第二十三話
不運な銀河に入った超巨大Mパックは、オヤイアット星系付近の宙域で一度停止した。エポンラインのドライバーたちは、前回置き去りにしたMパックをドライブして、一酸化炭素が充填された収納ストレージに入箱させた。
生命体コロニーに飲み込まれ著しく酸化破損してしまい、第三惑星に置き去りになっていたプロキシフォレジャーも、当時操縦していたバラミによって、収納ストレージに入箱された。
一度は使い捨てと決まった九つの分身たちは、この回収作業により、全てがアンドロメダ銀河に帰れることになった。
自分の操縦中に生命体コロニーへ飲み込まれたことの責任を、深く背負い続けていたバラミ。Mパックの使い捨てを痛ましく思っていたエポンラインのドライバーたち。それぞれが胸に抱えていた苦しさが、この瞬間、フワッと軽く浮き上がり消えていくのを感じた。
前回の負債を清算した超巨大Mパックは、改めてオヤイアット星系を光速で移動し、第三惑星を眼前に捉えていた。
ホログラムに浮かぶ、青い星を見てインストがつぶやく。
「……何度見ても恐ろしい星ね」
「ボアさん。光速の一万分の一くらいの速度で目的地まで移動してもらえますか?」
シュリアンの言葉にボアが返す。
「了解」
ホログラムには徐々に青い惑星が大きくなり、目的地に近付く様子が浮かぶ。それを見ていた操縦士から声が上がる。
「シュリアン、俺たちを緊張させようって魂胆か?」
「いや、なんだか……ぐるっと一周回って綺麗だなって思いません?」
間髪入れずにインストが返す。
「恐ろしい以外の何があるのよ? こんなブルー」
「青い星自体、宇宙ではとても稀だけれど、こんな色の星は僕が知る限りひとつもないよ。とてもユニークだよね」
「その理由が問題なのよ。このブルーは浮遊酸素が作り出しているブルー。電子を力ずくで奪い取っていくブルー。やっぱり私には、恐ろしい以外の何物でもないわよ」
呆れるようにインストがつぶやいた。
ホログラムは徐々に第三惑星へと近付いていく。塩化ナトリウム水溶液の広がりを遮るような長細い地面、その先に浮かぶひし形の地面にある宇宙港のような円形の設備が姿を現した。
「シュリアン、それでは予定通り、ドームの開口部から宇宙港らしき設備に入る」
ボアからの報告に全員緊張を高める。
ドーム内部に侵入した超巨大Mパックは、鏡のように静かな純水の中央部、水面三十センチのところに停止した。
「第二核のはずれにあるペキー星の水銀湖みたいでキレイだ……」
シュリアンが思わずつぶやいた。
「Mパック固定完了。これより上部収納面を開放状態にする。三十秒後にストレージ内の全方位重力ロックを解除する」
ボアの声の直後にシュリアンが声を上げる。
「プロキシフォレジャーは出箱の準備を。予定通りに調査を開始してください。ボアさんはMパック上部に、準備したホログラムを投影。ご安全に」
シュリアンの言葉を合図にして、プロキシフォレジャーが次々に出箱する。超巨大Mパックの上部には、マージ時の第三惑星のシミュレーションホログラムが大きく映し出される。それが終わると、同じサイズに調整されたシュリアンとウハメが浮かび、アンドロメダ憲章を読み上げる。それと同時に宇宙標準言語のテキストでもアンドロメダ憲章が表示される。続いてウハメからシュリアンにテキストが送られる。それを受けて、満腹を示すようにシュリアンの色が変わる。そのお礼にシュリアンはウハメに振動を送る。ウハメは揺れて満腹を示すようにその場に倒れる。
「なんか、やっぱり少し恥ずかしいや」
シュリアンが小さくつぶやくと、インストは少しだけ笑った。
Mパックから出箱したプロキシフォレジャーは、それぞれに与えられた場所で、それぞれに与えられた調査を開始した。十分後にはリアルタイムで膨大なデータが送られ始める。事務局専門員たちは、データの解析に入る。
一時間後、超巨大Mパックの脇に出箱された、収納用のストレージボックスに一機目のプロキシフォレジャーは入箱し、次のプロキシフォレジャーが超巨大Mパックから出箱する。調査開始から二時間半が経過したときに、メッセージホログラムを投影しているボアがシュリアンに報告をした。
「シュリアン、なんだかわからないが、何かが近づいてくる。このまま待機で良いのか指示をくれ」
シュリアンたちがホログラムに目をやると、二本脚の不安定な生命体が、純水に浮かぶ乗り物に乗ってゆっくりとMパックに近寄ってきていた。シュリアンたちは色めきだった。
「もしかして、メッセージが届いたのかな?」
シュリアンのポジティブな言葉にも、他の専門員は緊張を隠せずにホログラムを見守った。




