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ダブルスタンダード  作者: 平瀬川神木
第五章 切り取られた宇宙

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第二十二話

「はい、シュリアンです。メウジクミ、どうしたんだい?」

 メウジクミの端末の上には、小さなシュリアンのホログラムが映っている。

「やあ、シュリアン。これから訪れるリスクを回避したいと考えるんだ。考えてほしいことを伝えておくよ」

「うん、なんだい?」

「常駐の技術者だけでは足りない可能性が出てくる。つまりね、戻ってくるプロキシフォレジャーの状態が悪くて、すぐには治せない機体が、どのくらいの割合で出てくるのか、今のところ誰にも予想できていない状態だ。少なくとも、前回は一機が置いてきぼりになるくらいの重大な損傷を被った。だからね、シュリアン。重大な損傷を受けた機体を、集中的に専門的に整備する技術者を、何人か用意していてほしいんだ。戻ってきたプロキシフォレジャーの半数を送り出せるレベルまで整備しなくてはならないタイムスケジュール。常勤技術者はそっちに手いっぱいになる。だから重大な損傷に対して、時間をかけてゆっくり整備ができる技術者を、前もって揃えてほしい」

「なるほどですね。わかりました。でもメンバー選出はインストがやった方が良い結果を導けるから、インストにお願いしてもいいかな?」

「ああ、それは構わないよ」

 視線を上げると、インストと目が合ったシュリアン。インストはシュリアンの会話を聞いており、了解の意思表示をシュリアンに示して、すでに端末で技術者の招集を開始していた。

「了解したよ、メウジクミ。インストが手配に入ってくれている。すぐに人員の手配は完了するよ」

「ああ、シュリアン、ありがとう」

 シュリアンのデスクから、メウジクミのホログラムが消える。

「メウジクミは心配しすぎなのよね。いつも最悪を前提にしていないと、気が済まないみたい」

「でも言っていることは確かにその通りだよね。それにしたって、派生体はすごく似る場合と、正反対になる場合が多いけれど、メウジクミとインストは本当に正反対だよね」

「そうね、私はミティの行動は予想できるし理解もできるけれど、メウジクミの行動は全く理解してあげられない。間違えてはいないけれど、リスク回避のリスクを考えるだなんて。ともすると無駄なリソース使用を生むことになるわね」

「でもだからこそ、その提案はとても価値が高いんじゃないのかな? 自分では思いつかない思考というのは、本当に価値が高いものだよ。行動決定は総合的なバランスを考えればいいからね」

 三人派生体のシュリアンは、七人派生体のインストを羨ましく思っていた。

「シュリアンの派生体は元気にしているの?」

「うん、元気にしているよ。僕とは正反対で、自分一人でこもって研究をするのが大好きな科学者だよ。僕と話すのですら面倒そうな感情を隠すこともしないんだ」

「親が持っていた知識を一つにマージして、分割して子に分け与えるわけだけど、ブロックで分ける場合と、単体で分ける場合の違いは、今の科学では解明されていないもんね。領域分散型と要素分散型の違いがなぜ起こるのかって事実は。生命の神秘だよね」

「ドメイン型の場合は正反対になりやすいわよね。私とメウジクミやシュリアンとノナックのように。ファブリック型の場合は似る場合が多い。私とミティのように」

「不思議だよなぁ……」

 シュリアンはポジティブなホワイトノイズを吐き出した。


**

今回の調査で使われるのは、とにかく大きなMパックなので、事務局に近づくことはできない。だが宙域上でプロキシフォレジャーの入箱や出箱をおこなうには、ジャミ星周辺の星域では隕石などが多いため、超巨大Mパックが損傷してしまうため現実的ではなかった。

ジャミ星はヘリウムガスで覆われているため、小さな隕石などは弾き飛ばされて衝突することは無い。結果として、操縦士がいるジャミ星首都と、プロキシフォレジャーの整備工場がある地方都市、それに広大な平地が広がるMパックの着陸可能地点の三角関係で入箱や出箱をおこなうことになっていた。

 アンドロメダや多くの銀河において、知的生命体の移動自体は光速移動できるカプセルがあるので、星系範囲内での実際の距離はあまり関係ないのだが、現在においては自分自身が移動するという価値観が、ずいぶん希薄になっている。あらゆることが遠隔で可能な現代ゆえに、移動するという行動自体が理にかなっていないという価値観が多くを占めていた。


そうはいっても、プロキシフォレジャーの操縦には、専門の機材が必要であり、これをそれぞれの操縦士の自宅に設置するのは幾分無理がある。事務局の操縦士フロアに集まった操縦士たちは、それぞれのコックピットと整備工場のプロキシフォレジャーとの接続作業をおこなっていた。今回は一人の操縦士が一機をマニュアル操作し、酸化防止の観点から一時間ごとに機体を変える。プロキシフォレジャーのコックピットは、十機まで同時操作が可能であり、プロキシフォレジャー一機に八つのカプセルマガジンが装着可能であった。つまり一つのコックピットには八十のマガジンスロットが装備されている。

操縦士は自分のコックピットに、十機分のカプセルマガジンを一つずつ装填し、それぞれのシリアル番号を整備工場に送った。


整備工場ではそれぞれの機体に、送られてきたシリアル番号に沿ったカプセルマガジンを装着。一機ずつが目覚めたように動き出し、超巨大Mパックへの入箱を開始した。


 概ね予定通りの一時間弱で、八百機のプロキシフォレジャーが入箱された。

「それでは皆さん、準備は整ったでしょうか?」

 シュリアンが声をかけると、八班すべてから完了の報告が上がる。

「ボアさん、プロキシフォレジャーの準備は整いました。巨大Mパックの準備ができ次第、調査を開始します」

 操縦士フロアの大型ホログラムにボアの姿が浮かぶ。

「シュリアン、こちらも準備はできている。初めての超巨大Mパックだ。正直何が起こるかわからない。操縦士諸君も気を抜かないで待機していてほしい」

 ボアの姿がホログラムから消えると、音もなく浮かび上がる超大型のMパックのホログラムが浮かぶ。

「では、ご安全に」

 シュリアンの声と共に、Mパックは光速に達してホログラムから姿を消した。


誰よりも緊張して超巨大Mパックを見つめていたのは、インストとキッテだった。移動テストはクリアしていたが、プロキシフォレジャーを積んでの初めての移動。二人は何も語らずに移動の様子を見守っていた。


 光速で六時間の移動後、アンドロメダ第一核の首都、ジャミ星系ヌル境界まで進んだ超巨大Mパック。

ボアがホログラムに浮かんだ。

「シュリアン、そしておそらく心配していたインストさんとキッテさん。さすがだよ。振動などもなく、いつもと何も変わらないドライブでヌル境界まで到着した。これよりゼロスキップで不運な銀河に入る。さて、いよいよゼロスキップだ。アルト線をコントロールできたから光速でここまでは来られた。この超巨大Mパックは存在していないとハニカムドーナツを騙せるか? 騙せなければ、不運な銀河まで二十五万年かかっちまう。別宇宙に弾き飛ばされる可能性もないわけじゃない。正直俺も緊張しているが、上手くいくことを祈っている」

 全員が緊張に包まれる中、Mパックからのホログラムは見慣れたアンドロメダ銀河の映像から、不運な銀河の映像に切り替わった。全員から安堵の感情が漏れた。

「シュリアン、そして諸君。ゼロスキップも問題なく完了だ。さすがの工業力だな。我がアンドロメダ銀河のそれには、自画自賛したくなるよ」

 ボアは安心した感情を提示した。


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