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名を交わす精霊の森  作者: 葉月
第一章 境界の森

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幕間――聖具と呼ばれるもの

 白い石で作られた地下礼拝堂は薄暗く、冷たい空気だけが漂っている。祭壇に置かれたのは、人の背丈ほどもある杖だった。

 複雑な文様と聖句が刻まれ、その中心には核となる結晶が嵌め込まれている。その前には、連れてこられた時と同じように少年が跪かされていた。


「神の恩寵は安定しています」


 そう告げた神官の声は、祈りではなく報告だった。

 結晶の内側で、力を持った光が脈打つ。


「よろしい、それではこれから最終調整を始める」


 それは精霊の輝きだった。押し込められた精霊の力が、結晶の内側で渦巻いている。


「……ノイズが出ていますが、許容範囲です」


 別の神官が計測器を確認しながら淡々と告げる。

 神官がノイズと呼んだもの。他の人には聞こえない、計測器でしか見えないそれは、確かに少年の耳に叫びとして届いていた。


 精霊の力は外へ出ようとして弾かれ、無理矢理器具の回路へと流し込まれる。


 精霊が力を放出する度に薄暗い部屋を照らしていたが、その光は戻ることなく削がれ、やがて淡い光を放つだけになった。

 耳を塞ぎたくなるような声を聞きながら、少年はそれをじっと見つめていた。


 拘束されている訳ではない。ただ、動けなかった。呼吸だけが浅くなっている。それに合わせるように、淡い光も微かに脈打っていた。

 胸の奥が、痛い。

 精霊の痛みが、苦しみが、少年に伝わってくる。


「安心しなさい、神の御業だ」


 その言葉と同時に、杖が強く輝いた。結晶の中の光は沈黙している。それは静まったのではなく、声を上げる力を失っただけだった。

 これが神から与えられたものだと言うのか。こんな残酷なものが。

 耐えきれなくなった少年はそのまま床に倒れ込んだ。


「……問題ありません。神の恩寵として賜りましょう」

「ならば民に神の奇跡を」


 神官たちは頷き、帳簿に印を付ける。


 床に倒れた少年には、誰も手を差し出さない。祭壇に置かれた杖は丁重に下ろされ、どこかへと運ばれて行った。


 神は今日も我々のそばに。

 神官たちは今日も祈りを捧げる。

神って便利な言葉ですね。

神官怖い。

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