第二十九話
「え? この浮遊酸素は工業環境破壊の結果だったんですか?」
「おそらくは。まだ言語解析の信ぴょう性は三割程度ですが」
続けてウハメが話し出す。
「浮遊酸素によってどんどん汚染されていく大気。彼らの種族の九十九パーセントは酸素のシャワーに焼かれて死んだと言っています。どうにか逃げ出した一部が、この深く暗く熱い場所で生き残ってきたようです。だから彼らは、自分たちを被害者だと言っています」
通信を聞いていた全ての関係者が黙り込んだ。
「いったい誰がそんなことを……」
ウハメが答えた。
「彼らは『シアノ』と呼んでいます」
その直後に、台形の大地で調査をしているC班、ルメラから通信が入った。
「ウハメさん。デコーダーを介して話を聞くと、何となく言っていることが分かり始めました。多分……ここにいる彼らがシアノという種族ではないでしょうか?」
「え? 第三惑星の環境を破壊した加害者?」
シュリアンの言葉を受けてルメラが返す。
「彼らは、なんというか、少し傲慢な振る舞いをみせます。自分たちがこの宇宙で唯一『光合成技術』を完成させた種族だと。自分たちがエネルギー電磁波を糧に変換した。もう誰も宇宙では糧不足で苦しむことはないのだと言っています」
「でも、浮遊酸素なんていう、とんでもない猛毒をまき散らしながらでしょ? それは技術完成とは言わないよ! 結果多くの生命体を死なせたんだ」
「……今のシュリアンさんの言葉を投げかけてみたところ、馬鹿を言うなと言っています。自分たちが開発した技術を使って、浮遊酸素をまき散らしたのは自分たちではないと」
「どういうことだい?」
「彼らが言うには、光合成技術を開発した自分たちの種族の一部を、捕らえて飲み込んだ別の種族がいるようです。この星に浮遊酸素をまき散らしたのは、その種族だと言っていて、自分たちも被害者だと言っています」
「じゃあ、本当の加害者は別にいると?」
「はい。彼らは『キネティック』という種族こそが、この第三惑星に浮遊酸素をまき散らす加害者だと言っています」
生命技術員のプレヴァがつぶやく。
「告発……」
「はい。自分たちは不運な銀河といわれるこの銀河の生命体が、生き抜くために電磁波からエネルギーを生み出す技術を開発した。その頃はまだ、発生される浮遊酸素も他の化学物質と反応して、水や二酸化炭素などの安定酸素として処理できる程度だったと。けれども自分たちの種族の一部がキネティック種族に捕獲された。キネティック種族は我々をマージすることにより、進化してシンビオという種族になった。シンビオの奥深くに内包された我々シアノの遺伝子は、意思も自由も奪われて働かされ続けている。結果として、我々の種族の存在が、この星を浮遊酸素で満たされる最悪の環境に変えてしまったのは事実だが、それでも自分たちは銀河系のために作り出した技術に誇りを持っている。それを我々が悪いように言われては、心外だと」
シュリアンは黙り込んだ。
「シュリアン。何事も簡単にはいかないわね」
プレヴァのつぶやきに、悲しい気持ちを表すシュリアン。
「ルメラさん。そのシンビオという種族には、どこに行ったら会えるのか聞いてください」
慌ててインストが割り込む。
「ちょっとシュリアン。内政干渉よ? 外銀河のことに首を突っ込みすぎるのは問題よ?」
「いや、別に責め立てようと思っているわけじゃないんだ。アーキアの話を聞いて、僕はシアノは良くない種族だと思ってしまった。でもシアノ種族の言い分を聞けば、シアノ種族だって被害者だった。だからシンビオだって、何か理由があったに違いないと思ったんだ。それを知っておかないと、僕たちは同じ銀河の仲間として、より良い形をつくれないよ」
「じゃあ少し感情を抑えなさい」
ルメラが言葉をはさむ。
「シュリアンさん。どこにだっていると言っています。地面の七十五パーセントがシンビオの連中に覆われていると言っています」
「え? いったいどこにそんな種族がいるっていうんだ?」
「その種族の末裔たちの死骸が、この星の地面を作っていると言っても過言ではない。そう言っています」
シュリアンの混迷は深まるばかりだった。
二回転目の調査は、破損するプロキシフォレジャーもなく、様々な情報を集めることができた。ボアの操縦により、全プロキシフォレジャーが予定通り無事にアンドロメダ銀河に戻り満足いく結果となった。だが整備工場のメウジクミはやや不機嫌そうな感情を表したままで、シュリアンのデスクにホログラムを浮かべた。
「シュリアン。D班のプロキシフォレジャーも良いとは言えませんが、それでもマシです。C班のプロキシフォレジャーに比べれば。異常に早い酸化がヌルフィールド被膜を破壊していますが、心当たりはありますか?」
シュリアンは少しだけ困った感情をにじませる。
「ごめんね、メウジクミさん。C班の調査対象地域が、純度の高い浮遊酸素濃度が八十パーセント近い場所なんだ。三回転目も同じ場所を調査してもらうことになるから、どうにか頑張ってクリーニングをお願いしたい」
メウジクミはホワイトノイズを吐き出す。
「はぁ……シュリアン。プロキシフォレジャー一機の調査時間を、C班については一時間から三十分に短縮させてください。ここまで酸化が進むと、一回転では修繕できなくなってしまう。結果六回転目まで毎回八百機のプロキシフォレジャーを準備できなくなってしまいます。少なくとも三回転目のC班は、三十分で交代。その様子を見て今後のことを決めましょう」
「……わかったよ、メウジクミさん」
シュリアンは残念そうな感情を表した。
そんな様子を横目に、事務員室にはインストとリント、プレヴァがそろっていた。ホログラムでウハメとキコブも浮かんでいる。




