第59話 連鎖〔野田の野帳〕
十一月の半ば、野田は調査室の物品整理を手伝っていた。中川が「古い書類の整理を、できれば手伝ってもらえないか」と言った。書庫の奥の、長年触れられていない引き出しを、開けた。中の書類は変色した茶封筒に入っていた。
「特定類型調査案件」と書かれた封筒が、何通か、あった。野田は中川に確認した。「これは開いて確認してよろしいですか」。中川は「廣澤校閲のご許可が必要です」と答えた。中川が廣澤の席の方に確認しに行った。
中川が席を立っている間、野田は引き出しの中をもう一度見た。封筒の下に、もう一つ薄いファイルが引き出しの底に敷かれていた。表紙には、何も書かれていない。野田はファイルを取り上げ、わずかに開いた。
最初のページに、何かの一覧が年度別に書かれているのが見えた。ほとんどの行が朱書きで上書きされており、下の文字がほぼ判読できない状態になっていた。朱書きの筆跡は野田が知っているものだった。報告書の校閲跡で、何度も見てきた赤い線。同じ粒子が紙の繊維に沈み込んでいる。
判読を試みなかった。試みる気が起きなかった。最終ページにだけ、視線が落ちる。末尾の署名欄に、「廣澤」とだけ書かれていた。下の名前は書かれていない。
ファイルの最初のページの最も古い年度を、野田は見た。見ようとして、見えなかった。朱書きの濃度が最も古い行で最も濃かった。しかし、年代の幅は感じられた。一覧は、一年や十年では、ない。それより、ずっと長い時間にわたって、続いていた。
野田はファイルを引き出しの底に戻した。戻したとき、自分の手の動作がわずかに止まった。止まったことを、確認した。なぜ止まったのかを、確認しなかった。
中川が戻ってきた。「廣澤校閲のご判断は、過去案件のファイルは『閲覧不可』とのことです」。「了解しました」と野田は答えた。野田は引き出しを閉じた。
手帳に書かなかった。書かなくても、覚えていた。覚えていた、というのが、何を覚えているのかは自分でも整理しなかった。その一覧の続きとして、自分の名前が、いずれ、書き加えられる位置がある——という感覚だけが、引き出しを閉じたあとの野田の手元に、残っていた。
仕事を、続けた。




