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名を交わす精霊の森  作者: 葉月
第四章 静かな冬、芽吹く兆し

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第四章終話 やわらかな約束

 祭りの翌日、片付けを手伝うべく、再び町へと向かった。町はまだどこか浮き足立っていたが、灯篭はほとんど撤去され、屋台も解体が始まっている。


「なんだか、昨日の出来事が夢だったみたいだ」

「そうだね。私もお祭りの翌日はやっぱり寂しく思うよ。今年は特に」


 リアは、まだ僅かに置かれたままになっている灯篭に目を向ける。昨日は本当に綺麗だった。初めて見た町の灯篭もそうだったが、森で精霊たちがあんな風に花を照らしているところも今まで見たことがなかった。

 リアはその光景を思い出し、ほぅっとため息をつく。


「お姉ちゃん! 昨日の灯篭、きれいだったね!」


 視線に気が付いたのか、近くで片付けを手伝っていた女の子が話しかけてきた。その子も昨日初めて花灯りを見たらしい。「私と同じだね」とリアは笑って頷いた。

 町の灯りも勿論綺麗だった。けれど胸に残っているのは、昨夜森で見た花々を照らすやわらかな光だ。

 隣にはユノがいて、ミラが静かに揺れていた。ただ三人で並んで見上げただけの夜。それなのに、不思議と胸があたたかく満たされたのを覚えている。


 リアが最後の灯篭を持ち上げる。中の蝋燭は溶け切っていた。昨夜あれほど強く揺れていた火は、もう形も残っていない。


 耳をすませば、同じように片付けをしながら昨日の祭りの話をしている人々も結構いた。

 やれ、あそこの屋台はおいしかった。やれ、あの灯篭の彫りが美しかった。しかし、そんな話し声の中に気になる噂話をしている声があった。


「南の方は干ばつがひどいらしいぞ」

「北は雪が溶けないらしい」

「王が各地に視察に言ってるって話だ」

「それはご苦労なこった」


 祭りには多くの旅人も来ていたはずだから、その人たちから聞いた話なのだろう。どうやら各地の異変はこの町の周辺だけではないらしい。


「俺は教会の連中が異変を鎮めてるって聞いたぞ」

「神の恩寵なんだと」

「そりゃあ王サマよりよっぽど頼もしい」

「これで今年は豊作だといいな」


 そう言って誰かが笑うと、みな釣られて笑い合う。彼らにとって、教会はとても頼りになる存在なのだろう。リアの脳裏に浮かぶのは、冬の前に神の恩寵が直したという町の外灯。無理矢理抑え込まれ、僅かに暴れていた精霊の力。

 教会が動いているということは、この異変の原因は精霊なのか。もしも、あれが各地で行われているとしたら。


「リア、大丈夫?」


 気が付くと、ユノが顔を覗き込んでいた。どうやら今の話は聞いていなかったようだ。


「……うん、何でもないよ」


 ただの噂だ。本当は他愛のない、いつもよりちょっと雨が降らないとか、雪が残っているとか、その程度のことなのかもしれない。

 リアはミラの方をちらりと見る。ミラは何も言わない。町中なので当たり前だが、何も変わらない様子を良いように考えることにした。

 それでも、言い知れない不安だけが胸に残った。


 片付けの手伝いを終えると、日が傾く前に町を出る。森はいつもと変わらず穏やかだ。春の陽射しはやわらかく、風は暖かさを運んでくる。精霊たちも何も変わらない。リアはようやく安心できた。


「なんだか、片付けしてたら本当にお祭り終わっちゃったんだなって」

「そうだね。でも……また来年もやるよ」


 リアは迷いながらも、口にする。また来年、変わらない春が来ると信じて。


「また来年も行こう。夜まで」

「うん!」


 そんな約束を交わす二人の後ろで、ミラの光がやわらかく揺れた。

次回から新しい章です。花灯りの祭り早く書きたかったので、書ききれて良かったです。

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