第二十四話
すると、二本脚の不安定な生命体は、超巨大Mパックの脇に出箱されていた、収納ストレージに何かを入箱させた。その後、大急ぎで純水に浮かぶ乗り物は、Mパックから離れていった。
「シュリアン、十一次元展開されているから問題はないが、収納ストレージに相当大きな何かが積み込まれたぞ。この超巨大Mパックの十倍近い何かだ」
「え? 十倍? どんなものですか?」
「十一次元ストレージ内の様子は、カメラでは映すことができないから、サイズや素材しかわからないのだが、なんだろう……見たこともないような素材だ。おそらく人工物だと予想する。ボーキサイト鉱石に含まれているアルミニウムだけを取り出したような素材。他の素材はちょっと全くわからん。炭素や水素や酸素や……そういったものの複合体なんだが、少なくともアンドロメダでは見たことも聞いたこともないような素材だな」
ボアから成分スキャンの結果が送られてくる。それを見た専門員は全員黙り込んだ。
「この素材について、誰か見たことがある人はいますか?」
シュリアンの問いかけにインストが答える。
「これは見たことがないわね。天然でも人工でも……」
「まあ、本体を見てみましょう。今回は三十六時間ごとに贈り物が確認できるんだから」
シュリアンの言葉にインストが返す。
「シュリアン、見てみようも何も、あなた、サイズを考えなさいよね。超巨大Mパックだって私たちには全体を見ることなんてできない。すごく離れてなら見られるけれど。それの十倍よ?」
「オーン星人でも難しそうだね」
シュリアンは面白そうに言った。次の瞬間、プロキシフォレジャーの操縦士から通知が入る。
「シュリアン。予定通り塩化ナトリウム水溶液の最高深度付近にある高温地帯に取りついて調査中のD班です。ちょっとこれ、もしかしたらなんですが……」
「D班ラコヨチ操縦士ですよね? どうかしましたか?」
歯切れの悪いラコヨチに詳細を求めるシュリアン。
「もしかするとここは、我々の宇宙と同じような知的生命体がいるのではないでしょうか?」
「インストよ、ラコヨチさん。わかりやすく答えを伝えて」
「この場所には生命体がいます。我々に近いサイズと外見を有しています。何よりも、これ……電磁共鳴を使った情報位相リンクじゃないですかね……」
驚いた感情をあらわにするインストとシュリアン。そしてこの通信を聞いていたすべての関係者。
「ラコヨチさん。シュリアンです。いったい何を根拠に言っているのですか?」
「シュリアン。データを送ります。何を言っているのかはわかりませんが、おそらく何かを言っています。塩化ナトリウム水溶液の水深一万メートル地点。おそらくマグマから噴き出している高温ガスにより加熱された八十度近い高温の塩化ナトリウム水溶液。ここに我々ジャミ星人と同じくらいのサイズの生命体を発見しました。多数います。近寄ってみると電磁共鳴を探知したので、データを取得。念のためこちらからもメッセージを発信してみましたが、互いの言語相違が大きすぎて何を言っているのかはわかりません。ですが……」
シュリアンはラコヨチの代わりにつぶやく。
「どう考えても、我々と同じ方法で、我々のように思考の伝達を試みているとしか思えないよね」
「はい」
ラコヨチは静かに同意の意思を表した。シュリアンはすぐに銀河調整員のウハメに通信で伝える。
「ウハメさん。この会話データの解析を迅速解析願います」
「ああ、だが時間がかかる。おそらくこちらからのメッセージも伝わってはいないだろうが、ラコヨチさんには会話を続けさせて、相手のメッセージを収集してくれ。たくさんのデータがあった方が、解析の可能性は高くなる」
「ラコヨチさん。何でもいいので、こちらからの語りかけを続けてください。D班の皆さんはラコヨチさんの座標に移動して、他の生命体にもインタビューをしてください」
D班のプロキシフォレジャーは移動して、ラコヨチがインタビューしている生命体種族へのインタビューを開始した。
その後も一時間ごとにプロキシフォレジャーを交換して、D班はこの場所で生命体にインタビューを続けた。次々に送られてくる会話のデータをウハメは分析をして、D班には様々なパルスパターンでの語りかけを指示した。
しかしウハメの迅速解析をもってしても、リアルタイムでの言語意味のデコードには至らなかった。この知的生命体が使う情報プロトコルは、アンドロメダ銀河のどのデータベースにも存在しない事実を、星系調整員のキコブが確認していた。
もともと別銀河出身であったウハメとキコブの感覚としては、とても古く、極めて特殊な、あたかも暗号化されているように感じる言語だった。
シュリアンのデスクに、ウハメのホログラムが浮かぶ。
「シュリアン、今のところこの種族が何を言いたいのかはわからないんだが……」
ウハメの隣に浮かんだキコブが続ける。
「感覚としては、とても怒っている、あるいは怯えているように感じます。D班が送ってくるパルス波形は、激しく乱高下している。我々の接近に対して、強烈な拒否のシグナルを浴びせ続けているような印象を持ちます」
「ウハメさんとキコブさんは、この意思伝達の解析を最優先で続けてください。今のところ意味は分からなくても、感情の波は伝わってくる。少なくともこの種族は、我々の接近を歓迎していない可能性が高いという事実は理解しました」
「ああ、シュリアン。私もキコブさんも特別班を編成して解析にあたろうと話していたところだ。たくさんのデータがあれば、その法則性を見つけてある程度の意思を理解できるはずだ。これまでだってそうしてきた。他の銀河の力も借りて基礎アルゴリズムの構築をしてみるよ」
その後もD班はインタビューを続けた。そして宇宙港らしき設備では、とても大きな贈り物を収納用ストレージボックスに積み込んだ、不安定な二本脚の生命体からの接触は、それ以降なかった。




