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ダブルスタンダード  作者: 平瀬川神木
第五章 切り取られた宇宙

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第十九話

「いやぁ……実物を見ると……なんと表現したらよいのか……わからないや」

 ジャミ星にあるオムニノード事務局から二千キロ以上離れた場所にある、生命体が住んでいない広大な平地。シュリアンたちジャミ星人にとっては、あまりにも大きいMパックが目の前に佇んでいる。ヌルフィールド被膜を纏ったこの巨大な箱は、光も重力も、とにかく全てのエネルギーを吸収するようなマットブラック。

「切り取られた宇宙って感じね」

 あまりにも的を射ているインストの言葉を聞いて、シュリアンは驚いた。

「ああ、インスト。そうだね。そうだよ。まさに切り取られた宇宙だ。高さも幅も長さも、僕たちのサイズでは、端っこを見ることができない大きさで切り取られた宇宙。でもこれがただの箱だなんて……」

「もしシュリアンが、自力移動で箱の向こうまで行こうとすると、短いほうで休まず寝ずに移動して四日弱。長いほうだと八日間かかるサイズ……箱とか言われてもね」

 インストは笑い出した。シュリアンもつられて笑い出した。

「でもインスト、よく作ってくれたよ。ありがとうね。さすがだよ」

「そうね、我ながらよくやったと思う。でもアイディアを出したのはキッテさんだからね。実際にやったのはジャミ星人の技術者たちと、オーン星人の技術者たち。宇宙は広いなって思う。たくさんの知恵と思考が渦巻いて、クリアできない問題はないんじゃないかって、今回は思ったわね」

 インストは嬉しそうに言った。シュリアンも嬉しそうに言う。

「そうだね。小さな僕たちだからできること。小さな僕たちではできないこと。大きなオーン星人だからできること。大きなオーン星人ではできないこと。僕たちは今回、他銀河にも先駆けて人工ダイヤモンド板の溶接技術を実現させた。やっぱり不運な銀河でたった一つだけ、生命体が見つかっているあの星の人とも、協力し合って、一緒に進んでいけるようにしたいね」

 シュリアンは希望を込めて言った。


**

「それではもう一度、皆様のご意見も踏まえたうえでの最終手順の確認をさせていただきます」

 第六回の不運な銀河ミルコメダ準備会議の会場。今日の会議には外銀河であるトライアングル銀河とボーデの銀河からゲストがホログラムで参加していた。宇宙全体を見渡しても、どの銀河も成功していなかった『人工ダイヤモンド板の溶接技術』の確立は大きな話題を呼んでおり、その説明を聞くためのゲスト参加だった。シュリアンは各種族から提案される様々なアイディアをまとめ、今回で最後とする、不運な銀河の辺境、オヤイアット系第三惑星への調査の最終手順の確認に入った。

「ゲストもいらしています。キッテさん。まずは人工ダイヤモンドの溶接技術についてご説明を願います」

 キッテのホログラムが中央のメインブースに大きく浮かんだ。

「どうも。オーン星のMパック製造工場のキッテです。今回開発した人工ダイヤモンドの溶接技術につきましては、詳しいマニュアルやデータは皆様に配布している通りです。簡単に言えば、小さなジャミ星人がダイヤモンド板の端部の粒子の向きや並びを調整する。我々オーン人では見ることができない小さなものです。粒子がそろった段階でダイヤモンド板の隙間に、メタンガスと水素ガスを充填させて、プラズマを吹きかけると継ぎ目のない溶接が完了するといった流れです。正確にいえば溶接ではありません。母材を溶かしませんので。ですが蝋付けとも違います。完全に同一化しますので」

「キッテさん、ありがとうございます。この技術で作られたのが、現在ジャミ星の無生命体地区の広大な場所に置いてある、超巨大Mパックでございます。運転を担当する、エポンラインのボアドライバーからもお願いします」

 今度は中央のメインブースにボアのホログラムが投影される。

「はい。ボアです。ドライバーをしています。今回は、この想像もできないようなサイズのMパックのドライブを任されましたが、実際にはあまり普段と変わらないと認識しています。重力コントロールのヌルフィールド技術を使っての移動となりますので、本体の質量や重量は物理工学的に影響がないといえます。私としてはこれらの問題よりも、このMパックより大きいと予想されている、第三惑星の生命体の反応が気になります。マージとは相手あってのこと、こちらの都合で『どうこう』なるわけでもありませんので」

「ボアさん、ありがとうございます。今回の最終調査をおこなう際に、前回皆様からも反対の意見が多数上がった、置き去りにしたMパック八箱の回収と、予定外に現地置き去りとなったプロキシフォレジャー一機の回収を前段階でおこなう予定であります。今回は、ご紹介しました超大型のMパックの他、新しい試みとしまして酸化した物体を回収するためのストレージを準備しました。これは、内壁に常温酸化触媒をコーティングし、内部に一酸化炭素(CO)を充填させた隔離収納箱となります。酸化した物質を収納した際に、洗浄しきれなかった浮遊酸素(O2)が残っていたとしても、このストレージに収納することにより、化学反応を利用して二酸化炭素(CO2)に変化させて安定させる。これにより、Mパック内の十一次元展開されたストレージを壊してしまい、ゼロスキップ航法ができなくなるという心配をせずに、前回調査で置き去りにしたMパックやプロキシフォレジャーを回収する計画でございます」

 議場ではどよめきの後で、参加者の多くから同意を示すスイッチが多数押された。シュリアンは続ける。

「ご賛同の意思表明ありがとうございます。前回調査の問題点修正手順を提示させていただいた後は、今回の最終調査の手順提示に入ります。この第三惑星には、どうやら外部宇宙との接点を持つための港のようなものが存在するようでございまして、今回はこの港にMパックを到着させて生命体にアプローチをおこなう予定でございます。理論上ホログラムはそのベースとなる物質の一万倍程度まで拡大投影が可能でございます。ただし今回の第三惑星におきましては、水(H2O)と高温環境が影響しあい、水蒸気が大量に浮遊している環境です。このため電磁波屈折率などを考えると百倍程度が上限ではないかというのが、工部技術員インストさんの予想でございます。しかしながら、ただでさえ超巨大な今回のMパック。百倍だったとしましても、高さで二メートル、最大幅で十七メートルのホログラム投影が可能となっています。もし二本脚の不安定生命体が知的生命体であったとしても、自身サイズの十倍以上のホログラムには気が付いてもらえると予想しています。従いまして、これでアプローチは実行できると考えている訳でございます」

「うんうんうん。シュリアン、素晴らしい手順だとは思うのだけれど、どのようなメッセージを映し出すつもりなのかしら? うんうんうん」

「それにつきましては、過日の調査で把握したこの星の様々な生命体のサイズは、我々アンドロメダ銀河の種族間のサイズ比率よりも大きな幅となっております。つまるところ多様な生命体が共存しています。ですので、第三惑星の知的生命体であれば、種族の外見の違いはさほど気にする必要がないのではないか? そう感じております。私としましては、これからのマージのシミュレーションホログラムと、第二核、オーン星出身である銀河調整員のウハメさんに、我々アンドロメダ銀河憲章を読んでもらうのが良いのではないか? そう考えておりますが、皆様のご意見はいかがでしょうか?」

「シュリアン、私は理解しています。ハイ。ですがそうであればですね、ハイ、事務員であるシュリアンと並んでメッセージを伝えるほうがですね、ハイ、多数の種族が仲良く暮らしていることをアピールできる気がするのですが、ハイ」

 この発言に対して、多くの参加者が同意ボタンを押した。シュリアンは少し困った様子を提示したあとで言った。

「わかりました。それではウハメさんと私が並んでメッセージを伝えるホログラムを作成する形でよろしいでしょうか?」

 全会一致で、メッセージのホログラムは決定した。細かい手順に関しても、全会一致で今回の最終調査の手順は決定され、第六回不運な銀河ミルコメダ準備会議は閉幕した。


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