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名を交わす精霊の森  作者: 葉月
第四章 静かな冬、芽吹く兆し

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第二十四話 小さな決意

 リアが完全に寝たのを確認してから、ユノはそっと自分の裾を掴んでいた手を離した。まだ熱は下がる様子がなく、寝ながらも浅い呼吸を繰り返している。

 その様子をしばらく見ていたユノだったが、一つ頷くと、決意のこもった目でミラを見た。


「ミラ、僕に薬の作り方を教えて」

「……本気ですか」

「うん」


 その目に迷いはなかった。怖くないわけではない。素人の自分にちゃんとした薬が作れるのかも分からない。それでもリアが薬を作るところはずっと見てきた。ミラもいる。きっと、出来る。


「……では、まずは薬草を取りに行きましょう」


 ユノの決意に目を見張りながらも、ミラは承諾した。

 雨が上がったばかりの森は、まだ少し肌寒かった。太陽は顔を出してきているが、足元はぬかるんでおり、踏む度に僅かに沈む。

 水溜まりを避けながら、ミラの後をしばらくついて行くと、低木のそばで止まった。


「まずはこの薬草です」

「これはどんな効能があるの?」

「こちらは解熱剤に使います。今日はそれと、恐らく先程の声だと喉も痛めているはずなのでハーブティーを用意しましょう」

「わかった」


 やはり、ミラがいると心強い。自分で薬を作ると言っておきながら、リアの容態すら把握していなかったことを恥ずかしく思う。ユノはミラに示された薬草を丁寧に摘み取った。

 そういえば、と思い出し、リアがやっていたように根元の土を撫でる。


「ありがとう」


 葉が返事をするように微かに揺れる。ミラはそれを見て、目を細めた。こうしてやり方が受け継がれていくのも人間ならではかもしれない。


「形が似てる葉もよくありますからね。香りもよく覚えておくといいですよ」

「……匂いだけで苦そうな感じがする」


 ミラはその素直な感想に小さく笑う。薬草は色々な種類があるので、覚えるのは大変だ。人にどんな香りか教えてもらうよりも、実際自分で嗅いでみた感想の方が覚えやすかったりもする。


「次はハーブティーですね。今日はこの二種類を入れましょう」

「こっちは果物みたいな良い香りがするけど、これはなんだか鼻の奥がすっとするね」

「そうですね、鼻詰まりにも効きますよ」

「そうなんだ」


 ユノは形や匂いを確認して薬草を集めていく。ミラは間違っている時は教えてくれるが、基本的には口を出さなかった。それが信頼されているようで少し嬉しい。

 小屋に戻り、採ってきた薬草を丁寧に洗う。解熱剤に使う薬草の方は、鍋に水を張り、その中に入れた。今回は煎じ薬だ。


「火加減には注意してください。弱火でじっくり煮込みます」

「強いとどうなるの?」

「熱で効果が薄まります」


 それを聞いて、慎重に薪を用意する。火が強くなり過ぎないように、薪の量を調整して火をつけた。火の勢いが弱いことを確認してから、ハーブティーにも取り掛かる。


「本当は乾燥させてから使うのが良いんですけどね。今日は焙煎しましょう」


 ユノは言われた通りに片手鍋を用意し、薬草の水気を取ると焦がさないように炒る。その間も鍋に目を配り、火を調整してたまにかき混ぜた。


「解熱はそろそろ良いでしょう。ハーブティーの薬草はすり潰してティーポットに入れましょう」


 ユノは指示された通りに薬を準備していく。解熱剤は椀によそって、ハーブティーもリアの所へ持っていく間に抽出されるだろう。


「出来た……」

「初めてにしては上出来ですね」


 本当にそうだろうか? それでも持って行くしかない。ミラがこう言ってくれているのだから、と自分に言い聞かせる。


 部屋に入る前に念の為ノックをした。すると、扉の向こうからバタバタと音がする。どうやら起きていたようだ。


「ちょ、ちょっと待って……!」


 しばらくすると、リアが扉を開けてくれた。寝ていたからか、少し髪が乱れている。


「ごめん、ちょっと汗かいたから着替えてて……」

「あ、ご、ごめん!」


 そうか、そういうこともあるのか。ユノは部屋に入る時は必ずノックを忘れないようにしようと、心に誓った。ミラが手早くベッドを整えると、再び横になるよう促す。リアはまだ熱が高いようで辛そうだった。


「これ、飲めそう?」


 ユノはリアがベッドに入るのを確認してから、椀を手渡した。リアは目を丸くしてユノを見る。


「もしかして、ユノが作ったの?」

「うん、ミラに教えてもらいながらだから、たぶん大丈夫だと思うんだけど……」

「ありがとう」


 リアは椀の中身を確認して、一気に飲み干した。そして、顔をしかめる。


「……苦い」

「だ、大丈夫?」

「でも……」


 ユノが心配そうに覗き込むと、リアは少し微笑む。何かを思い出しているような、懐かしむような顔。


「優しい味」


 それは、熱にうなされて見た夢。母が作ってくれた薬の味。いつもは自分で作るから忘れていた。誰かを思いながら作ってくれた薬は、こんなに優しい味だったということを。


「今すぐにでも治っちゃいそう」

「本当?」

「だって、ユノが私のために作ってくれたんだから」


 ユノはその言葉に、作って良かったと心から思った。少しでも早く、リアの風邪が良くなりますように。そう願いながら、ハーブティーをカップに注いだ。


「もう少し眠るね」


 リアがハーブティーを飲み終え、 少し安心したように目を閉じる。ユノは椅子に座ったまま、小さく息を吐いた。


「今日は、あなたがついていてあげてください」


 ミラの言葉に、ユノは一瞬自分で良いのかという不安が過ぎるが、小さく頷いた。まだ熱は下がらない。それでも、自分に出来ることをやっていく。

 窓の外では、暖かい春の風が吹き始めていた。

薬の作り方なんて知らないので信用しないでくださいね。素人が薬作っちゃダメ、ぜったい。

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