幕間――聖具と呼ばれるもの
白い石で作られた地下礼拝堂は薄暗く、冷たい空気だけが漂っている。祭壇に置かれたのは、人の背丈ほどもある杖だった。
複雑な文様と聖句が刻まれ、その中心には核となる結晶が嵌め込まれている。その前には、連れてこられた時と同じように少年が跪かされていた。
「神の恩寵は安定しています」
そう告げた神官の声は、祈りではなく報告だった。
結晶の内側で、力を持った光が脈打つ。
「よろしい、それではこれから最終調整を始める」
それは精霊の輝きだった。押し込められた精霊の力が、結晶の内側で渦巻いている。
「……ノイズが出ていますが、許容範囲です」
別の神官が計測器を確認しながら淡々と告げる。
神官がノイズと呼んだもの。他の人には聞こえない、計測器でしか見えないそれは、確かに少年の耳に叫びとして届いていた。
精霊の力は外へ出ようとして弾かれ、無理矢理器具の回路へと流し込まれる。
精霊が力を放出する度に薄暗い部屋を照らしていたが、その光は戻ることなく削がれ、やがて淡い光を放つだけになった。
耳を塞ぎたくなるような声を聞きながら、少年はそれをじっと見つめていた。
拘束されている訳ではない。ただ、動けなかった。呼吸だけが浅くなっている。それに合わせるように、淡い光も微かに脈打っていた。
胸の奥が、痛い。
精霊の痛みが、苦しみが、少年に伝わってくる。
「安心しなさい、神の御業だ」
その言葉と同時に、杖が強く輝いた。結晶の中の光は沈黙している。それは静まったのではなく、声を上げる力を失っただけだった。
これが神から与えられたものだと言うのか。こんな残酷なものが。
耐えきれなくなった少年はそのまま床に倒れ込んだ。
「……問題ありません。神の恩寵として賜りましょう」
「ならば民に神の奇跡を」
神官たちは頷き、帳簿に印を付ける。
床に倒れた少年には、誰も手を差し出さない。祭壇に置かれた杖は丁重に下ろされ、どこかへと運ばれて行った。
神は今日も我々のそばに。
神官たちは今日も祈りを捧げる。
神って便利な言葉ですね。
神官怖い。




