第十六話
しっかり眠ったシュリアンが約束の時間に事務局に着くと、ジャミ星の専門員はすでにみんな到着しており、第二核首都オーン星の専門員もホログラムで集まっていた。
「みんな早いね。それではアセスメントを始めます。まずは制限を設けないブレインストーミングで、それぞれが考えていることを自由に提示していきたいと思います。皆さん批判はなしで、自由に意見を出し合いましょう」
こうして二時間にわたり、シュリアンたちが知る宇宙全体の常識を覆すような、不運な銀河の辺境、オヤイアット系第三惑星で触れた現実について様々な意見が提示された。
「ではここまでに出た意見をマッピングした結果、我々の今後の行動の起点となる意見をまとめてみますね。第一に、一つの星にあまりにも違いがあるサイズの生命体が共存している。現在わかっている生命体だけで、その比率は二十万倍以上である事実。第二に安定した二酸化炭素などの気体を、不安定で凶悪な浮遊酸素に変換している存在がある事実。第三に現状、多種の生命体の存在は把握できたが、コミュニケーションが取れるレベルの知的生命体の存在は確認できなかった事実。この三つを基に、この星への調査計画を立てることでよろしいでしょうか?」
参加者たちは同意の意思表示をした。
「ありがとうございます。サイズということを考えたときに、対象がMパックを視認できないと話が進まないと考えます。生命技術員のプレヴァさん。一般論として生命体が道具などを使わずに、そのままで把握できるサイズは、自身のサイズ比で何パーセントと仮定するのが良いでしょうか?」
「……種族によって違うけれど、確実なのは等倍。つまり百パーセント。こちらの都合を考えても十パーセントより小さくするのは賛成できないかな」
「それでは工部技術員のインストさん。今回我々が確認した最も大きな、あの二本脚の生命体を対象と考えたときに、概ね1.7メートルの十パーセントである17センチメートルのMパックの製造は可能でしょうか?」
インストは驚きを表明する。
「無茶言わないでよ。幅が二十万倍のMパックなんて、考えたこともないわ?」
「では無理ということでよろしいですか?」
「待って、無理とは言っていない。でもスケールが大きすぎて、いま答えを出すことはできないし、答えるにしても時間が必要なことは確かよ」
「どのくらいの時間が必要ですか?」
「可能性の検討で一週間ちょうだい。可能だった場合の製造期間は今のところ答えようがない。方法が不明なわけだから」
「わかりました。インストさんはこの課題に集中してください。次は浮遊酸素に対する、対酸化問題ですが、これは他銀河技術でも対策不可能という結論は出ています。そこで酸化物質を隔離できる十一次元ストレージの開発を提案します。つまり酸化を避けることは無理なので、酸化してしまった物質を、この酸化物質収納ストレージに収納し、それをMパックに入れて回収する。その後。ジャミ星かオーン星で、酸化の修復作業をおこなう。この発想であれば、置き去りにすることを避けられると思うのですが、実現性はいかがでしょうか?」
銀河調整員のウハメが何かに気が付いた感情を表す。
「もしかしてシュリアン。あなた前回『置き去り』にした八つのMパックや第三惑星に残したプロキシフォレジャーを救出しようと考えている?」
シュリアンはゆっくりと是認を表す。
「夢を見たんです。大きな磁気嵐が小さな磁気嵐を飲み込んで、別の場所で飲み込んだ小さな磁気嵐を吐き出す夢を。こんな感じで置き去りは防げるのではないか? そんな希望を持ったんです」
次の瞬間、アセスメントの場は明るいポジティブな空気に満たされた。すると星系調整員のキコブが言った。
「どのみち十一次元ストレージは、完全なる密封状態が保たれています。ですがそこに酸化した物質を収納することにより、酸化要因である浮遊酸素の残りがストレージ内にも混入し、ストレージ内を不安定領域にすることが問題でした。アンドロメダ銀河内には、カーボンスター、つまり一酸化炭素が百パーセントに近い比率で充満している星がいくつもあります。十一次元ストレージの内壁を常温酸化触媒でコーティングし、内部を一酸化炭素(CO)で満たすことにより、浮遊酸素が混入しても化学反応により、二酸化炭素(CO2)にして安定させるというアイディアはどうですか?」
シュリアンは嬉しそうに言った。
「インストさん。技術的に問題はあるかな?」
インストもポジティブな感情で答える。
「いえ、そんな簡単なこと、なんで気が付かなかったのかしら。私のイメージでは、アルゴンガスでストレージを満たし、浮遊酸素を追い出すことを考えていたけれど、それでは追い出された浮遊酸素の問題はクリアできない。排除の概念は、アンドロメダ銀河の価値観らしくもない。でも一酸化炭素であれば、豊富に存在しているし、何よりCO2という安定気体に変換できる。すばらしいアイディアだわ」
「でもインストさん、それにシュリアン。だったらMパックに一酸化炭素を充満しておけば解決するのでは?」
生命技術員のプレヴァの疑問に答えたのはインスト。
「プレヴァさん。普通サイズのMパックであればそれも考えるけれど、今回は超大型のMパック。一酸化炭素が浮遊酸素と結合して二酸化炭素に化学反応を起こす時、熱を発する。これが巨大Mパックの平面を歪ませる可能性を否定できない。もう一点は、ホログラム投影への影響。ホログラムはアルト線を利用しているから、巨大Mパック内部に一酸化炭素を充満しておくと、アルト線が気体分子に干渉してホログラムを散乱させる。つまりノイズが強く入ったり、焦点ボケを起こしたりしてしまう。これは避けたいというのが工部技術員の私の意見」
「よし、決まりだ。超大型のMパックを作ること。そして収納専用の一酸化炭素で充満されたストレージを作ること。これが実現できれば、知的生命体を探すことが可能になると思うのですが、いかがでしょうか?」
会議参加者全員が、同意の意思を表示した。




