幕間――王の密命
教会がとある少年を探しているという話はすぐに王の耳へと入った。教会に対して何か出来るわけではなかったが、常に手の者には監視をさせていたからだ。
「……遂に動いたか」
「はい。かなり手を広げて聞き込みを始めたようです」
余程その少年に執着していると見える。逃げ出したという報告を受けて安心していたが、これでは見付かるのも時間の問題だろう。
「……ローウェンよ」
「はっ」
王の後ろに影のように控えていた男が、静かに跪く。
「その少年の居場所は把握しているな」
「いまだ例の森に」
その言葉に、王はそっと目を伏せる。これも運命なのかもしれない。
「……その少年と少女、それから精霊ミラ殿をここに」
「拒否された場合は?」
「かまわぬ。安全な場所に避難させよ」
「仰せの通りに」
王は懐からお守りを取り出すと、ローウェンに手渡す。
「これを見せれば、私の使いだと分かるだろう。何としても、教会より早く接触するのだ」
「お任せ下さい」
ローウェンはお守りを受け取ると、深く頭を垂れる。そして、静かに姿を消した。
「……頼んだぞ」
残された王は、祈るように呟いた。
*****
目的の森近くの町に着いたローウェンは、教会の情報を集める。
教会が少年を探しているという噂は町全体に広がっており、中には既に発見に至ったという話もあった。
しかし、教会内で情報共有が出来ていないのか、未だに聞き込みは続けているようだ。
「先を越されたか……」
ローウェンは急ぎ森へ向かうと、その入口に人が集まっているのを見つけた。灰衣の神官の中には黒衣をまとっている者も見える。
「彼らも本気ということか」
情報収集だけならば、灰衣や白衣でこと足りる。黒衣までいるとなると、余程逃がしたくないらしい。
「さて、どうするか」
教会の者に見つかれば、森を強行突破するに違いない。こちら側に渡したくないのは、教会も同じだろう。
ローウェンは、王から預かったお守りに目を落とす。
このお守りには、気配を消す力が宿っているらしい。王から渡されたものを疑うつもりはないが、それでもこの小さな石にどれ程の力があるというのか。
「役に立つと良いが……」
ローウェンは半信半疑のまま、お守りを握りしめる。
すると――
周囲のざわめきが、ふっと遠のく。まるで、世界から切り離されたような静けさがそこにはあった。
「これは……」
すぐ近くを神官が通る。しかし、こちらのことを気にする素振りもない。
ローウェンは思わず息を呑んだ。
これなら、教会に気付かれずに森へ入ることができる。
ローウェンは改めてお守りを手放さぬよう握り直すと、森の奥へと急ぐのだった。
第三十五話でロウが初めて森に来た際の裏話です。




