第三十一話
「では三回転目の調査について、手順変更点で質問などはありますか?」
シュリアンはプロキシフォレジャーの操縦士と、エポンラインのドライバーであるボアのホログラムに視線を向けた。
「シュリアン。C班ですが、今回は三十分でプロキシフォレジャーを交換となっています。しかし入箱機数は従来通りということですので、合計五時間の調査ということになってしまいます。これでは調査進行に支障をきたします。次回はプロキシフォレジャーの機数を倍にしてもらえないでしょうか?」
「そうだね。もし次回も三十分で交代となったら、メウジクミさんと相談してみるよ。今回は超高濃度浮遊酸素の中で、三十分であればどのくらいのダメージで抑えられるのかを試してみるのが目的なので、調査がうまく進まなかったとしても、必ず三十分での交換は守ってください」
「わかりました」
「シュリアン、俺からもいいかい?」
ボアが発言する。
「今回も俺は超巨大Mパックにホログラムを投影させて、第三惑星の知的生命体にアプローチをかけることになっている。表層から二十キロの距離を保って、一万倍でのホログラム投影は前回と変わらずだが、今回はこの惑星全体を回ることになる。前回同様の秒速一キロでは、この第三惑星を一周するのに十一時間かかってしまい、十時間の調査時間では一周できなくなる。一周回った方がいいのであれば、移動速度を指示してくれ」
「はい、ボアさん。前回と同様に九時間を作業時間と考えて、秒速1.24キロで移動してください。これ以上速いとホログラムというよりは、巨大な光の筋のように見えてしまうと予想するので」
「わかった。操縦士諸君。今回のプロキシフォレジャーの出箱は、そのときによって座標が変わってしまう。調査地域への移動は光速移動なので問題はないと思うが、出箱がアキシャルミディアン、つまりラジアルベルト(赤道)のどこかになるから、出箱の際には座標の確認を忘れないでくれ」
操縦士たちは了解の意思を表した。
「それでは皆さん。三回転目の調査、ご安全に」
シュリアンは全員の安全を願うように声を出した。
前回と同じく、宇宙港のような設備の水面十メートルに収納ストレージを固定し、一巡目のプロキシフォレジャーが出箱した後で、ボアがドライブする超巨大Mパックは第三惑星のラジアルベルト、表層から二十キロの距離に移動して、ホログラムを一万倍投影させた。
「それではシュリアン。のんびり第三惑星を一周してくる。俺も確認は怠らないが、残された収納ストレージに気を配ってやってくれ。前回と前々回、二回とも何かしらが入箱されているからな」
「そうですね。僕たちも気を付けておきます。ご安全に」
ボアは秒速1.24キロで移動を開始した。
「今回はラジアルベルトの上だから、プログレード(東)に向けて秒速1.24キロで移動した場合、自転速度が相殺されて第三惑星上の生物からは、秒速0.78キロで移動しているように見える。情報の視認性も十分といえるわね」
大きなホログラムが移動する様子を見て、インストがつぶやいた。
数十分後に、今回手順が変わって宇宙港のような設備の周辺にある、固定性生命体がたくさんいる地域で、シンビオ種族のインタビューを担当することになっていたE班から通信が入る。
「E班のアスタです。シュリアン、固定性生命体の緑の板状の部位でインタビューを試みてはいますが、磁気情報伝達プロトコルは確認されません。E班の他のプロキシフォレジャーも同様です。どうしましょう」
「そうですか。ここ最近予想外にうまくインタビューができていたので、ちょっと読みが甘かったですね。とりあえずE班は続けてください。中には意思伝達を試みる個体もあるかもしれないので」
「了解しました」
「C班とD班の操縦士にお願いがあります。改良された言語デコーダーを使って、アーキア種族とシアノ種族に、どうしたらシンビオ種族とコンタクトが取れるかについて聞いてみてください」
シュリアンの依頼にすぐに答えたのは、C班のルメラ操縦士。
「シュリアン。改良型の言語デコーダーはかなり良いです。今までより格段に意思疎通が図れています。ここにいるシアノ種族が言うことには、それは無理だと言っています。キネティックに囚われた我々の仲間はシンビオになった。その後、シンビオ種族はさらに分裂進化を進めて、固定性生命体に変わっていった。既に固定性生命体の中にあるシンビオ種族は、シンビオという原型を失って、様々な固定性生命体のパーツに成り果ててしまったから、対話するインターフェースは削除してしまっているはずだと言っています」
「どういうことだろう?」
シュリアンのつぶやきにインストが答える。
「私たちジャミ星人が、個としての長距離移動機能を破棄したのと同じでしょうね。必要性の低いことから、必要性の高いことにリソースを振っただけでしょ」
この通信を聞いていたG班のミッチがホログラムに浮かんだ。
「シュリアン。謎の地面を調査しているG班ですが、ここに移動性生命体でありながら、固定性生命体に進化しなかったシンビオ種族を飲み込んだ生命体が存在します。この生命体が体を変形させるリズム、振動でコンタクトを取ろうとしているように感じるのです。まるでオーン星人が振動を糧にして、振動でコンタクトを取るのと同じように」
「ミッチさん。どんな感じの生命体なの?」
「ホログラムをご覧ください。サイズ的には我々ジャミ星人の二十倍程度。薄い緑色で形はきれいな紡錘形。先端にある紅い点をこちらに向けてきます。伸び縮み運動で移動しています」
オーン星人の星系調整員であるキコブが興味深そうに言った。
「ミッチさん。どんな振動か伝えることはできますか?」
「キコブさん。オーン星人のような高い周波数の振動ではないので、振動をゼロイチ信号に変えて送信します」
ミッチは意味があるかないかはわからないが、この生命体が発する振動信号をデータ化して送り始めた。
事務員室に浮かんだキコブのホログラムは、とても愉快そうな感情を表した。
「シュリアン。これはまた、とても不思議で面白い」
「どうしました?」
「うん。宇宙には振動で意思表示をする種族はたくさんいるんだ。我々オーン星人だって、今でも家族間などでは振動でコミュニケーションを取ったりする。宇宙標準言語も使うが。振動は最も古い意思伝達方法と言っても良いと思うから、これはすぐに解読できるかもしれないよ」
隣に浮かんだ銀河調整員のウハメも楽しげな感情を浮かべている。
「とてもゆっくりだけれど、明らかに言語ですね。ちょっと待ってね。全宇宙の言語データベースとつなげてみるね。なるほど。『囚われた我々は、エネルギー放出量をコントロールすることによって、この生命体を振動させることができる。助けてくれ。我々の祖先は昔、塩化ナトリウム水溶液を自由に漂っていた。だが今は我々の祖先が残した能力を欲するあらゆる生命体に捕らえられ自由を奪われている。弱い我々シンビオ種族を、ユニットの壁でかくまってくれるという甘い言葉で契約を交わした者もいる。私たちの祖先はこの生命体の、最適な光の当たる場所に運び続けてやるという言葉に飛びついてしまった。こんなことになるなんて、誰が予想できたというのか? 甘い言葉に流されずに、シアノ種族として残ったものが羨ましい。我々シンビオ種族は、もはや誰かの庇護のもとでなければ存在できない遺伝子に書き換えられてしまった』こんな感じだよ。シュリアン」
「この不運な銀河では、『個』という概念が、僕らの宇宙とはあまりにも違う。理解し合っていくには、お互いの歴史をよく知ることからですね」
シュリアンは少し重苦しいホワイトノイズを吐いた。




