
「そこを何とか」
「……わかりました。それでは比較的、酸化状況が安定しているA班とB班を二時間で交換にしてください。両班の五機ずつをC班に回しましょう」
「ありがとう。A班とB班には、手順変更で伝えておくね」
「よろしくお願いします」
シュリアンは嬉しそうに通信を終えた。
「シュリアン。カンファレンスを始めるわよ」
インストの声にシュリアンが気持ちを入れ替えた。
「さて、もうなんだか、少し思考が付いていかないね。一つの惑星の調査というより、多数の銀河団の調査をおこなっている様相を呈してきているね。僕たちのアンドロメダ銀河や、その他の銀河を含めたこの宇宙の当たり前のシンプルさはどこにもなく、とても複雑な進化を遂げているとみるべきなんだろうけれど」
ホログラムに浮かぶ、銀河調整員のウハメが言う。
「いや、シュリアン。シンプルと複雑が共存するという感じではないだろうか? 二回転目、三回転目の調査で、我々宇宙の当たり前の知的生命体との接触もあったわけだ。やはりこの不運な銀河は、マージごとに訪れた大きな環境変化が一つの惑星内の環境を、銀河全体かそれ以上に混沌とさせたのではないだろうか? 実際この銀河では、この第三惑星以外で知的生命体と出会うことはなかったのだから、銀河全体が一つの惑星に集約されれば、それは混沌といえるだろうな」
「そうですね。それ自体がシンプルではないですね」
インストが言う。
「シュリアン。四回転目以降の調査について、集中と拡大を選ぶ必要がありそうね」
「僕の意見としては、拡大はしないが集中もしない、現状維持でもう少し深く知る必要を感じているけれど、どうだろうか?」
「今回の調査状況は、私の通信監理員としての専門性からは外れているから、一般論としての印象を言ってもいいかしら?」
リントの言葉に全員が同意を示す。
「アンカーがいるのではないかしら? というのが私の印象です。今でこそ、この第三惑星は銀河環境の大きな変化に対応するために、とても複雑な状況になっているけれど、マージが始まる前は、どこにでもある普通の惑星だったはず。実際、現状調査で分かってきたことは、光合成技術を開発したシアノ種族をキネティック種族がマージした。それが世代交代の結果、シンビオ種族という新しい種族となった。これからアンドロメダ銀河と不運な銀河がマージしてミルコメダ銀河に進化するのと同じように。シンビオ種族が分岐進化して、様々なタイプの固定性生命体になった。アーキア種族とシアノ種族はもともと存在した種族であり、現在でもその種族のままで存在する個体もいる。だとすれば、私の興味はキネティック種族ということになります。彼らの出自はどこ? 単独では話を聞くことができなかった。シンビオ種族と同じように。だからキーはキネティック種族だと思うの」
「なるほどね。それではアーキア種族とシアノ種族を調査しているC班とD班は、四回転目の調査からキネティック種族の出自を探る方に手順を変えようか?」
インストが口を挟む。
「シュリアン。その考え自体に反論はないけれど、手順は? 方法は?」
「……何か良い案はあるかな?」
星系調整員のキコブが発言する。
「シュリアン。A班が調査している移動性生命体もリントさんが言うように、同じ起源から発しているのではないだろうか? 第三惑星の複雑さは、ある一つの種族がキーになっている。その種族の働きによって、ここまで複雑になった。ここまで複雑になった理由の一つは、細く長く積み重ねる我々宇宙の当たり前から、環境変化への対応のために、太く短く積み重ねる道を選ばざるを得なかった事実。シュリアンが冗談で、我がオーン星を壊して、そのエネルギーをジャミ星で使うということを言っただろ? そして小さい範囲でのリサイクルがなされている事実。固定性生命体が切り離した、シンビオ種族の成れの果てがエネルギーを作り出している、緑色の板状の部位を切り捨て、それを他の生命体が分解して、最終的に固定性生命体がそれを吸い上げて利用していると。他の生命体とは移動性生命体も含まれている。つまりこの第三惑星では、銀河が星系であり、星系が星であるのと同じように、星が銀河でもある。多数の個体がつながりあって一つの生命体を作り上げている」
インストが言った。
「つまり、リサイクルの流れの中に、この第三惑星の流れの中に、キーマンが今でも存在している? もしくは固定性生命体を形成する種族と移動性生命体を形成する種族に共通している種族を探す?」
「ああ、そういうことです」
「インストさん。もっと具体的に言うと?」
「私であれば、A班とB班の調査を、もっと深くするかな……」
プレヴァがホワイトノイズを吐いた。シュリアンは笑顔で言った。
「高濃度の浮遊酸素地域の調査をしてもらっているC班の調査地域変更は、メウジクミさんに朗報をもたらせるので、僕としては嬉しい限りだ」
インストが呆れた感情を表した。
「では僕たちの仮説をまとめるね。前提としてこの第三惑星は、もともとは僕たちの宇宙と同じように、一つの種族が統治していた。現状ではその種族が多数に分岐進化して、多数の種族が共存しているように見えている。僕たちとしては、ミルコメダ銀河星系の前に、代表のような種族と理解し合う必要があるから、このキーマン。つまり、キネティック種族の歴史を追う。もしかしたらキネティック種族がキーになるのかもしれないし。キネティック種族の祖先がキーとして今でもどこかにいるかもしれない。それを探す。こんな感じかな?」
シュリアンの言葉に、皆は同意の意思を表示した。




