第三十二話
超巨大Mパックがラジアルベルト(赤道)を移動し始めてから二時間半が経過したころだった。ボアのホログラムがシュリアンのデスクに浮かぶ。
「シュリアン。念のため報告しておくが、たった今、ラジアルベルトのMパック直上で小規模なエネルギー爆発があったようだ。もちろんMパックは重力ロックされているから座標および移動速度に変動はないし、人工ダイヤモンドでできた外郭にも影響は皆無なんだが。もしかするとこの第三惑星の上空には、エネルギーが自然発火するような不安定ポケットが存在するのかもしれない。この爆発を探知する直前に、正面から秒速1.36キロで何かが近づいてきたんだ。この超巨大Mパックと似たような直径の棒状の物体だと思う。ホログラムが揺らいだかもしれないから、一応知っておいてくれ」
「了解しました。もしかしたらインストさんと話していた『大気の吐息』かもしれませんね。報告ありがとうございます」
ホログラムから視線を上げると、シアノ種族のインタビューを続けているC班からの報告を受けたインストとプレヴァが話をしている。
「何かあったのかい?」
シュリアンが尋ねると、黙って二人の会話を聞いていた通信監理員のリントが言った。
「ウハメさんとキコブさんが改良しているデコーダーがね、結構いい仕事をしているようです。先ほどの振動によるコミュニケーションやC班とD班が集めている、シアノ種族とアーキア種族のインタビューをまとめているところです」
振り向きざまにプレヴァが言った。
「シュリアン。私たちジャミ星人は自分の情報収納量が上限に達したときに、同じような状態にあるジャミ星人とマージして一つになり、そして三つ以上のジャミ星人として世代交代をおこなう。それまでに蓄えた情報を分散させてね。それと同じようにキネティック種族がシアノ種族をマージして世代交代をした。そのときにシアノ種族が持っていた、光合成をおこなうという知識を分けた。そしてシアノ種族を取り込んだキネティック種族が世代交代を重ねた結果として、シンビオ種族となった。双方からの言い分をまとめると、おおむね私たちの仮説の裏付けが取れてきたと認識しますね」
「なるほど。さっきの紡錘形の生命体に飲み込まれたシンビオのインタビューでも、シアノ種族が羨ましいって言っていたもんね。そう考えると、やはりこの第三惑星も、以前は僕たちの宇宙と同じ構造でできていたのかもしれないね。今の異常に速い世代交代というシステムに流れが変わるまでは」
「ええ。私たちは新しい生命体として、定型的なDNAの上に、それぞれの親が分け与えた知識を持つけれど、もしもその知識がDNAという形で残るとしたら、キネティック種族の土台となる定型的なDNAと、シアノ種族のDNAが共存していることも説明が付きます。シアノ種族が電磁波から作るグルコースエネルギーを提供する代わりに、彼らに足りなかった何かを得るという関係で、シンビオ種族として安定した。そんなところではないでしょうか?」
「キネティック種族がシアノ種族の足りない何かを補填したって、さっきの振動する紡錘形の生命体が言っていた、守ってあげるとか、移動してあげるとかそういうこと?」
「まだわかりませんが、排出する工業廃棄物である浮遊酸素の処理や、シアノ種族がエネルギーを作り出すときに使う他の素材の提供。あるいは先ほども出ていた、保護や移動なのかもしれない」
「人工ダイヤモンドの溶接技術みたいだね。どちらか片方の種族では成し得なかったけれど、違う特徴を持った二つの種族がマージすることで、生き残る技術を得たってことだね」
シュリアンは深く納得を表した。
「G班のミッチです。シュリアン。謎の地面調査ですがよろしいでしょうか?」
「ミッチさん。何かあったのかい?」
「いま私たちが気になっている点をいくつか共有したいと思います。B班が調査している、固定性生命体。E班がシンビオのインタビューのために調査している、固定性生命体に付随するエネルギー製造プラントと呼べる、緑色の板状の部位。私たちが調査しているこの謎の地面の表面については、主としてこの緑色の板状の器官が分離されて落ちて重なったもので間違いありません。表面から地層奥に進むにつれて、色が緑色から黒に変化していっています。これはおそらく酸化していっているものと推察します。それとですね、以前の調査で、プロキシフォレジャーが何かの生命体コロニーに入ってしまったことを覚えておられますか?」
「もちろんだよ。危うくプロキシフォレジャーを置き去りにするところだったからね」
「どうやらあの生命体コロニーは、それ自体が生命体のようです。移動性生命体の一つだと考えられ、分離された緑色の板状の器官を分解していっているようです」
「何のために?」
「エネルギー補充と考えます。他にも似たような行動をする生命体がたくさんいまして、彼らは分離された固定性生命体の器官を分解して、エネルギー化して、残りを工業廃棄物のように排出する。するとさらにサイズの小さな生命体が、同じように粉々に分解する。どんどん小さく分解していっているようです」
「つまり酸化とこれらの生命体の影響で、切り離された器官がどんどん小さくなっていく」
「はい。そしてその工程を繰り返すたびに色が黒くなっていくようです」
「そうか。酸化と分解時に起こる化学変化で、色が変わっていくんだね」
「おそらく。それとB班の調査結果にもありましたが、これら固定性生命体はこの謎の地面から栄養分を水に乗せて吸収して、体全体に運搬しています。つまりですね、自分から切り離した器官を、他の生命体が分解していき、最終的に窒素やリン酸という成分まで分解し終わってから、自身に再吸収しているようです」
「つまりリサイクルってこと?」
「そうです。この固定性生命体は、一部の使い捨てたユニットを中心の柱として使い、さらに切り離した器官などを他の生命体に分割させて使う。エネルギーは電磁波から製造させているので、小さな循環世界を成り立たせていると言えます。他の生命体の力も借りての話ですが」
「なるほど。平等であり、協力し合い、奪わないっていう僕たちアンドロメダの知的生命体と同じ生き方をしているってことだね」
「はい。そのとおりと言えます」
シュリアンは大きく納得した。




