第二十八話
一時間ごとにプロキシフォレジャーを交換して、四巡目のプロキシフォレジャーからのデータが送られてきている事務員室。ホログラムにボアが浮かぶ。
「シュリアン。四往復目に入ったところなんだが、収納ストレージにまた、こないだよりも大きな物体が入箱したぞ。一度戻って確認させてくれ」
「了解しました」
「では光速移動で戻る……シュリアン、大変だ。収納ストレージの周りに、五体の二本脚生命体が純水の中に浮かんでいるぞ。画像を送る」
ホログラムに浮かんだのは、純水の中を暴れるように水しぶきを上げている、五体の二本脚生命体。
「ボアさん、収納ストレージの中身は何ですか?」
「長さはこないだの棒状のアンテナのような何かの十倍くらい、つまり超巨大Mパックの百倍以上だな。構成物質は主だって鉄。分析不能の液体も含まれている。二十メートル、三メートル、二メートルくらいの物体だ。断面は三角形に近い形。どう対応する?」
「いやいや、困ったな……」
ホログラムを見ていた生命体技術員のプレヴァが言う。
「シュリアン。この五体の二本脚生命体は、危機状態にあるのではない?」
「どういうこと?」
「前回、乗り物のようなものに乗った二本脚生命体が、アンテナのような何かを収納ストレージに積みに来たでしょ? もしかしたらこの生命体は純水の中では生きていけないのではない? 乗り物が収納ストレージに触れてしまって収納されてしまった。投げ出された二本脚生命体が危機状態に陥っているのではない?」
「ええ? だとしたらマズイね。ボアさん。まず収納ストレージを陸地まで移動させて、収納された大きな鉄の塊を陸地で出箱させてください。この場所で出箱させて、不安定な二本脚生命体にぶつかってしまっては大変だ。そのうえで超巨大Mパックを二本脚生命体の下に入れて、一体ずつ陸地に移動させてください」
「ああ、わかった」
「ボアさん、プレヴァです。二本脚生命体の質量を考えたときに耐えられないかもしれないから、加速Gがかからないように、速度を落として運んでほしいの」
「どのくらいだ? プレヴァさん」
「インスト? どう思う?」
「ボアさん。インストです。加速度は0.3Gに抑えてほしい。最高速度は秒速五十メートル以下で」
「インストさん、復唱する。水平加速は最大2.94 m/s2(0.3G)。巡航速度は秒速五十メートルを上限とする。加えて、彼らの体表面と超巨大Mパックの間に、『分子間吸着フィールド』を最小出力で展開します。そうしないと、彼らは滑らかなMパックの外殻から、摩擦不足で滑り落ちてしまいます」
「さすがね、ボアさん。それでお願いします。なにぶん重さが我々とは……百京倍くらい違う可能性があるから」
「ちょっと意味が解らない倍率ですね。とにかく……慎重に移動開始します」
ボアは先に収納ストレージを光速移動させて、陸地に鉄の塊を出箱させた。すぐに超巨大Mパックを操縦して二本脚生命体の下に潜り込ませて、慎重に水面から二メートルの距離を浮遊移動開始。心配そうに見守るシュリアンたち。
「……あの時、インストさんにポーターをどこにするか相談して、エポンラインにして本当によかった」
インストは黙って二本脚生命体の移動を見守っていた。五体目の移動が終わった段階で、ボアがホッとした様子をホログラムに浮かばせる。
「皆さんの助言で、対象生命体を傷つけることなく輸送完了。いったい何が起こったんだろうな」
「ボアさん。収納ストレージはまた同じ場所でロックしておいてほしいですが、高さを現在の水面三十センチから、十メートルにあげてください。そうすれば二本脚の生命体がぶつかることもなくなると思うので。おそらく今回は、彼らの乗り物が収納ストレージの、上面の収納面に触れてしまって収納された。生命体は収納されないから投げ出されてしまった。こんな流れだと予想するのです」
「了解した。全操縦士へ。平面座標変更はないが、水面からの距離を変えてロックする。迷子にならないでくれよ」
全操縦士から同意の意思表示があった。
状況が落ち着いてから、ボアは往復一時間の大型ホログラムの提示移動を再開した。同じころ、言語解析会議をおこなっていたウハメとキコブが事務員室のホログラムに浮かんだ。
「他銀河の力も借りて、第三惑星の水深が最も深い地点でのインタビューで聴取した言語の解析結果を報告します」
疲れた様子のウハメの言葉に対してシュリアンが返す。
「ご苦労様です。ある程度の解析ができたということですか?」
「信ぴょう性は三割ってところですが、リアルタイムデコードを組みました。同じ言語かどうかはわかりませんが、別の種族とのインタビューでも使ってみていただきたい」
「ひし形の大地でインタビューをしているC班。このデコーダーを使ってインタビューを続けてください。D班もこのデコーダーを使えば、今までより会話が成立するかもしれません。試してみてください」
C班とD班から同意の意思表示があった。続けてキコブが報告を続ける。
「シュリアン。この深い水深で見つけた種族名をアーキアと仮定する」
「古細菌ですか?」
「ええ。彼らは被害者だと言っているようです」
「被害者ですか?」
「ええ。まず彼らはプロキシフォレジャーに対して、地上から来たこと、また、塩化ナトリウム水溶液を進んできたことに驚きを表明しています。猛毒の中を突き進んできたことについての驚きを。その昔はこの星も良いところだったと、昔話のようなことを続けていました」
「だからアーキアと」
「ええ。彼らは、自分たち種族は、この第三惑星の古株だと言っているようです。彼らは我々同様に、浮遊酸素を猛毒だと言っています。もともとはこの星にも浮遊酸素などなかったが、ある時から増えてきた。彼らは塩化ナトリウム水溶液の深くに逃げ込んだようです。ブラックスモーカーと呼んでいる、マグマだまりから噴出される、超高温の硫化物に守られて生き延びているとのことです」
「浮遊酸素を避けるために、我々では生き延びられないような高温を選んだんですね」
「ええ。浮遊酸素から逃れて数十億年が経過しているようです。第三惑星の誕生直後、浮遊酸素などは全くない平和な星。その頃は自分たち種族が第三惑星の多くの場所で暮らしていた。そんな時に恒星から発せられるエネルギー電磁波に手を出した種族がいた。その種族がエネルギー電磁波から自分たちの生命の糧を作り出し始めた。そのときに浮遊酸素という工業廃棄物をまき散らし始めた。そう言っています」
シュリアンは驚きを表す。




