第二十六話
「シュリアン。帰還したプロキシフォレジャー全機の整備が完了しました。あと数十分で、次回調査用の入箱も完了します」
「ありがとうね。今回はあまりひどい損傷を受ける機体がなくて良かったよ」
「そうですね。ただし置き去りになっていた八つのMパックと一機のプロキシフォレジャーは、やはり酸化が進んでいますので、修繕にはそれなりの時間が必要です。シュリアンさんにお願いした特別班が修繕に入っていますが」
「そうだね、メウジクミさんが心配を表現してくれたおかげで、傷ついた分身たちを、後回しにして放置することもなかったね。よかったよ」
「本当ですね、それでは」
メウジクミが通信を終了させようとしたときに、インストが声をかけた。
「ねえ、メウジクミ。この物体について、あなたなら何を目的にした道具だと予想する?」
インストがメウジクミにホログラムを送ると、少し考えたメウジクミが答えた。
「部品の落下防止のために、棒状の先端にヌルフィールド被膜を加工した道具を使うことがあります。滑り落ちてもヌルフィールドに吸着させる道具です。もしヌルフィールド技術が無かったとしたら、この網で部品を捕まえる。そんな感じかな?」
「……なるほどね、ありがとう」
メウジクミのホログラムが消えた。
インストはしばらく考えてから提案した。
「電磁波にしても部品落下防止用の道具にしても、何かを捕まえる目的ではないか? という点では意見が一致。第三惑星にどのような技術があるのかわからないけれど、彼らが私たちにこれを託したということは、一度信じてこの道具を立ててみたらどうかしら?」
「え? 二メートル近い物体を立てるだって?」
シュリアンが驚きの感情を表す。
「どうやって?」
リントの質問にインストが答える。
「オーン星から技術者を派遣してもらって、円形の先端部分にヌルフィールドステージを接合させる。そのヌルフィールドステージを地上二メートルの高さで固定させれば、立っているのと同じ状態にできる。そのあと何が起こるのか想像もできないけれど……」
インストは端末をオーン星のMパック製造工場のキッテにつなぐ。
「インストさんからの通信には、恐怖すら感じるこの頃だが、どうしたんだ?」
キッテが言った。
「実はね、超巨大Mパックの十倍くらいの物体を立たせるための、フック形状のヌルフィールドステージを作りたいと思って」
ホログラムに浮かんだキッテは、大きなホワイトノイズを吐き出した。
同じころ、ウハメとキコブは他銀河の研究者と共に、今回集めた生命体との会話データを分析していた。
アンドロメダ銀河の第二核、首都オーン星。インターギャラクシー(銀河相互)会議場には、二十銀河の言語研究の権威たちがホログラムで浮かんでいた。
「急な要請にご協力いただき感謝」
ウハメが告げると、参加者たちは同意のスイッチを押した。
「皆さんもご存じの通り、次回、我がアンドロメダ銀河とマージされる、仮称『不運な銀河』の知的生命体調査の中で、ある惑星に生命体を発見しました。その惑星はナトリウムやマグネシウムなどの溶け込んだ水溶液が表面の七割を覆っている惑星であり、地表には二十一パーセントの浮遊酸素が満ちるという、我々の常識では生命体の存在など考えられない惑星であります。今回その惑星の水深一万メートル、惑星中央部のマグマから高温ガスなどが噴き出している場所で発見した生命体が、我々と同じ電磁共鳴を使った情報位相リンクを試みてきました。つまり知的生命体の可能性が高いと言えるのですが、我々アンドロメダでは解読不能な言語でした。そこで皆様のお力を借りて、この生命体とコンタクトを取りたいと考えております。あと五回の調査でいったん終了という計画です。時間がないのでよろしくお願いします」
「ふむふむ」
この宇宙の中で最も大きな銀河である、イイオイ銀河の言語学者ヒコが、集められた会話データの磁気データ波形を三次元に展開しながらつぶやいた。
「ウハメ殿。これは言語で間違いないです。根拠をご説明する。パルスの出現頻度を解析したところ、単語出現頻度法則に一致しています。自然界のノイズではなく意図的に構成された磁気情報伝達プロトコルであると確定できます」
ヒコの発言を聞いた、こちらも銀河サイズが大きく、科学レベルも高いと言われる、マゼンラ共同体銀河のチンラクッパが発言する。
「ウハメ様。ヒコ様のおっしゃる通りにこれは言語と断定できますが、翻訳方法について言えば、我々の知るところでは、今回使われている言語に近しい言語が存在していない。そこで私が提案したいのは、今回の調査で測定されている環境データとの照合です。できれば会話中のリアルタイムデータが欲しい」
ヒコが何かに気が付いた感情を込めて言う。
「なるほど。モムッズストーンとして使おうということですな? チンラクッパ殿」
「はい。私たちの宇宙の親宇宙の中で、最も古い銀河であると言われているモムッズ銀河。そこで作られた電磁石がこの子宇宙の発生時に巻き込まれ残された。その言語を元にこの宇宙の成り立ちが解析された。つまり今回も同じように、いま手に入るインタビュー時の環境データと言葉を重ね合わせて、意味を予想していくということです」
ウハメはすぐに、会話データと時間軸で並べられた環境データを配布した。
データには会話で発した言葉と、その隣には温度や圧力や元素分析結果が記述されている。
「ウハメ殿、キコブ殿。初めにラコヨチ殿が会話を開始し、その後、他の遠隔調査機が合流したタイミングを見ていただきたい。新たな機体が接近したこの瞬間、ある単語が急増し、パルスパターンの振幅が最大化している。環境データからわかるのは、後で加わった遠隔調査機の数機が大気中からこの水溶液に移動してきたので、微量の浮遊酸素を持ち込んだ。この浮遊酸素を感じた結果として、この生命体の感情が大きく動いた。この単語と浮遊酸素はアンカリングしてよさそうです」
集まった各銀河の専門家たちは、環境データと単語を結び付け、単語と単語を結び付けてパターンを探した。
数時間後には『文章』とは言えないが、断片的な名詞と動詞の羅列を導き出した。
『[上方/飛来]……[猛毒(酸素)]……[驚愕]』
『[過去]……[静寂]……[星/領域]』
『[他者]……[光の摂取]……[廃棄物(酸素)]……[大量/散布]』
『[同胞/99%]……[燃焼/死滅]』
『[現在/深淵]……[情報(記憶)]……[保存/永続]』
キコブが小さな声でつぶやいた。
「……これは」
ウハメが応える。
「雑ではありますが、適当にこの単語をつないでみますね。『上方から飛来した猛毒の浮遊酸素に驚いた。昔は静寂な星であり静寂な領域だった。自分たちではない種族が、光を摂取してその老廃物として酸素を大量に放出した。自分たちの種族は九十九パーセントが焼け死んだ。現在はこの深い水溶液の中で記憶を保存している』こんな感じでしょうか……」
「ウハメ殿。文法がまだ欠落しているが、この星の歴史で起きた『大災厄』の輪郭だけは、はっきりと伝わってくるのではないだろうか」
「そうですね。やはりこの星のブルーは、この星にとっても恐ろしいものだった」
ウハメたちは、この星の生命体たちとコンタクトを取るために、インタビューの内容の分析を続けた。




