第二十話
会議終了後、さっそくメッセージホログラムの作成に取り掛かった、事務局専門員たち。まず初めに、すでにシミュレートは完了している、アンドロメダ銀河と不運な銀河がマージするホログラムをどの程度の速度で、どの程度の範囲で編集するかについて話し合っていた。
「とにかく今回は、相手と言語的コミュニケーションが取れていない事実があります。だとすれば、両銀河の外縁部が重なり合って、異常な潮汐力で形状がゆがみ始める『ファーストパス』から星々の軌道が落ち着く『リラクゼーション』までの五十億年分のシミュレート画像、全体を捉えた画角を五分くらいの長さで提示するのが良いのではないか? と思うのだけれど」
シュリアンの言葉に通信監理員のリントが意見を返す。
「待って、シュリアン。自分の感覚では、全体を捉える画角では詳細が伝えられない、何となくのイメージホログラムになってしまう気がするのです。これまでのように、銀河系全体に多くの知的生命体がいるのであれば、それもまた良いのだけれど、今回はオヤイアット系第三惑星にしか生命体を確認できていない。その生命体にどこまでの知性があるのかもわかっていない。だとすればね、この第三惑星にクローズアップしたほうが良いのではないか? 情報として考えたときに、その方が有効だと思う」
この意見を聞いた星系調整員のキコブが発言する。
「リントさんの言い分も理解できるが、我々のシミュレーションでは、今回のマージでこの第三惑星が物理的に直接影響を受けることはない。だとすると、あの青い星がずっと映っているだけのホログラムになってしまうのでは?」
何度かうなずくリントを見て、生命技術員のプレヴァが意見を述べる。
「いくら知的レベルが低かったとしても、自分たちが住む星が属する星系のことくらいは理解しているわよね? だとすれば画角は『オヤイアット系』の画角にするのはどうかしら?」
シュリアンが言う。
「オヤイアット系よりもう少し引いた画角だとどうだろう?」
銀河調整員のウハメが答える。
「オヤイアット星系より引いた画角にしたとしても、結局のところファーストパスポイントや、その後のスイングバイ最接近の前半は、何の動きもない状態になりますよね? スイングバイ後半期からコアの合体あたりで、やっとオヤイアット系にも影響が出る感じで」
工部技術員のインストが意見を出す。
「それはちょっと違うわね。辺境の星系だからこそともいえるんだけれど、タイミング的にファーストパスでは接触と反対側にいるから何も起こらないのだけれど、そこから七億年後のスイングバイ最接近のときに、このオヤイアット系は接触側にいることになる。つまりこのタイミングで、周辺宙域でガス雲同士が接触して、スターバーストがたくさん起こる。結果、オヤイアット系の周囲に星がたくさん生まれる。重力変動も激しく起こるってことで、この第三惑星にも大きな影響が生まれる。このタイミングのホログラムだとしたら、第三惑星のクローズアップでも影響が見て取れると思うわ?」
インストは端末を操作して、第三惑星のクローズアップのホログラムを映し出し、ファーストパスから七億年経過状態からの十七億年経過までの、十億年分の動きを一分で投影した。そこには不安定宙域となった第三惑星の周辺にガス雲が充満し、スターバーストを起こし爆発があちこちで起こり、それらの破片が第三惑星に落ちて、たくさんの火柱が上がる様子が投影されていた。
「星が割れるわけでもない、インパクトが弱いホログラムだから、これが彼らにとって、我々と対話を始めようと考えるきっかけになるかどうかについては私にはわからないけれど。第三惑星やオヤイアット星系自体は、このくらいしか変化は起きないのよね。重力変化などは当然起こるし、第三惑星の、この小さな衛星は砕けてしまうけれど。どちらかといえば、マージの完了後にオヤイアット恒星がレッドジャイアントに進化し始めて。この第三惑星ごと飲み込む方が問題なのよね。説明が大変になるから出さなくていいと思うけれど」
「インストさんの言うように、恒星のレッドジャイアント化について、今回は触れない方が良いと私も思います。目的が違うので。まあ、マージで衛星が砕けたところで、誰も驚きはしないだろうけれど」
インストの言葉にリントが返した。
「じゃあ、今インストが作ってくれたホログラムを提示して、その後で僕とウハメさんが宇宙標準言語で憲章を伝える。言語で伝わらなかったことも考えて、僕とウハメさんがピクトグラムのように振る舞って『形』でも伝える。こんな感じで良いかな?」
ウハメがシュリアンに視線を向ける。
「シュリアン。反対というわけではないが、我々アンドロメダ銀河内だけでも、種族のデザインは様々だ。第三惑星にいた種族もサイズやデザイン、どれをとっても様々だ。『平等であること』『協力し合うこと』『奪わないこと』をどのように表すつもりだ? 文化も違うだろう。私には我々アンドロメダ銀河で使われているピクトグラムのイメージしか思い浮かばないが、それを第三惑星の生命体が理解できるのだろうか……言語と大差ないように感じてしまうよ」
「理解できないかもしれないけれど、理解できるかもしれない。ウハメさんが僕たち種族の糧である情報データを流し、僕がウハメさんたち種族の糧である振動を送る。そして僕たちは離れていく。これで伝わりませんかね? 平等であり、協力し合い、奪わないという僕たちの憲章が」
「もちろん私には伝わるし、これで伝わらないわけはないだろうと考えてしまうけれど……気になっている点はね、不運な銀河に残されていた、絶滅した種族が残したメッセージにあった『もはや集団としての保持よりも、個の保持を優先させる有様となり、我々の仲間は消えてなくなった』という言葉だ。もし第三惑星の生命体が、知的生命体であっても、個の保持を優先させているとしたら、私たちの憲章の土台価値観が違い過ぎてしまって……だって、そもそも浮遊酸素が二十一パーセントも浮かぶ星で暮らしているんだぞ? 寿命を百年以下まで縮めるために」
シュリアンはうなずいて笑みを表した。
「僕だって心配は山ほどですけれど、やってみましょう。その後、いろいろ考えればいい」
全員はシュリアンのポジティブな思考に対して、笑みを浮かべてうなずいた。




