第十五話
第三惑星のヌル境界付近に、E班のMパックと九十九機のプロキシフォレジャーが集結していた。生命体のコロニーに飲み込まれた機体は、何度も洗浄された。だが、Mパック内に展開されている十一次元空間や他のプロキシフォレジャーに無害と断言できる状態までは戻らなかった。
エポンラインのE班を担当しているダイルが伝える。
「ではみんな。往路用のMパックから復路用のMパックを出箱する。復路用の新しく出すMパックに入箱できるのは、洗浄作業が終わっているプロキシフォレジャーだけだ。再度確認して入箱を開始してくれ」
ダイルの言葉が終わると、すぐにマットブラックの長方体が二つ並んだ。
それぞれの操縦士が、洗浄作業結果を確認したうえで、新しく出てきたMパックに入箱を開始する。
「シュリアン。アスタだ。本当にプロキシフォレジャーの一機を、その……置き去りにするのか?」
「バラミです。シュリアン、自分が操縦していたプロキシフォレジャーを、置き去りにできません。何か方法はないでしょうか?」
「お二人の気持ちはよくわかります。でも今回は、全八班でのMパックの置いてきぼりは初めから決定していた。我々は八箱のMパックより、まだ見ぬ不運な銀河の生命体の安全と、より多くのプロキシフォレジャーとMパックの帰還を選んだわけです。こう考えてはどうでしょう? どのみちこの星には、いろいろと準備をして、もう一度来る必要があります。その時まで残って調査を続け、再度の調査のときに回収できるように手順を考える」
「なるほど。それはありがたいです。次回の調査で、どうにか回収できるようにお願いします」
シュリアンはホログラム通信を終えてから、ホワイトノイズを吐き出して言った。
「……簡単なことではないよな」
それを見ていたインストが言った。
「みんなで知恵を出し合いましょう。道は必ずある」
「そうだね。今までも道は必ずあったもんね」
インストは優しく同意した。
E班以外はすでにそれぞれの調査を終えて、不運な銀河内のそれぞれの星系のヌル境界付近で待機していた。それぞれの星で待機していたMパックを残して。
結果としてE班以外の七つの星系では、知的生命体どころか生命と出会うことはなかった。E班が調査をした、オヤイアット系第三惑星だけが、突出した異常さを示していた。
「では皆さん。これにて第二回不運な銀河生命体確認調査を終了します。調査の犠牲になる八箱のMパックと、予想外の災難に見舞われて、今回の回収ができなくなったプロキシフォレジャー一機に感謝の念を送りましょう」
エポンラインのドライバーたちと、プロキシフォレジャー操縦士、そしてシュリアンたち事務局の専門員たちも感謝の祈りを捧げた。
「それでは皆さん。ゼロスキップから六時間のアンドロメダ銀河内の光速移動。ジャミ星帰還後はすぐにプロキシフォレジャーの出箱と再度の洗浄、そして修理などに入ります。ご安全に」
それぞれは自分の手順に向けて、準備を始めた。
「さて、僕たちも集めたデータの解析や、今後の方針を話し合わなければならないけれど、このまま始めるか、一度休むか、どっちがいいかな?」
シュリアンの言葉にいち早く反応したのはインスト。
「シュリアン。有酸素星の調査が始まってから二週間近く、私たち専門員は休みなく解析を進めてきた。さすがに疲れもたまっているから、一度戻って記憶の整理などを終わらせてからにしましょうよ。なにより、リフレッシュポッドでスピンアライメントの磁場シャワーを浴びさせてちょうだい」
あまりの真剣な要求に、シュリアンたちは全員で笑ってしまった。
「そうだね。みんなご苦労様でした。三十六時間後。明後日の八時から、データの評価と今後の方針についての話し合いを開始しましょう」
当然のように全員から同意の意思が表明された。
家に戻ったシュリアンは、スピンアライメント磁場シャワーを浴びずにベッドに入った。ホワイトノイズをきれいに流してしまえば、思考が冴えてこれからのことを考え出してしまうのは自明だった。だからノイズだらけのまま、先にベッドに転がり込んだ。
さすがに二週間近く、睡眠によって凄まじい量と内容の記憶を整理していなかったせいで、ベッドに体を預けた瞬間に夢が始まった。シュリアンは寝つきが良い方だが、それでも二十分くらいはベッド上で考え事をする時間はある。しかし今夜はすぐに夢が始まった。
様々な記憶が連結されて、分解されて、事実とは違う形に編集されて効率よく記憶される。シュリアンは、大きな磁気嵐が小さな磁気嵐を飲み込んで、さらに巨大な磁気嵐がそれを飲み込んで、違う場所でその巨大磁気嵐から小さな磁気嵐が飛び出す夢を見ていた。




