第二十七話
「シュリアン。今日は減速接近をしないで大丈夫か?」
メウジクミたちが整備を終えたプロキシフォレジャーを積んだ超巨大Mパックは、二回転目の調査を実行するために、不運な銀河の辺境、オヤイアット星系付近まで進んできていた。ボアのメッセージと共に、青い第三惑星のホログラムが浮かぶ。
「はい、ボアさん。今日は光速で宇宙港らしき設備に入ってもらって結構です。ですが今日はその後でお願いがあります」
「俺にできることであれば」
「宇宙港らしき設備内に、収納ストレージを出箱固定した後、超巨大Mパックはその設備を出て、表層距離二十キロを維持しつつ、秒速一キロでひし形の地面とそれに連なる壁のような細長い地面の上空を、ホログラム投影をしたままで往復してほしいのです。一往復でおよそ一時間。収納ストレージの出箱作業や入箱作業もあるので、九往復をめどに広範囲の生命体にアプローチをしてもらいたいのです」
「わかったがシュリアン、表層から二十キロ離れて第三惑星の生命体から見えるのか?」
「ホログラム投影倍率を、最大倍率の一万倍にしてください。そうすると地表から第三惑星の衛星と同じ高さで、幅は九倍のホログラムとして視認できますから、おそらく見えると思います。インストさんの計算では、表層から二十キロ離れれば、気体や温度の影響が少なくなるので、一万倍投影が可能だということです」
「なるほどわかった。では準備ができ次第取り掛かるとする」
「プロキシフォレジャーの操縦士の皆さん。変更手順書はお配りしていますが、D班は前回同様の塩化ナトリウム水溶液最深部での継続調査。C班は予定変更で、アキシャルアルファ百十六度(北極点から116度)、レトログレード側(西)。長細い地面から大きな水溶液だまりの向こうにある台形の大きな地面の調査をしてもらいます。この地面の端の方の塩化ナトリウム水溶液を抱えるような場所は、他の場所よりもナトリウム濃度が高く、純度の高い浮遊酸素濃度が濃い。そして情報を多数含んだ石灰岩の塊が認められます。先日の生命体同様、ユニークな場所には生命体が存在する確率が高いので、この場所の調査を進めてください」
「C班のルメラですが、前回のD班同様に知的生命体と思しき存在と接触した際には、こちらからも語りかけて会話データを聴取するという流れでよろしいですね?」
「はい、そのとおりです。では皆さん、ご安全に」
ボアがドライブする、超巨大Mパックは宇宙港と思しき設備に到着した。
ボアは一酸化炭素が充填されている、収納用十一次元展開ストレージを出箱すると、円形の純水だまりの中央部、水面から三十センチのところに固定させた。
「操縦士諸君。初めの一時間を担当するプロキシフォレジャーの出箱をしてくれ。その後、この超巨大Mパックは一度この設備を出る。一時間後にまた戻ってくるので、そのときに次のプロキシフォレジャーの出箱を。何かしらで時間がかかったとしても、プロキシフォレジャーも光速移動ができるので、随時出箱で問題はないはずだ」
了解の意思を表示したプロキシフォレジャーの操縦士たちは、超巨大Mパックからプロキシフォレジャーを出箱させて、それぞれの担当地域に向かって移動を開始した。
「シュリアン。それでは超巨大Mパックは宇宙港らしき設備を出て、地表から二十キロの高度に移動後、ホログラムを一万倍投影したままで往復を開始する」
ボアの声にシュリアンが答える。
「ご安全に」
ボアはその場所でホログラムを一万倍投影した。そのホログラムを、すでに出箱したプロキシフォレジャーがとらえる。
それを見たインストがつぶやく。
「やっぱりホログラムが大きく崩れるわね。様々な影響で色も混ざり合って、光の祭典のようね」
「ハハハ、そうだね。やはりインストが予想した通り、大気や温度の要素が不純なフィルターとなってしまって、情報が崩れてしまうね。でもさぁ、インスト。これはまるで、高エネルギー粒子が磁場に捕らわれたときに放つ、あの『大気の吐息』みたいでキレイだよね。この第三惑星でも、星系中心のオヤイアットからの高エネルギーが磁場とぶつかった『大気の吐息』が見られるのかな?」
「そうね。理論的には十分にあり得るわね。この星ではどんな色の『大気の吐息』が出るのかしらね?」
インストは科学的好奇心を抱えて、シュリアンはその美しさを想像して小さな笑みを浮かべた。
ボアはそのまま表層距離を上げて、第三惑星の生命体に対するアプローチを開始した。
調査開始から数分後、さっそくC班から通知が入った。
「シュリアン。C班です。読みが当たりましたね。台形の地面のレトログレード側。石灰岩付近です。生命体とコンタクトできました。こちらの生命体も、電磁共鳴を使った情報位相リンクをおこなっています。不明言語ですので意思疎通はできませんが、明らかにコンタクトと考えられます。予定通りこちらからも宇宙標準言語で語りかけ、インタビューデータを集めます」
「C班。銀河調整員のウハメです。前回のインタビュー時に、浮遊酸素に対する拒否反応が見られましたので、ご注意いただきたい」
「ウハメさん。C班のルメラです。ええと、この場所はですね、非常に純度の高い浮遊酸素が溢れる場所でして、浮遊酸素濃度が八十パーセントを超えるような場所です。ですから……どうにもなりません」
二人の会話を聞いていたシュリアンは笑い出す。
「多様性だねぇ」
インストは気楽なシュリアンの言葉に、呆れるような感情を表現した。




