第三十話
「シュリアン。ウハメさんとキコブさんは、この後すぐに言語解析に入るから、さっさとカンファレンスを始めましょう」
インストの強い言葉にシュリアンは慌てて気持ちを入れ替える。
「そうだね。わかったよ。ではカンファレンスをおこないます。まずは、ええと、A班の調査から」
プレヴァがデータの説明に入る。
「A班とB班は生命体の調査です。A班は不安定な二本脚生命体、およびその周辺にいる大型移動性生命体の調査をしています。まあ、正直に言ってしまえば、私の理解を軽く超えようとしています。そうですね……この星の、この大型移動性生命体たちは、いえ、この後でご説明する固定性生命体もですが、我々が知る『個』という定義や概念を、根底から覆しています。まずこの不安定な二本脚の生命体ですが、スキャンの結果、これは単一の生命体ではありません」
聞いていた全員が驚きの感情を表す。
「概ね三十兆から六十兆もの独立した『ユニット』が極めて精密なネットワークで連結された存在です」
ホログラムの銀河調査員、ウハメがつぶやく。
「銀河のようだ……」
プレヴァは同意する。
「そうです。まさに銀河です。簡易スキャンの結果、カルシウムを主材とした支柱フレームとでもいいましょうか、ベースといえる土台が存在します。その周囲を囲うように、何万ものアクチュエーターシステム(駆動装置)が同期、同調して収縮することにより、あの巨大な質量を動かしています。これらの全ては、ユニットが連結して作り上げています。以前話に出ていた、ジャイロ技術などはどこにも使われていません。この不安定な二本脚生命体は、やはりどこまでも不安定なバランスで動いている生命体といえます」
「アクチュエーターシステムの原動力、つまり糧は判明しているの?」
シュリアンが聞くと、ホワイトノイズを吐くプレヴァ。
「これがですね、最も恐ろしい調査結果といえますが、今回の調査のC班がインタビューをおこなった中で出てきた、工業廃棄物である浮遊酸素を使っています。浮遊酸素の破壊的な反応性を利用して、炭素鎖を爆発的に燃焼させてエネルギーを得ている」
プレヴァの説明を聞いたインストが驚く。
「え? プレヴァさん、ちょっと待ってよ。浮遊酸素をエネルギーとして利用しているだなんて、工部技術者の私から見ればあり得ないわよ」
「その他にも、不安定な二本脚生命体の近くにいる四本足の生命体や、大気中を飛んでいる生命体のスキャンもしましたが、基本原理は同じ動きでした」
「でもよ? 浮遊酸素なんか取り込んだら、ましてや燃焼などさせれば、ユニットはどうなってしまうの?」
「どうやらこの移動性生命体群は、ユニットが浮遊酸素を取り込んでエネルギー化させてアクチュエーターを動かすと、どんどん傷ついていき、最終的にはこの銀河から切り離されるという、まさに『使い捨て』という原理を採用しているようです」
参加者は全員息をのんだ。
「つまり、例えばだよ? オーン星を爆発させて、そのエネルギーでジャミ星のエネルギーを賄う。でもそんなことをしていたら、何もなくなってしまうよ」
「彼らは自身のユニットを使い捨てるかたわらで、新しいユニットを作成しているようです。そうやって使い捨てのユニットを補充している」
「でもだよ? 粒子だって二つに割ったときに、0.5と0.5にはならない。0.45と0.45になってわずかに減ってしまう。核分裂時に消えてなくなる0.1が恒星の発するエネルギーにもなるわけだけど、そのうち使い捨てるものが無くなってしまう。割る粒子が無くなってしまったら、恒星だってやがて巨大化した後で小さくなって沈黙する。宇宙の理として永久機関は存在しないんだから」
「そこまではまだわかりませんよ、シュリアン。まだ二回のスキャン調査です。これからだんだんとわかっていくかもしれませんが」
プレヴァの言葉を聞いていた、通信監理員のリントがつぶやく。
「以前の不運な銀河の中心部で見つけた、イリジウムのイコサヘドロンの物体に残されたテキスト。銀河マージごとに起こる大きな環境変化に対応するために、世代交代を早めたというメッセージ。何かリンクする感じね」
シュリアンが驚く。
「え? 世代交代を早めるために、自身を形成するユニットに浮遊酸素を飲み込ませて壊すっていうのかい? つまり生命体は自分自身を破壊してアクチュエーターを動かし、世代交代を早めると?」
「まだわからないけれど、理屈は通ると思わない?」
リントの言葉にシュリアンは言葉を失う。それを見ていたプレヴァは続ける。
「シュリアン。まだまだ始まったばかりです。この調査も私の報告も。次はB班が集めているデータについて話します。B班は動かない生命体、固定性生命体の調査をしています。私はおそらくこれが、今日のC班のインタビューで出てきたシンビオという種族の仲間なのではないか? そう思っているの」
「ああもう、思考がついていかないや」
混迷を深めるシュリアンを横目に、プレヴァは次のホログラムを浮かばせる。そこには二十メートルはあるであろう、とてつもなく大きな生命体のスキャンホログラムが浮かんでいる。
透過スキャンホログラムは、あたかも複雑な回路図のようであり、工業設計ホログラムのようでもある姿を映し出していた。
「まず初めに、この動かない生命体は、謎の地面から様々な化学物質を吸い上げている。水、リン、カリウム、なぜか地面にある窒素。その他たくさんの物質をです。どうやら水を使って全体に各物質やエネルギーを届けているようです。配られた物質は、構造材、エネルギー保管、信号伝達材として使われているようです。そして緑色の板状の部分でエネルギーを作っています。このエネルギー製造の流れが問題でして、どうやら電磁波をエネルギーに変換しているようです。浮遊酸素を排出しながら」
シュリアンがつぶやく。
「シンビオかぁ……」
「おそらく。今のところの予想では、光合成技術を持ったシアノ種族の一部をキネティックが飲み込んで一体化した。その後、進化してシンビオになった種族の末裔たちが、この固定性生命体に分裂進化していった。この固定性生命体があまりにも大きいため、必要なエネルギーが大量となった結果として、大量の浮遊酸素という工業廃棄物を吐き出している。つまりこの固定性生命体が、この第三惑星を工業廃棄物である猛毒浮遊酸素の星と変容させたのではないでしょうか?」
プレヴァの報告を聞いたインストが言葉を投げる。
「カウンターとしての移動性生命体がいるってことね。固定性生命体が工業廃棄物である浮遊酸素を噴出し続ける。移動性生命体がその浮遊酸素を燃焼させて浮遊酸素量を減らす」
「……多様性のバランス」
シュリアンがつぶやいた。
その後も他の班の調査データを解析していったが、とにかくこの第三惑星の生命体の当たり前が、シュリアンたちが知る宇宙の当たり前からかけ離れているので、三回転目の調査の重点をどこに置くのか? という手順の変更を決めていった。
話し合われた仮定を確定させるため、シンビオのインタビューをおこなうこと。それと謎の地面がシアノ種族の言う通り、本当にシンビオの死骸で構成されているのかを確かめる必要を確認した。




