幕間――謁見の間にて
謁見の間の玉座には、王が座っていた。目の前には黒衣の神官が頭を垂れている。
「エイル王よ、これが新たに賜った恩寵でございます」
黒衣の神官はそう言って、持ってきた布を恭しく広げた。現れたのは一本の杖。教会の祭壇に置かれていたそれは調整を終え、結晶の内側に揺らぎひとつなく、静かに光を湛えている。
王はその杖をを一瞥し、静かに目を逸らした。
「……そなた、また精霊の見える者を捕らえたらしいな」
低く抑えた声だった。 王の言葉に、神官は顔に笑みを貼り付けまま答える。
「王の民を捕らえるなど滅相もございません。これは神の救済。選ばれし者が、神の御業を担うための導きにございます 」
その言葉に王は小さく息を吐いてつぶやく。
「救済、か……」
視線は相変わらず杖には注がれず、ただ床を見ていた。すでに教会の救済を咎める術を王家は持っていない。この報告もただの形式で、王の言葉など何も意味はないのだ。
「……もうよい。下がれ」
「王に神の御加護を。この恩寵で民を導いてみせましょう」
王はそれ以上何も言わなかった。
黒衣の神官は一礼して杖を抱えると、謁見の間を後にする。そして誰もいないことを確認すると、鼻で笑った。
「ふん、お飾りの王め」
精霊と別れてからというもの、エイル王家は確実に力を失っていった。
その隙を縫うように、教会は根を張り、国の中枢へと入り込んだ。
黒衣の神官は手にした杖へ視線を落とす。教会が管理する多くの恩寵――聖具は、年々力を失っていた。
結晶の中の力は回復せず、使われる度に摩耗していく。やがて結晶は砕け、中に押し込められた“モノ”も壊れる。
出力を安定させるための調整作業も進めているが、それでも摩耗したものは元には戻らない。
被検体103のおかげで、いくつかの新たな核を得ることはできたが、完全に精具として調整を終えたのはこの一本だけだ。
「……まだ足りん」
黒衣の神官は小さく呟く。外で控えていた灰衣の神官に、杖を押し付けるように手渡した。
「他の調整を急げ」
「はっ」
短い返答。
「器はいくらでも必要になる」
黒衣の神官は歩きながら続ける。
「次は、もっと適したものを探せ」
場合によっては被検体103を連れ戻さねばならない。杖の結晶は、布の中で沈黙したまま、微かな光だけを宿していた。
遂に教会から飛び出してきた神官さん。




