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ダブルスタンダード  作者: 平瀬川神木
第三章 猛毒に満ちた青い星

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第十三話

 それぞれが操縦するプロキシフォレジャーは、それぞれ割り当てられた特殊調査を開始した。垂直深度調査の班からは、上層部の巨大な装甲板めいた有機鎖を越えた先に、混沌とした有機物の塊が存在しているとの報告が入った。 個体も様々であり、これが死骸だとすると、多種多様な死骸が積み重なっていると考えられる状況だった。


 連続性と熱エネルギーを調査している班も同様に、理解の混迷を深めている。死骸だと仮定した有機鎖の塊の奥深くに、熱を発し、液体を吸い上げているような巨大なパイプ状のブロックを発見した。

「シュリアン。これは死骸ではなく今も活動をしている生命体では?」

「いやいやいや……」

 シュリアンは言葉を失う。直後、上空からの調査をしているアスタが発する。

「これはいったい……」

 これまで第三惑星の全景と、地表の画像だけを見ていたアンドロメダ銀河人は、初めてその中間の景色を目にした。一秒ごとに、一メートルずつ上昇していく、一コマ千カプセルの高解像度画像には、もはや理解できない景色が映っていた。

 その景色に意識を奪われた瞬間、垂直深度調査の班の一人から声が上がる。

「シュリアン! バラミです! なんだこれ? 何かに包まれた! 基本調査実行!……なんだこれ?」

 シュリアンはプロキシフォレジャーからの分析通知に目を向ける。

【糖たんぱく質:炭酸カルシウム(CaCO3):加水分解酵素(プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ):多数の生命体】


「シュリアン! 何が起こっている? 指示をください。カメラ画像の周波数を変えても、何かに包まれていること以外、何も見えない状態です!」

「バラミさん、落ち着いて! インスト! 意見をください!」

 シュリアンの慌てた声に、インストが冷静に答える。

「シュリアンこそ落ち着いて。これはどう見ても、生命技術員のプレヴァさんの領域よ? プレヴァさん」

「……生命体のコロニーの可能性がある。強引な離脱はコロニーを壊す可能性があるけれど、のんびりしていたらプロキシフォレジャーが問題を抱える。ヌルフィールド被膜の反応を見ながら、変化がある方向を見つけられない?」

「二方向。値は少し違いますが」

「変化が一番強い方向にゆっくり移動。コロニーを傷つけないように慎重に」

 バラミは慎重に、しかし急いでパイプ状の空間を、出入口らしい反応値を示す方向 に進む。

「……出ました。出られた。一度地上に戻ります」

「シュリアン。熱エネルギー班だ。これ、調査対象レベルを変えたら、周囲が生命体だらけだぞ!」

「何がなんだか……全機一度Mパック周辺に集合。ただしまだ入箱は禁止です。プロキシフォレジャーの状況確認を相互で実行。それ以降はひとまず行動休止です」

 次から次へと起こる現象に、シュリアンの思考分析が追い付かなくなっていた。仕切り直しが必要だと、わずかに残った冷静さが提案していた。

 

 シュリアンが思考モードに入っている様子を見たインストが声を出す。

「優先順位を考えて行動を進めるわよ? 生命体コロニーらしきものに包まれたプロキシフォレジャーの洗浄から。まず自身のヌルフィールド高周波剥離で、表面の付着物を剥離。その間にMパックから洗浄システムを出箱させて、分子間力遮断洗浄液ミストを吹きかけて、再度高周波剥離。仕上げに磁場整列スピンアライメントパージで磁気力も使っての洗浄。他のプロキシフォレジャーも全機順番で洗浄を進めてちょうだい」

 落ち着いたインストの指示を聞いた操縦士たちは、それぞれに手分けをして洗浄を開始した。

 シュリアンは独り言のように現状の分析をおこなう。

「死骸だという仮説を立てた巨大有機鎖が生きている可能性と、謎の地面にはたくさんの生命体が存在している事実。調査の重大性で考えれば、地表から離れての画像が見たことがない画像だった事実を優先すべき。よし、現場の行動は一つ。たくさんの生命体にアクションを起こそう。ホログラム映像でのコミュニケーションを七機にやってもらおう。二機は先ほどの熱エネルギー調査の続行。もう少しデータをとらなければ、判断のしようがない。アスタさんの一機はもっと広範囲にわたって、地上から一メートルごとに五十メートルまでの画像を六十地点分集めてもらおう。まずは――」

「シュリアン。先ほど生命体のコロニーに巻き込まれたと思われるプロキシフォレジャーなんだけれど、洗浄を二度繰り返しても状況は芳しくないの。最終的な判断はまだだけれど、この一機は持ち帰れないかもしれない。Mパックにはまだ入箱できないから、それは知っておいてね」

「そんなに酷かったのかい?」

「いったい何にまみれたのか、見当もつかないけれど。ヌルフィールド被膜も損害が大きいから」

「せめて、回収はしていきたいね。こんなところに置いていくわけにはいかないよ」

「初めからわかっていたことでしょ? 私のこの星はやめようという意見に異議を出した時点で」

「……そうだね。判断には結果が付いて来るからね」

 シュリアンは自分の判断でプロキシフォレジャーを危険にさらしたと考えて、一瞬暗く沈んだが、気持ちを切り替えて操縦士に指示を告げた。

 すぐに臨時カンファレンスを開始し、参加できるメンバーはアスタが集めた画像について協議に入った。


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